いい歳こいてダンジョンか?
農村を出て途中、野営一泊。
特に変わる事も無く、国境の町。城塞都市【コズクラ】に到着した。
ぐるりと大きなレンガのようなものが積まれた城壁に囲まれ、国境の町ならではの堅牢さを見て取れる。戦ともなれば前線基地の砦となる。
「ほう。ここの城壁も立派じゃな……焼きレンガ?……版築(土を突き固めた壁)かの?」
「いや、これは魔法……土の形成魔法だね。古い時代の建物だねぇ。よくもまぁ、今でも保ってるものだ」
「アールもできるのかの? これ?」
「こんなに広いと無理だね。途中で飽きる」
「飽きる……のかよ。まぁ……分からなくもないがの」
「そもそも僕はあまり土魔法は得意じゃないのだよ。風魔法が得意かなぁ」
「他にどんなのがあるんだ?」
「う~~ん。僕は精霊魔法だからね。どんなものでもあるよ? どんなものにも精霊様は宿るからね」
「なるほどのぉ。じゃ、草を伸ばしたりも?」
「うんうん。そういった事が上手な人もいるね。あ、この場合の人とはエルフ族だよ。そうそう、城壁なら、親方たちに頼む方が早いよ?」
「うむ。ワシらドワーフ族は土の精霊様と火の精霊様をお祀りしておるでの」
「カンイチも魔法使い目指す? 魔力も十分あるしぃ」
「わしが目指すのは、この世界一の農家じゃ!」
「……うん。それでいいよ。カンイチは……」
「……うむ。じゃの。カンイチは」
「うん?」
……
「エルフ殿、滞在はいかほどに?」
入町審査に臨むカンイチ一行。
どうしてもアールカエフは目立つ。
「そうだねぇ。気分次第? 先に言っておくけど、今は定住は無いよ! これからダンジョンを覗きに行くんだ! 楽しみさ! 補給と休息が取れればすぐに立つよ」
「……それは残念です」
「しかし……すごい陣容ですな……ダンジョンの深いところも覗けそうでご座いますね」
身分証を確認する門兵。ふと、和む……
「……」
それをみてぶすっとするイザーク。彼の”鉄”の身分証だ……。
「おいおい。機嫌直せよ。イザーク。くっくっく」
「別に……。でも、顔に出さなくともいいじゃないですか」
「イザーク君、わしの身分証かも知れんぞ? 今じゃ、アールの婿じゃし?」
「……あ。そうですね」
表情がぱっと明るくなるイザーク。単純である。
「もっともワシはどうでもええがの。さて……と。宿を探すかの」
「貸家聞いてみよう。一週間くらいいるんだろ? ここなら(鍛冶師)ギルドもあるだろうし? なぁ、親父?」
「ふぅむ。そうじゃな。人数も多いし……その方がええな。」
「ギルド……?」
ギルドと聞いてピクリと反応する
「うん。鍛冶師のね。結構金回りの良いギルドだから遊んでる家の一軒や、二軒あると思うよ? 無ければ商人ギルドに行けばいいし」
「おお! ミスリールはそのギルドに?」
「うん。親父も母ちゃんもね。うち、鍛冶屋だし」
「そじゃったな……」
――最近、親方は鉄ではなく人を打ってるでのぉ……すっかり忘れていたわい
と、物騒なことを考えるカンイチ。
鍛冶師として、高名な親方、個別販売等直接商売もしている。よって、鍛冶師ギルドと、商業に関わる商人ギルドに所属している。
カンイチ達はここで休暇を取ることに。クマ達も一緒に長期滞在できる宿屋、貸家があればだが。町の規模も大きいし、交易都市である。物の流通も多く、退屈しないだろうと。
”がんらばらんらら……♪”
「いらっしゃいませぇ。鍛冶師ギルドにようこそ。親方衆ですね」
「うんむ。ギルド長か、その下の……ま、偉いもんはおるか?」
「身分証よろしいでしょうか?……はい。ダイインドゥ様ですね。少々お待ちください」
身分証を見て、小走りに奥に行く受付嬢。受付嬢、目に付く事務員は皆、普通の人族だ。
「うん? 親方、知り合いがいるのかの?」
「どうじゃろかの? 十年くらい前まではおったがのぉ。ま、一人くらいはおるじゃろがの」
”どがどがどがどが!” ”どん!”
大きな足音と共に、扉が吹きとぶように開けられる……が、誰もいない。いや、背の低い白髭の老人。ドワーフ族だ。
「おうおう! ダイインドゥ! 久しぶりじゃの! ディアンも一緒か!」
「おう! まだ、生きておったか! 爺様!」
がっしりと抱き合うドワーフ達。
「よぉおぉおし! 再会を祝して一杯行こうぞ! ナラ(受付の女性・人族)! ドノヴァンのジジィにも知らせてやっておくれ! そうさのぉ……『ディチェーコ』におるでの! さぁさ! 征こうぞ!!!」
「おう! 爺様ぁ! 久しぶりだなぁ! オレの娘のミスリールだ。親父に似て鍛冶と、細工物が得意だ!」
「初めまして! ドルトゥムントの爺様! ミスリールです」
「おうおう! なかなかの別嬪じゃ! 鍛冶師とは結構結構! よし! 酒じゃ!」
「うんむ。酒もええが、その前に相談じゃ! 爺様!」
「うんむ? なんじゃ?」
「ギルド所有の貸家、あるかの? ワシら、ダンジョン覗きに行こうと思うての。ほれ。仲間達じゃ」
「なるほどの。……いい歳こいてダンジョンか?」
「爺様には言われたくないの。ま、そんな訳で、途中のこの町で休憩せようとおもってのぉ」
「ふんむぅ……」
腕を組んで少々考え込む老ドワーフ。
「老師様、去年買い取った貴族の別荘……あそこなら広くていいのでは? 管理人も置いてるから奇麗ですし?」
と、ナラ女史が耳打ちを。
「そうじゃ! あったのぉ、そんなもん……。うん? もう売っぱらったと思ってたぞい?」
「……もう。年度末の会議で『宿泊施設』に改造するって決めたでしょうに……老師様」
「そうじゃったけか? ……ま、都合がええの! そこ使え! ダイインドゥ!」
「おう! で幾らじゃ?」
「構わん、構わん。どうせ一年もおるまいて。自由に使え! ぃよっしゃ! 家、案内して酒じゃ! 酒ぇ!」
「では、老師様はここでお待ちください。私が案内してきますから」
「む? 何でじゃ?」
「老師様は早く早くとせっつくでしょ? ダイインドゥ様は到着したばかり。ひと時の休憩も要りましょう? 老師様はお仲間の親方衆に声を掛けられたらいかがでしょうか?」
「なるほど……の。じゃ、日が暮れたらディチェーコに集合じゃ! 客人も来るとええ! 歓迎しよう! ではの!」
”どすどすどすどす……”
そう言って、奥に駆けてゆく老ドワーフ。とってもパワフルで元気だ。
「じゃ、参りましょうか。ダイインドゥ様」
「うんむ。が、良いのか? 爺様はああはいったがのぉ……」
「はい。問題ありませんよ。遊んでる施設ですし。それに、初めまして、アールカエフ様。ご案内出来る事、光栄にございます」
「うん? そう? それは良かった! うんうん!」
「……アールよ」
「では参りましょう。馬番もおりますので。そのままで」
――ほぅ。この女性は出来る……のぉ。知性が感じられるわい。感心感心
と妙なところに感心しているカンイチだった。




