あまり良い知らせじゃなさそうだな
……
・サヴァ国 王都 王城
「急ぎの知らせと聞いたが……。あまり良い知らせじゃなさそうだな。ゼネッカよ……」
直ぐに謁見の間に通されたゼネッカ・サヴァ国冒険者ギルド長統括。
サヴァ国内の【冒険者ギルド】の頂点。各支部のギルド長をまとめる男だ。
「はい。レッドから早馬が。もちろん例の件でございます」
「ふむ」
「勿体ぶってないでサッサと報告せよ!」
「宰相、少し黙っておれ。で。ゼネッカ?」
「では、結論から。交渉は決裂。バラグライド侯爵は死亡――」
「な! 何ぃ! 何でそうなるんじゃぁ!」
大声を上げ、報告を中断させる宰相。その宰相を冷ややかに見つめるゼネッカ
貴様のせいだろうと
「……王、先を進めても?」
「宰相。……叔父上、これ以上騒ぐと退席を命じるが?」
「くっ! ……」
”ざわざわざわ……” ”こそこそこそ……”
「何? 交渉役にあのバラグライド侯爵だと?」
「失敗だと?」
「本当か?」
「口先だけ……おっと」
「宰相が可愛がっていた親族だからなぁ……」
「しかし……ただで済むのか?」
「あの御仁は交渉事に一番向いておらぬだろうに……」
「ああ」
”ざわざわざわざわ……”
「だ、大丈夫なのか?」
「相手はフェンリルと聞いたが?」
「死んだ? 怒らせたという事か?」
列席する貴族たちからも声が漏れる。謁見の間にもかかわらず
「ゼネッカよ先を」
と王が手を上げ、促すと静まる謁見の間
経緯次第ではフェンリルが王都まで報復に来るかもしれない
「はい。報告書を読み上げるだけとなりますが……」
ゼネッカの読み上げる文はレミュウの報告書である。
その報告の中には、アールカエフの”御籠り”に始まり、侯爵が権力を持って墓所ともいえる場を騒がせ、力を持って、フェンリルを手中にしようとした愚行が時系列的に細かく書かれていた。
目撃者達の証言と、当事者であるジップ、ジリオンの証言書も添付されている。
併せて、グリアルド伯爵(フィヤマ領・領主)の行いも語られる。侯爵の対の善行として。
その報告の途中途中にも忌々しげな声を上げる宰相。
「そうであるか……。いい加減に黙らぬか。メルカルヴァ」
「し、しかし……」
「はい。恐らくは、すでに町は出てると思われます。その後の動向につきましては未だ。ギルドとしては各国、各支所に通達。動向を追う予定にございます」
「ふむ。国も出る……か」
「はい。恐らくは」
「な、ならん! ならんぞ! 許せる訳なかろう!」
「いい加減にせよ。叔父上。……其の方にも責任の一端があるのだぞ?」
「な、なにを……。そ、そうだ、このような平民どもの言うことなど……。調査団を! そう、我らで調査を! その冒険者共を招聘して……」
「そのような叔父上の選民意識がこのような事態を招いたのであろうよ。どうだ? そろそろ隠居せぬか?」
「な……」
「そもそもどうやって出頭させるのだ? 叔父上も叩かれて棺桶に収まって帰って来るのがオチだぞ?」
「く……」
「事、ここに至っては、どうにもなるまい。皆の者、手出し無用ぞ。侯爵だろうが、王だろうが魔獣の前では石ころのような物だろうよ」
「王!」 「王!」
「し、しかし! こ、このままですと!」
「ふむ。では、其の方らが交渉にあたるのか? それとも軍を出せと申すか?」
{……}
「もはやここまで拗れては無駄だろう。国の面子? そんなもの、人の世の事。魔獣のフェンリル殿には些事であろうよ。なぁ、ゼネッカよ」
「はっ。軍を失う……となれば、周辺国への備えも。先方もフェンリルはともかく、人。侯爵を殺害しています。追手には敏感でしょう」
「……」 「……」
「うん? 其の方ら、もう何も言うことは無いのか? ふむ。して、ゼネッカよ。この中心に居るカンイチという男の人となりは」
「はい。”収納”の天啓持ちの新人冒険者でございます。フィヤマのギルドマスターのリストが、”銀”を与えていることを見ても、能力はそれだけではなく……あ、これは、フェンリルを招く前の事。それだけの人物なのでしょう」
「ほう、一廉の人物という事か……フェンリル抜きにしても。”収納”か。で、この同行しているガハルトという者は?」
「はい、”金”の虎人の冒険者です。申請があれば即、”ミスリル”級に上がれる実力者ですが……どうしても、獣人族を下に見る風潮が……」
「ふむ……で、同行しているダイインドゥという者は?」
「はい……凄腕のドワーフの鍛冶屋にございます。以前、王都に工場を構えておりましたが……」
「ふむ……このイザークという者は?」
「さて。”鉄”とあります。まだ若いですし、どのような経緯なのかは……」
「なるほどな。そして、言わずも知れた、アールカエフ様か……しかも”超越者”に御成りだとか」
「……はい。書状によりますれば…。”超越者”という表現が適切かは分かりませぬが……。が、確かに”御籠り”に入られたと。そこからの復活……しかも若返りなされたと……その状況をを鑑みれば……」
「問題なかろう。しかし……このカンイチという者……会ってみたいものよ」
「はい。私めも。さぞや面白い男なのでしょう」
「そうよなぁ……」
……
「お疲れさまです。ゼネッカ様」
「うむ。あのアホ宰相、余計なことをせねばよいが……ウチの受注窓口にも警戒をな。スノー、例の主要人物に関わる依頼があれば挙げよ」
「はい。……動くでしょうか?」
「動くだろうさ。お気に入りのバラグライド侯爵が殺されてるんだ。それにまだまだ、目、ぎらついていやがる。いい年こいたジジィのくせにな。自分からは引退すまいよ」
「だとすれば……国境門でしょうか?」
「まぁ、そこは国の機関。王の仕事だわなぁ」
「そうですね」
血を見る事無く済めばと願うスノー(書記官)だった
……
この日をもって、王命により余計な手出し無用と通達が降りる。命を守らぬ者には厳罰。降爵、お家取り潰しもあり得ると




