イザーク先生じゃな!
……
「どこ行ってたんだい! もう始めてるよ! カンイチ!」
すでに空になったワイン瓶がコロリ
「おう! さっそく呼ばれるか! 今夜は野営じゃぞ? 酒も程々にな!」
{おう!}
「わかってるよぉ! カンイチ! 酒ぇ飲め! 大丈夫だぁ! 半日もすりゃぁ醒めらぁ!」
焼酎の瓶を抱えてご機嫌のディアン。まだ食事は始まっていないのに、この様だ
「すまない……師匠……」
「……ま、楽しみにしてたんじゃ。ほどほどにの。さてとワシらも飲むか。フジはどうする?」
『うむ! 我は、水で良い!』
賑やかな晩餐が始まる
『うむぅ? ここの水……美味いな。……何の香りか? お爺?』
旨そうに水を飲むフジ
「うん? どれ……果汁か? はて? 薄っすら香りが付いてるのぉ」
フジとカンイチでうんうんやっているとイザークが一言。
「どれどれ……ああ! なるほど! アサキリ草の香りですね。これ」
『ほう。草か? このような香りが?』
「ええ。結構どこにでもある草ですよ。……ほんのちょっと入ってるのかなぁ?」
『面白いの』
「じゃ、今度、俺が作りますよ。フジ様。こういうのが好きでしたら」
『うむ! それは楽しみだ。それに、このサラダ……だったか。この白い奴、いい味だな。これは何だ? イザークよ』
細い白いタケノコ。本日のサラダの中でフジのお気に入りのようだ。歯触りも良く、香り、甘みも申し分ない。
「どれどれ……”こり!”……うんうん。……コユビタケの新芽でしょうか。新しい物ですね。えぐみもない」
『これは採れるのか?』
「はい。コユビタケ自体見つければ、その根元に。これも年中採れますしそんなに珍しくないですよ」
「……さすがイザーク君じゃ! いや、イザーク先生じゃな! よくもまぁ、知っておるわい」
日本の山では”山の主”と呼ばれていたカンイチも唸るイザークの採取の知識。
「ははは……。採集がメインでしたから……俺」
『うむ。感服した。これからそっち方面の採取にも力を入れようか……。ガハルト! 貴様も野菜を食え! 美味いぞ!』
「は、はいぃ!」
なるべくフジの視界に入らないようにしていたガハルト。その図体じゃ無理だ。
野菜嫌いは皆知ってる。
「くすくす。でも、フジ様は、本当に野菜好きだねぇ。姿かたちは狼なのに?」
と、ミスリールも不思議に思っていたことを聞く。
『うむ。……そのまま食える草もあったが、これほど食べ易い草は山に無かったわ。いや、知らなかったと言いかえても良い。食い物は肉ばかりであったからな。それに火を通すと柔らかく、甘くなるものもある。今では渋みも心地よい。何より腹の調子が良い』
「へぇえ! 凄いですねぇ。フジ様!」
「うんうん! 野菜は美味しいのだよ! ガハルト君!」
そう言いながら、分厚い肉片にフォークを刺し、美味そうに頬張るアールカエフ。”森の民””緑の守人”といわれるエルフ感0(ゼロ)である。
「ぐぅ……。そういうアール様こそ、野菜より肉……では?」
「うん? 種族特性さ?! 肉食エルフの! だから仕方ないだろう? ねぇ。カンイチ?」
「うん? ……? ……そりゃぁ、ガハルトの台詞じゃろが!」
「そう? お肉、美味しいよ?」
フジの依頼の品、レッド・レザー・リザードの唐揚げがでた。この世界では珍しい揚げ物だ。流石高級店。
『”がふがふがふ”……これは美味い。……脂は猪か? トカゲもやるものよ、猪の脂の旨味に負けぬとは!』
「ほ。唐揚げかの……”むぐむぐ”………こ、こりゃぁ美味いの。こんなに柔らかかったか? 蜥蜴……」
昨今、唐揚げは好物だったが、胃もたれと、入れ歯のおかげて敬遠していたカンイチ。久々の好物に舌鼓。もっとも、鶏ではないが
「おお! こりゃぁ! 酒のつまみに持ってこいじゃぞぉ!」
「ああ! ミスリールも食え! 酒にあうぞぉ!」
「おう! ”ぷはぁ!”」
アル中一家にも好評のようだ。何せ唐揚げだ。これ以上の酒のつまみも無いだろう。
「うんうん! 美味しいねぇ! イザック君! 蒸留酒とって!」
「は、はい、これは、美味しいです!」
「うむ! 力になる飯だ! 酒にもあう! ”ごきゅごきゅごきゅ!” ”ぷっはぁ~!”」
「おいおい! 皆の衆、この後、野営だぞ! 酒は終いじゃ」
「もぉ~う。真面目君だぞぉ! カンイチぃ! う~ん、もう外行くの面倒くさいね。……そうだ! ここ、朝まで借り切ろうか!」
「いいな! アール殿! 朝まで酒だ!」
「おいおい……」
唐揚げが出てきて、酒量も増す。勢いが止まらない。そこをカンイチとイザークが宥めるが……
唐揚げで勢い付いた飲兵衛は止まらい。
『お爺の言う事、もっとも。酒は終いだ!』
”ぴしり!”
と、殺気を孕んだフジの威圧。誰もが、”どん!”とジョッキをテーブルに置く。
『うむうむ。美味いものは静かに味わうものだ』
満足げに唐揚げに食らいつくフジ。
半面……
「……酔い、吹っ飛んじゃったよぉ。アンタぁ」
「うんむ……が、少々、はしゃぎ過ぎたのぉ。反省じゃ、ディアンよ」
「こわ……フジ様」
「う、うん、そうだね! は、ははは……。なにさ! カンイチ!」
「何も言っとらんじゃろが。アールよ。フジ……少々やりすぎじゃぞ」
『? そうか? 底なしぞ? こ奴らは。キリがない。我が言わぬとこの店から出ぬぞ? それに、サッサと食って、そろそろ門を出ないと、この町から出られなくなるぞ?』
「! ……じゃな。食事の続きを楽しもうか」
「……国境越えるまでは酒は程々。我慢じゃな……」
「ああ……アンタ……」
”かちゃかちゃかちゃ……”
食器にフォーク、ナイフの当たる音のみが室内に響く……




