師匠! オレも!
……
その晩の夜。野営地にて。
就寝前に中央の幌馬車に集まり、軽く酒を出して懇親会。話題は、そう、先ほどの騎士たちの件だ。こちらとしてはまったく納得は出来ないが、サヴァ国から見れば立派な”国境破り”になるだろう。
「大丈夫だろう? サヴァ国に再び足を踏みこまなけりゃ」
と、特に関心も無しのガハルト。
「でも、近隣国に……カブジリカ国に手配されるんじゃ? ガハルトさん?」
と、イザーク。
「ガハルト殿の言う通りじゃな。仕掛けてくるとしたら、他国に入るまで……この緩衝地内までじゃろ」
「でも、親方、指名手配は?」
「それよ、イザーク。その手配を受けたカブジリカ国はどう思う?」
と、グビリと蒸留酒を飲み、ディアンがダイインドゥに代わってイザークに問う。
「ディアンさん? ……」
……暫しの時。
「……あ! そうか……アール様大歓迎! ってなりますね」
「うむ。その通りじゃ。それにフェンリルのフジ殿も一緒ということくらい、各国の諜報は掴んどるじゃろ? ならば答えは至極簡単じゃ」
と、ダイインドゥがディアンの話を引きつぐ
「くっくっく、王が、御自ら、門まで俺達を迎えに来てるかもしれんぞ? イザーク」
美味そうに杯を空けるガハルト。
「んじゃぁ、ガハルトよ。このまま追手に警戒して北上でええのか?」
「おう、カンイチ。それでよかろうさ」
「……はぁ。……でも……俺……このチームに居るんだなぁ……」
しみじみと見まわすイザーク君。ガハルト、ディアンと”金”の冒険者。ダイインドゥの勇名もそれに劣らない。それに、魔獣のフェンリル、ハイ・エルフのアールカエフ。今は、爆睡していていこの場には居ないが。一番年も近い? カンイチは、他所の星出身の加護持ち……しかも凄腕だ。
「大層な出世じゃな! イザーク君! はっはっは!」
「笑い事じゃないですよ……これって、カンイチさんがよく言う、他人の褌で……ってやつでしょ?」
「そうじゃなぁ。フジとアールの名はデカいでな。ま、それがわかってるのなら上等じゃ、イザーク君! 地道に行こう!」
「そうですね……」
カンイチさんもですよ……と。ぼそり。
……
”がたごとがたごとがたごと……”
国境の緩衝地帯を進むカンイチ一行。
緩衝地というものは向かい合った国の城壁の間。間と言っても馬車で3~4日は要する。有事の際、真っ先にラッパ吹いての合戦場になる場所だ。
サヴァ国と、今向かっているカブジリカ国は国交も正常。戦争もしていないので緩衝地自体が平和だ。街道もよく整備されているし、冒険者や狩人たちの良い稼ぎ場となっている。
こういった緩い国境線は盗賊等の出現も多い訳で……
「おい! とまれぇ!」
二頭の馬に跨った巨漢。と参謀役か? 痩せた男が一人。それを囲む、20人余りの男が馬車の行く手を阻む。
「どうする? カンイチ?」
穏やかにカンイチに声をかけるガハルト。その手には既にバスターソードが握られている。その笑顔も凶悪に歪む。
「……またかよ。どうにも何も……ガハルト……殺る気、満々だな!」
品定めでもするかのように盗賊の一人一人を見ていくガハルト
まったく恐れなどはない。人の”限界”を超えたこの身体。これだけいても何とかなろうと
それに頼れる仲間もいる
「弓持ちは……あいつだけか? ミスリール! やれるか?」
「おう! いけるよ! ガハルトさん! 頭もやっちゃうよ?」
「おう! 構わん! 一人残して殲滅だ! 行くぞ! カンイチ!」
「……わし……要るかのぉ」
「よっしゃ! ワシらもいくかの! ディアンよ!」
「ああ! アンタ! ワクワクするねぇ! この旅は!」
「うんむ! こんな金も無さそうで、ガハルト殿がおる馬車を襲うなどと。頭をカチ割って脳みそ見てみたいわい!」
ダイインドゥ夫妻も極悪な武器を構える。さすが鍛冶師。整備も万全。先の盗賊を破壊した時の痕跡も全く残っていない。血くもりすら。
「がんばれーー! 僕はフジ殿と一緒に遊んでるよ? ……そうだ! イザック君 「イザーク君じゃ」 ……を守ろう!」
「まったく……イザーク君。アールを頼むぞ」
「はい!」
……
「どぉうしたぁ! 怖くてションベン漏らして ”どしゅ!” ”ぶす!” ……べひゅ?」
”どざん!”
馬から巨漢の男が転げ落ちる。額に極太矢を突き立てて。
「な! 頭ぁ! ど、どうしたんで!?」
「頭! あ! 矢!? ど、何処から?」
「頭ぁ!」
頼れる頭が額に矢を生やして微動だにしない。しかも矢は、いつ、どこから? 賊はすでに大混乱だ。
「ぐろろろろぉぉぉぉ! よぉし! 行くぞぉ!」
「「おう!」」
「……おう」
すでに剣を上段に構え、賊の中に突っ込んでいくガハルト。同時に3人の賊が息絶える。
何時ぞやの賊と同様、混乱しているところにガハルト、ダイ、ディアンが突っ込む。唯一の弓持ちも既にミスリールに額を打ち抜かれ、地に転がっている。
「はぁあ!」
”ぼきゃ!”
大斧のぶん回し! 数人の賊がまとめて破壊される。辺りには上半身、腕が散らばる。
「ふんぬぅ!」
”ぼっきょ!” ”ばく!”
横薙ぎに食らったものは首が伸びそのままの体勢で横に飛び、頭頂に食らったものは脳漿をぶちまけながら随分と小ぶりに……。
「やれやれじゃわい……ふん!」
怯える若い賊の鳩尾に銃床を叩き込む。カンイチ。彼が今日の”案内人”に選出されたようだ
「ぐでぇぇげ……げはぁ!」
腹を押さえ、蹲る賊。そのまま背を踏み押さえ、”収納”から縄を出し、拘束する。自害防止の猿轡を噛ませ、転がす。
「師匠! オレも!」
「あ……」
カンイチが制止しようと手を伸ばすも、ミスリールが近くの賊の鳩尾にアーバレストの銃尻を叩き込む。カンイチの教え通り、ねじ込むように。カチ上げるように。正にロケットのように垂直に持ち上がる賊。
”ぼきょ! ごきん! ばきゃばきばきゃん!”
何かが折れる盛大な音が響く……
「がぼぉぉおお……」
大量の血へどを吐きだす賊。
即死! 恐らくは内臓破裂。いや、胴体破裂といってもいいだろう。アバラのほとんども持っていかれただろう。カンイチとの違い、そのミスリールの小さな体に秘められたドワーフ族の剛力!
「あれ? 気絶させようと思ったのだけど……いい角度で入った?」
ぶんぶんと得物のアーバレストを振るミスリール。
「打撃は良いが……手加減……いや、この世界じゃいらんのぉ。もう、免許皆伝かのぉ……」
周りを見るに、生存者はカンイチが昏倒させた賊のみ。既に己の足で立ってる賊はいない。
「しかし、派手にやったもんじゃわい……」
死屍累々……




