組合(ギルド)
……
ハンスと食事の後、いよいよ職場となるであろう、『冒険者ギルド』へとやって来たカンイチ。
ギルド長、この施設の長との面談を面倒見のよいハンスがセッティングしてくれた。先方の都合がつくまで少しの時間でもこの世界について知る必要があるカンイチはギルド内の隅の隅までに目を向ける。
「ふぅむ。ここが『冒険者ギルド』という場所か。冒険者とやらの互助会のようなものかのぉ。しかし、”冒険者”とはなどのような職業なのだろうか? ハンスさんの話を聞くに、狩人と違うのかのぉ」
そもそも『冒険者』とは……まずそこからだ。
大きな掲示板を見つける。そこにはたくさんの”依頼書”が画鋲で止められていた。カンイチは情報収集を兼ねて端から読んでいく。
「ふぅむ。なになに……『薬草:月華草 10本一把から』 『精肉:野兎 10頭から』 『探し人:薬屋のアンナ 詳細は職員に』 『探し物:アルツの飼い猫』 『魔物:毒オオトカゲ 丸一頭』 『緊急依頼:配送。王都まで。3人。詳細は職員まで』 『緊急依頼:デスマンティス討伐 詳細は職員まで』 かの。ふむ。”何でも屋”というのが近そうじゃなぁ。しかし、人探し? 誘拐とかじゃなかろうなぁ。うん? この数字が”報酬”じゃろか? 銅貨に銀貨……金貨か。ふぅむ」
掲示板の前でうんうんやっているとハンスがやって来た。
「なんか面白いものがあったか? カンイチ?」
「冒険者というからどんなものかと思ったが……”何でも屋”といった感じじゃな」
掲示板の依頼票を指さしながら。
「まぁなぁ。ペットの捜索やら、町の掃除、便所の汲み取りなんて仕事もあるものなぁ」
「ふぅ~~むぅ。あんまりワシの思うとるのと違うのぉ。他に身分証を得る手段はないかの。ハンスさん」
「そうだなぁ。そもそもカンイチは何やりたいんだ?」
「農業? かのぉ。畑耕しての。菜っ葉作ったりの」
「畑かよ。う~~ん。近郊じゃ畑持つのもしんどいし。内陸の町や村……それだと身分証は必須だしなぁ。国元に帰るか?」
「……帰れるものなら帰りたいがの」
ぼそりと呟き、今では遠い深山村を想う。
「なるほど。とにもかくにも”身分証”が必要という訳じゃな。で、取りやすいのが、”冒険者”になる事じゃと」
「いや、カンイチが”収納”つかえて、熊狩れるというから取れる手段だぞ。そんな奴はそうそういないからな。そうじゃなけりゃぁ皿洗いやらだな」
「ふむ。ワシが、嘘ついてたら?」
「そりゃ、俺に見る目が無かったってだけだ。それに、ギルドの身分証にしてもちゃんと”審査”があるからな。ほいほいくれはせんぞ」
「なるほど……のぉ」
「ハンス隊長ぉ~~ギルド長が会うって」
「ふん。勿体つけやがって。リストの野郎。ああ、幼馴染なんだわ」
と、カンイチにウィンクするハンス。
受付がいるカウンターを抜け、奥にある階段を上る。ハンスも迷いなく進み、一つの部屋の前に立つ。
「ギルド長様ぁ~~入りますよぉ~~失礼しまぁ~~すぅ」
”ごん! ごす! がん!”
茶化するようなハンスの呼びかけ。ノックの代わりにドアを足で蹴る。
『ふざけてないでさっさと入ってこい! ハンス!』
「おう。入るぞ」
”ぎぃいい”
大きな机に腰掛けるのは、冒険者を取り仕切るようには到底見えない痩せた男。身なりもしっかりしており、メガネが似合う優男だ。少々神経質そうではある。
バサリと読んでいた本を置く。
「忙しいだぁ? どうせ暇こいて本でも読んでたんだろ、リスト」
「ふん。で、わざわざ隊長さんが何の御用で? ハンスさん。うん? その子かい?」
「おう。お前さんに預けようと思ってな」
「ふむ。……で?」
「ああ。カンイチと言ってな。こいつはリストだ。一応、此処のトップだ」
「ワシは、カンイチという。よろしく頼む」
一歩前に出て頭を下げる。
「ん? 言葉つかいが爺さんみたいだな。俺はリスト。このギルドの長をやってる。よろしくな。ふぅむ」
値踏みするように。そう、まるで商人の査定のように頭のてっぺんから、足先までカンイチを見る。
「ああ、遠くの年寄しかいない村から出てきたんだと。で、本題な。熊狩る腕を持ってる。それに良く慣れたでかい狼二頭、連れている」
「ほう……。その身体でか? 俄かには信じられんな。が、それだけか?」
疑いの目をハンスに向けるリスト。
確かに熊が狩れればそこそこ腕が立つ。が、それだけでリストに”預ける”という事……。彼が目をかけ、彼の持つ特権の発動、”銀”ランク習得には遠い。
「ふん。で、本題だ。自己申告だが、”収納”も持っていると言う。俺は信じるがな」
「なるほど……。それだけの人物なら、即、”銀”ランクをやってもいい。この町に拠点を置くのなら、住むところだって世話して良い。但し、騙りじゃなけりゃな」
カンイチの眼を見つめるリスト。その瞳に嘘が無いかを探るように。そして、
「”鑑定”……つかうぞ?」
なにもやましいことがないカンイチは何されても構わんと堂々としたもんだ。
(注……ちなみに、リストは”鑑定”は使えない。この世界のはったりの一つ。”鑑定”の恩恵持ちも少なく、マナー的に人には使わない。使われたことを知る魔道具もあるとか? 争いの種。
もうひとつ。カンイチ、もそもそも”鑑定”が何か知らない。はったりにすらなっていないので堂々としている)
「ほう。怯まない……か。キモ座ってんな。坊主。いや、カンイチだったか」
リストの緊張も解ける。
「だろ。面白いだろ。まだ出会ったばかりだが、こいつは信じられる。俺が保証する」
「ふっ、良いだろう」
「まずは、熊を売りたいそうだ。手持ちが無ぇそうだ。”収納”使うから、後ろの小屋と専属付けてくれると助かるが」
「ああ。本物の”収納”、”マジックバッグ”持ちには付けるさ。鮮度が段違いだからな。よし。行こうか。買取を先にすませよう。その後、武術の腕前……手合わせか……」
「俺が相手してやるぞ!」
「お前じゃダメだハンス。ここの連中にやらせるさ。とりあえずは裏で。手並みを見たい。で、お墨付きじゃないが、それなりのとやらせて……」
「めんどうくせぇな」
「まず、”収納”を護れる力を見る必要があるだろうが! まだガキだ。攫われちまうぞ。今のところ、全くの未知数だ!」
カンイチを置き去りにドンドン話が進む。地球に居るときは最古参ということで意見を求められることも多く、どちらかと言えば進行側だったが。
この世界では小僧。何もしなくても良いようだ。只、成り行きを見守るのみ。
「おう。わかったよ。カンイチもそれでいいか?」
「お任せします」
……




