斬って斬って斬りまくれ!
……
旅の仲間に盗賊の捕虜となっていた女性二人を加え、カブジリカ国の国境を目指す。
女性たちも大分落ち着いてきたようだが、一人は心を閉ざしてしまってるようだ。余程、酷い目に合ったのだろう。
二人とも赤の他人でそれぞれ別の商隊に所属していたらしい。他にも女性が居たが、他の賊に売られたそうだ。仲間の男連中は皆殺しになったという。
護衛は雇わなかったかと聞いたら、どうやら盗賊とグルだったらしい。冒険者だったということで街で訴えを起こすというが……
「とんだ屑じゃな……そいつら」
「ま、実際少なくはないぞ。そういった屑は。賊と示し合わせた場所に連れて行き、置いて逃げる」
「そうなんですか? ガハルトさん? それってちゃんとした依頼……ですよね?」
「ああ。置いて来るだけだったら判定石にも反応しないようだしな……質が悪いわ!」
「え? ええ!? そうはいっても、護衛任務失敗。経歴に傷がつくでしょ?」
「が、拠点変えたり、依頼料安くしたりとな。出来れば護衛依頼は『商人ギルド』所属の隊を使った方が良いが……依頼料高いからな。あちらは。出自もしっかり調べられている。冒険者ギルドとは大きな違いだな」
――なるほど……ワシだって、簡単な試験で身分証貰えたものな……身元なんか無いしの?
「しかし……賊というのも腹立たしいの……」
「まぁなぁ。一回、手を染めちまうとなぁ。楽にカネが手に入るし、それに二度と普通の生活に戻れない。ほれ、町や村には判定機があるからな」
「ふぅむ……」
「ま、考えても仕方なしだ。相手から仕掛けてくるんだ。死にたくなけりゃ、……大事な人を奪われ、汚されたくなきゃ、斬るのみさ。遠慮は無用! 斬って斬って斬りまくれ!」
「じゃな」
『当たり前であろうが。我に一切の躊躇は無いぞ。その甘い感情は不要、さっさと捨てると良い』
「うむ。ちょっと振って来る」
”収納”から散弾銃を出し、肩に担ぐ。
「おう!」
「あ! 師匠! オレも!」
……
草原に『えい!』 『えい!』と気合が入ったカンイチとミスリールの掛け声が響く。
己を奮い立たせるように。情け無用!
そして戦時中の勘を取り戻すように……迷いを断つように……そして、大切なものを守るために
……
もう少しで国境門の城壁という所で、再び盗賊の襲撃を受けることに。
「金目のものは全部、置いて行けぇ! 女ぁ、女もだぁ!」
「さもねぇと、皆殺しだぁ!」
「くっくっく、男は用なしだがなぁ!」
「聞いているのかぁ! ぅうん? なんだぁ?」
自分たちのただ蹂躙される”獲物”から、ものすごい勢いで突っ込んで来る一人の青年。
そう、カンイチだ!
馬に跨った頭目の目の前、3mの所で跳躍、その勢いのまま飛び蹴りを頭目の顔面に当て蹴り落とす。
”どざざぁ!”
「げぶぅ! こ、小僧! この ”ぶしゅ!” びゅるぅ……」
上体をおこし、カンイチに掴みかかろうと手を伸ばした頭目。その喉に深々と刺さる銃剣。
”びくり!”
「か、頭ぁ!? こ、このぉ! クソガキがぁ!」
馬上の有利をすて、地に降りカンイチに迫る。いかんせんカンイチは小さい。
チョロチョロ動き回るカンイチを斬り払おうと剣を振る副頭目。その切り下しを躱し、懐に潜り込み銃尻を鳩尾に一発! 前のめりに倒れたところを、銃床で顎をカチ上げる!
”ぐ、ぐごきん!”
頸骨が粉砕され、真上を向き、そのまま崩れ落ちる。
近くにいた賊が武器を抜こうと腰の剣に手を掛けるも、剣を抜く前に、
”どごぉん!”
久しぶりに放たれたスラッグ弾を腹部に喰らい、臓物を撒き散らしながら後方に吹き飛ぶ。
「ひ! こ、この野郎 ”どっごぉーーん!” げぶぅぅ。」
「げぇ!?」
「いぐぅ?」
今度は至近距離から12粒の散弾が放たれ、3人の賊が小さな穴から血を吹きながら倒れる。
「ま、魔法使いか!」
「弓使え! 弓!」
少し離れたところで慌てて背負っていた弓を取り出す賊。
”どごぉん!” ”どごぉぉん!”
その集団に再び12粒の散弾、二発、24粒の鉛玉が撒かれる。真正面から喰らったものは、顔面、上半身にいくつもの小さい穴を開けられ倒れる。他の者も手や腹を負傷し、膝を突く。
「くそぉ!」
背後からとびかかって来た大男、
”どごぉーーーーん!”
カンイチに届く前に、スラッグ弾、フォスター型と言われる弾頭でその巨体を後方に吹き飛ばす。腹あての金属を内臓に巻き込みながら。
「あ、あがががが……? ば、化け物 ”ぶしゅ!” ……」
「”ぶすぅ!” あぐぅ!」
先ほど、散弾で負傷した賊、二人にとどめを刺す。
「くそがぁ! ”ぼき!” あぐぅ!」
駆け寄った賊の剣を銃身で下方に流し、右肘を相手の左肩口、鎖骨に叩き込む。クルリと回した散弾銃、下から垂直に銃尻を顎に叩き込む。その場で1mも浮き上がる賊。顎は割れ、首の骨も完全に砕かれる。
「あ……ああぁ!」
恐怖に押され、突きを繰り出してきた賊の手首を左手で掴み、剣の柄を右手で。そのまま手首を”ごきり!” 砕き、砕いた手首を支点に切先をそのまま相手の喉に突き立てる。
”ぶしゅうう!”
この頃になると、賊も戦意喪失……。たった一人の青年に頭目、副頭目、その護衛らが一瞬で屠られてしまったのだ。周りをぐるりと囲って微動だにしない。
「すげぇな! カンイチ! ああやって戦うのか。あれがアンタが言ってたアーティファクトかい?」
興奮して声を上げるはディアン。
「ああ……すげぇな。……師匠」
憧れの眼差しでカンイチを見るミスリール。自然に得物のアーバレストを引っ張り出してカンイチの動きに合わせて振る
「うんむ。しかし、うちの大将はどうしちまったんじゃ? いつもはあまり乗り気でなかったのにのぉ」
ダイインドゥは不思議そうに見守る。カンイチはいつも最後について来るだけだった。
「ふん。やっと、腹を括ったんだろうさ。生きるため……守るため……にな」
チラと、フジと戯れるアールカエフに目をやるガハルト。
「なるほどのぉ」
「男前だねぇ!」
「……守るため……か……」
グッと握りこぶしに力を入れるイザーク。いつか俺も! と。
「よし! 我等も続くか! サッサと剥いて! アジトだ!」
{おう!}




