飼い主に似たか? ~今となっては
……
「おかえり~! お宝、どうだった? カンイチ!」
「怪我は無いですか?」
盗賊のアジト、ハッサンの家を検め多くの金貨、財宝を得て戻って来たカンイチ一行。
アールカエフの待つ10頭の馬に囲まれた馬車へと合流。
「うむ! 留守番ご苦労さま。しかし、改めてみると凄いのぉ……馬がこれだけ居るとの」
「ま、国境の町で売ることになるだろう。皆で乗るか? イザークよ?」
「要らないでしょう……今のままで。管理も大変ですよ」
そんな会話の中、馬を見渡し、ハクを見るカンイチ。
「……ハク…………盛っておらんかの?」
「うん? 飼い主に似たか? くっくっく」
どうも飼い主に似て? 従魔連中は盛っているカンイチ一行
「……わしは盛っておらんわい」
『フフン! 我は何時も盛っておるぞ! お爺! 見習うと良い!」
「フジには繁殖期というものは無いのか……の」
『人だってそうだろうが! なぁ、イザークよ!』
「は? はぁ……かも?」
「……で、どうじゃ? フジよ? ……ハクなんか言っておるか?」
『うん? 好みの娘はおらぬようだな……こ奴、中々に面食いぞ』
「……そ。なら良いわ……まったく……」
「で、どうだったのさ! カンイチ! お宝!」
「うん? ああ、なかなかの収穫じゃろうの。山分け楽しみにしとけ」
「ああ! 腐れ縁も切れたしな! 今日は早めに野営にしよう! 一杯やりたい気分だ!」
「例の……ハッサク? だっけ? やったね! ディアン君!」
「……ハッサンじゃ。が、良く知ってるのぉ、アールよ……精霊様か?」
「うん! そうだよ? ふふふ。よし! さっそく移動をしようよ! 今日は一杯飲もう!」
「いいねぇ~~ アール殿ぉ!」
「……国境の町まで取っておけよ。……ま、もう、この辺りには賊はいないと思うがのぉ……」
……
・冒険者ギルド、そして国~
フィヤマの町をカンイチ達より一日遅く出立した【冒険者ギルド】王都本店のレッドギルド長。車窓から景色を眺める顔も浮かない。
その隊列も来る時と別物、煌びやかな様相は無く、すごすごと王都を目指す。周りを囲む護衛の騎士たちも胸を張るでなく俯き、街道を行く。なにも成果が上げられなかったからだ。
来る時も高位の偏屈貴族を宰相より押し付けられ、大層機嫌は悪かったが、帰りもまた、王への報告内容によって機嫌が悪い。最悪といってもいい。
「ふぅ……ったく」
指先がトントントンと焦立ち窓枠を叩く。
……フェンリルが国内にいる。
……それだけで、周りにある対立国が勝手に恐れてくれる。
しかも、人に”使役”された状態で。
もちろん国としては看過できない
これは是非とも協力を得ねば!
【冒険者ギルド】としては国の戦力とは切り離されている……とはいえ、確認せねばなるまいと出て来たのだが……
結果、協力を得るはずの使者、その偏屈貴族の功を独占しようと勝手に動いたおかげでぶち壊し。”流出”という最悪の結果になってしまった。
流れた先が敵対国であれば、こちらが隣国の脅威に怯えることとなる。
もちろん相手はフェンリル。流れる前に派兵、そんなことは論外だ。王都が、国が消える
「まったく。だからこういう時にお貴族様は要らねぇんだよ」
忌々しく吐き捨てるレッド・ギルド長
「まぁ、今となっては」
まぁまぁ、お茶でもと勧めるレミュウ。
そのお茶を一息に胃に流し込むレッド・ギルド長。
後部の覗き窓から、後ろに続く馬車を見やる。
しかも、その一緒に来た偏屈貴族も今は大人しく己の侯爵家の紋章のはいった一際派手な馬車に載っている。すっぽりと棺桶に収まって。
腹心の騎士長も。彼も一応は、騎士位。急拵えの馬車で”帰還”する。
長旅に耐えられるように魔法使いを雇い、”冷蔵”して運搬している。さもなければ、葬式の時に難儀するだろう。
「レミュウ、腐れ貴族共の”冷蔵”の為に雇った魔法使い。倍の賃金出してやれ。それにたんまりのっけて、侯爵家に請求しておけ。駄々こねたら、領内のギルドの支所、撤収だ!」
「はぁ。了解しました。侯爵の所、腕利きの冒険者の派遣要請が出てますから、撤収と言えば金は出すでしょう。ってか、今回の責任とらされて……」
「チッ――! 王にも言っておけ。特別手当だ。国からも一筆貰え。……宰相だな。あの害悪のクソジジィ! 功を急ぎやがって……」
「しかし……困りましたねぇ」
「ふん、ジップの言じゃないが、国、云々は俺には関係ねぇさ。が、ギルドとしては動向くらいは追わねばならんだろう。その手配も頼む」
「わかりました。……今思えば、アールカエフ様が”お籠り”になったのが……彼女がいればあんな無理はしなかったのでは……」
「どうだかなぁ。あの腐れ侯爵様の事だ。大して変わらんだろうさ。フェンリルにやられるか、アールカエフ様に首を飛ばされるかの違いってなもんだろうさ。王都でぬくぬく暮らしていた若造だ。あのケチで有名な、フィヤマのご領主様さえ見舞いの花だして遠慮してたのになぁ」
「そうですね……ふぅ」
「そうそう、ゼネッカのとこには早馬はだしたか?」
「はい。出しておりますよ。急ぎ王に報告するようにと」
「なら良い。俺達はのんびり帰るとしようか」
「バラグライド侯爵、腐っちゃいますよ」
「ふん、元から腐ってるんだ、構わんだろうさ」
……
・サヴァ国王都 ギルド長総括室
「……やっぱりこうなったか。……交渉役がバラグライド侯爵と決まった時から予感はしておったが……。ミュンヘン? あの町の……代官だったか、相談役だったな……。小物同士でさぞや気が合ったのだろうな……」
レッド・ギルド長からの早馬がもたらした文を見て吐き捨てる、この国の冒険者の頂点。ゼネッカ・ギルド長統括。今にも書状を破り捨てそうだ。
「して、ゼネッカ様、この後は?」
文官風の男が、極力、穏やかに声をかける。なるべく怒りに油を注がぬように。
「城に上がる。そうそう、ストーンよ、彼らは恐らく国を出るだろう……。国内の支店に手出し無用と、本部への通知を。一応手を出すなとな。その先は国の方針もあろう……。動向を追うためには知らせない訳にはいかんだろうな」
「そうですね……取り急ぎ緊急回線で通達しておきます」
「ああ。頼む。しかし……アールカエフ様に、ガハルトもか……。さて……」
”金”ランクの冒険者、彼らも”見えない戦力”に数えられる。戦に介入しなくとも彼らの住む町、村、住まいや、家族を襲おうものなら、その鍛え抜かれた武を惜しげもなく発揮するからだ。冒険者同士の横のつながりもある。想定以上の抵抗に苦しめられる場合もある。
エルフの住む村にも同様。こちらは更に始末が悪い。種族的にも魔法に特化しているエルフ。
高位魔法使いともなれば、軍隊など一撃で焼き払い、粉微塵にすることもできる大魔法を操り。高位の精霊魔法使いは、ずっと雨を降らせたり、雷をも降らす。行軍すらままならない。もちろん、大量に殺傷せしめる魔法を操る者もいる。
各国の軍部に関わる部署に広げられている大きな地図には、城壁や、町の規模、駐留軍の数、兵器の有無と同様に、高位冒険者の数、高位魔法使い、高位精霊魔法使いの人数も記入されている。
今回の事件で、サヴァ国は多くの”潜在戦力”を手放すこととなる。




