……そうじゃな
……
たった一人で賊を半壊させたカンイチ。残った賊はただぐるりと囲み動く気配はない。
「うん? よそ見していて良いのかの?」
「何?!」
”めしゃああぁ”
ダイインドゥのバトル・ハンマがカンイチを遠巻にしていた賊の頭部を捉える!
「んな! き、貴様!」
「アンタの相手はオレだよ! ふん!」
「へ?」
”ぼちゅきゅぅぅお!”
驚いた表情を張り付けたまま飛んでいく首。ディアンの一撃だ
「よぉし! 殲滅だ! カンイチはもういいぞ!」
「ふっ、心配無用じゃ! さっさと殲滅してアジトじゃ! ”案内人”残せよ! ガハルトよ!」
「おうよ!」
戦意を失った盗賊連中などこのメンバーには相手にすらならない。逆に蹂躙されるのみ。あっという間に一人を残し、屍に変わる
「良し! ……で、”案内人”殿。アジトまで頼むぞ……。案内するまで一寸刻みじゃ!」
「!!!」
カンイチに凄まれコクコクと頷く案内人。もはや、終わりは見えている。盗賊は打ち首。留守番の連中がこの連中に敵わないことも理解している。であれば、死ぬ前にわざわざ苦しむこともないと。
ここのアジトも、前回同様、奇麗にカモフラージュされたテント村。居残りが10人ほどいたが、カンイチ達にあっさりと制圧され、屍に。
幸い、この現場には女性の影は無かった。そこそこの貴金属はあったが、今までに比べ少ない。多くの食料品がある事から、”出張場”なのだろう。本拠地はどこか違う場所にある。
もっとも、殲滅した後、たどることはできないが。
「今回は身入りが少ないな……」
「仕方あるまいよ。じゃが、よく考えれば、他所に本拠地があるというのは当然と言えば当然じゃな……こんな奴らだって生活があろう。……女房子供だっているやも知れん」
「まぁな。が、いくら賊の子でも、乳飲み子やら幼子は斬りたくない。この辺が良い所だろう? カンイチ」
「……そうじゃな」
――恨み……今後の憂いにもなる。が、しかし……ガハルトの言う通りじゃな)
「お~い! 火ぃ着けるぞ~」
「応! 頼む! 親方!」
逆恨み……とはいえ、肉親が殺されれれば賊の子だって恨みにも思うだろう、何とも複雑な表情のカンイチ。その背を”ばん!” と叩くガハルト。
「そうじゃな……」
降りかかる火の粉は除けるのみ……
……
「次……ん、貴殿らは商人……では無いな……」
独自の手信号でもあるのだろうか。応援の兵が控室より出てくる。ここは、カブジリカ国の国境門。
「……ガハルトの強面のせいじゃな」
と、ぼそり。
「ほっとけ! お察しの通り、俺達は冒険者の一団だ。アマナシャーゴ国のダンジョンに行く途中だ。通過を許可願いたい!」
「では、身分証の提示を……! ……き、貴殿がガハルト殿か! 武人としての勇名、轟いていますぞ!」
ガハルトと知って興奮気味の隊長。
「た、隊長」
「……こ、こほん。……失礼仕った。では皆様の身分証も。その後は判定機に触れて頂いて何も無ければ許可します」
「うん? 僕も触るのかい?」
馬車の隙間から顔を出す、翡翠色の髪の少女。さっぱり歩かないアールカエフ。
「! そ、その髪色……あ、アールカエフ様……でしょうや? 身分証の提示だけで結構でございます」
「うんうん! よくできた門衛さんだね! サヴァ国の門衛にも見習ってほしいものだよ!」
「……アールよ。ま、ええなら、ええんじゃが……」
各々、身分証を呈示。イザーク君、ダイ一家もガハルトのチームの一員ということで問題なく通過。
「そうじゃ、この女性たちについてじゃが……」
盗賊撃破の報告と”首”の提出。捕虜だった女性を門衛に託す。
「承った。今、”鑑定師”を呼びにやっている。それで”討伐証明”が発行されるので、大きな町の役所で報奨金を請求してほしい」
「わかった。では、そこの隅で休憩させていただく」
ポケットから小さな袋を出し、捕虜だった女性に渡す。中身は金貨10枚ずつ。
「少ないが、生活の足しにしておくれ」
「お世話になりました……」
「……あ、ありがとう……」
「じゃ、元気での……」
「カンイチ? どうした?」
「いや、何でもない……。さ、お茶でも飲もうか」
……
「お待たせし申した。これが、『討伐証明』になります。こちらの盗賊に関しては、個人共に、”盗賊団”に対しての報賞も出ております。御助力ありがとうございました」
「返り討ちにしたまで。では、通行しても?」
「はい。……で、時間がおありでしたら、わが国の特使と会って頂けないかと……」
「いや、今回は遠慮させていただこう。一刻も早くダンジョンに入りたいからな。では失礼する!」
……
「勧誘かね?」
「だろうな。ハイエルフのアール様が町を出るなんて、そうそうないからな」
「ふ~ん……そんなに出不精って有名なんじゃなぁ」
「いや、アール様に限ったことじゃない。エルフの方々は一回根を下ろすと余程の事が無い限り移動されん。もちろん偶の旅行やらはされるぞ」
「……なるほどの。アールも偶に王都に行くと言っておったの。種族特性か?」
「かもしれんな。植物のように?」
「まぁね~。そんなもんだよ?」
いつの間にやら、ハクの背にアールカエフが。
「お? 聞いていたのかアール」
「うん。僕たちは、大抵、研究のために国から外に出てくるんだよ。その研究に合った土地を見つければ研究所を建てる。僕達長命種だろ? するとサンプルやら、書類、書籍、実験器具……荷物も増えるというもんだ。正確には移動しないんじゃなく、移動できない……が正解だね」
ふと、アールカエフの家を思い出すカンイチ。家の敷地を埋め尽くすガラクタの山々を。
今でこそ、”無限収納”を持つカンイチと、大きな”収納”を持つアールカエフ(魔改造で容量アップ)が”収納”に納めているが、これを一人で持って歩くのはそれ相応のマジックバッグが複数必要だ。
「もちろん、大きな”収納”持ちや、マジックバッグ持ちはフラフラ何時までも放浪してる連中もいるよ?」
「アールは……ガラクタじゃな?」
「失礼だね! ちゃんと研究成果は出てるだろう? 風呂だって入りたいときに入ってるだろうに!」
「うむ! すまん! 大変世話になっておる! ありがたやぁ!」
「だろ! それに、ガラクタだって相応の魔石を嵌めれば動くものばかりだよ?」
「……なんで疑問形じゃ? ……ぼん! と爆発せんか?」
「……そういうのもある。偶に?」
「ダメじゃろが……」
「失敗は成功への架け橋さ! そのためにもバンバン魔石を集めてくれたまえ! 僕の生活が華やかに……僕達だね。カンイチ!」
「……了解じゃ。アール」
「くっくっく。お熱いことで。で、次に目指すのは国境の町だな」
「うむ。休暇を取ろう。ミスリールの言う通り、ギルドで貸家を借りられればええのぉ。そろそろ親方たちにも落ち着いて酒飲まさんとのぉ……」
「……だな。少々、不憫だわなぁ」




