本当に魔法使えるんじゃな
……
「おっと! ガハルト殿ぉ! 前方! 右! お出ましじゃぞぉ!」
ダイインドゥの警戒の叫び。
臨戦態勢をとるカンイチ達。そう、盗賊が現れた。
街道にはご丁寧にどこからか運ばれてきたのか、太い丸太が3本。道を塞ぐように横たえられている。
そして右の低木の茂みから、わらわらと20人。左のブッシュから弓を持った10人。
「よぉしぃ! 降伏しろぉおお! そうすりゃ、命まではとらねぇ! 金目の物をみな置いて行けぇ! 女もなぁ!」
20人からの男の中から、一人の男が出て来た。”頭”であろうか。
「ほう……上手く行けば、マジックバッグが手に入るな」
「え?」
「ほら、よく見ろ、イザーク。あの丸太、どうやって運ぶ?」
「あ! なるほど! 容量も結構ありますね!」
「そう言う事だ。くっくっく」
この辺りは背の低い低木しかない。これだけ大きな木を運ぶにはマジックバッグの運用が予測できる。
ともなれば、この盗賊を除ければ
『ほう。面白いな。ガハルトよ我も手を貸そうか?』
しゅたっと、地面に降り立つフジ。
「大丈夫でしょう。ハナ達の所にいてくだされ」
と、ガハルト。その顔には笑いが。
『うむ。では、お手並み拝見と行こう』
「ワシらはどうするかの?」
「ダイの親方は、カンイチと20人の方を任せられるか? 弓は俺が何とかしよう」
「おう! 行くぞ、ディアン!」
「おうさ! アンタ!」
「ミスリールは合図で、あの偉そうなのを仕留めてくれ」
「了解!」
「作戦らしい作戦とも言えんが……ま、ガハルトさんにお任せじゃ」
「ガハルト君! 僕は何する?」
「そうですね。イザークと馬車の守りを。クマ達に矢がいかぬよう、魔法を使っていただければ」
「お安い御用さ! う~~ん……。♪ 精霊たちよ……この勇気ある者達を御守りください♪ ……矢を逸らす風の鎧を……風の祝福を……♪」
アールカエフの歌うように紡がれる詠唱と共に、カンイチ達の周りに優しい風が。外套の裾などがふわりと浮き上がる
「ぬ? ぬぅおお?! アールよ! ……本当に魔法使えるんじゃな……」
「はぁ? カンイチ! 信じてなかったの? いい? 見ててよ! ……こほん。……♪ 荒れ狂う風よ、力の象徴たる風よ……♪ その大いなる、刃をもって♪ 我が目の前の敵に♪ いたわりの心なき者達に♪……風の……」
「あ、アール様ぁ! お、お待ちください!」
両手を広げ、詠唱を続けるアールカエフ。当たりの気温も下がり、風も強まる。
枝葉が躍り、砂が舞う
「何をごちゃごちゃ言ってやがるんだぁ!」
「……♪ 死を!」
「返事は……! は、はぁ?」
”ぼたり!” ”どさ!” ”どしゃ”……”ころ、ころ、ころ、ころ……”
弓を持った10人の賊の首が音もなくずれ、地に落ちる。体は未だ頭部があると思い、その鼓動で、あるべき脳に血を送り続ける。盛大に吹き上がる血
「な……あぁ! お、おまえたち? お、おい! おいぃ!」
「ま? まほう? 魔法ぉ!?」
「ま、魔法使いがいる!?」
浮き足たつ賊たち……。これだけの大魔法の使い手だ。彼らの取るべき道は二つ。次の詠唱前に魔法使いの息の根を止めるか、尻尾を巻いて逃げるか……
「ミスリール! カンイチ! 行くぞぉ!」
合図とともに、駆け出すガハルト。ダイインドゥ夫妻が続く!
「応!」
「応さ!」
「……わし、要るか?」
「あいよぉ!」
”どっひゅっーー!”
ミスリールの放った極太の鉄矢が勢いそのままに”頭”の額に突き立つ!
「は、ぐぅ!」
矢を喰らった”頭”は額に矢を立て、”ごきり”! 天を見上げ、そのまま膝を突く。矢は後方に貫けずにその威力の全てで首の骨を砕いたようだ。矢を額に生やした首は完全に背中にぶら下がっている
「ひぃ!」
「な、なんだぁ! ふ、”副頭目”?」
「ほう! ”頭” ではないのだな?」
前に向き直った盗賊の目に入ったのは、巨漢の獣人と、大きなバトル・ハンマを持つドワーフ、こちらも分厚い長柄の戦斧を肩に担いだ、女ドワーフの戦士……
「ひ!」
首根っこを掴まれ、やすやすと持ち上げられる賊。そのまま、カンイチの方に投げ捨てる。
「カンイチ、悪い! お前さんは過剰戦力だ。そいつの拘束頼むわ。案内人殿だ!」
「了解じゃ!」
”収納”からロープを出して、グルグル巻きにし、自害防止の猿轡を噛ませる。
その間に……
”ぼっきょ!” ”ばぎょ、ごきょごきょ!”
おおよそ、人が立てる音とは思えない音が、ダイの振り下ろした巨大なバトル・ハンマの下から聞こえる。
”ばっか!” ”どっぱぁ!”
面白いように手、足、そして首、胴体とディアンの戦斧が振られるたびに人体が爆散、千切れ飛ぶ。
”ばしゅ!” ”どっしゅ!”
こちらは、真正面より、剣の切れ味を試すかのように、袈裟に斬り捨てていく。ガハルト
”びっひゅーーーーーーん!” ”ぼっしゅ!”
逃げ出した賊の後頭部には漏れなく、ミスリールの放った極太の鉄矢が突き立ち、彼らの逃亡距離を若干伸ばす。
20人などあっという間に物言わぬ屍になった。
残された”案内人”顔面蒼白……そして、”用事”が終わった後の己の姿も予想がついているのだろう……。
「さて……と。他に居ないか、哨戒を 『ここにもう生き残りはおらぬ。右の林の先に馬が10頭……だな』 ありがとうございますフジ様」
『なぁに、我も仲間だからな!』
「うん? フジよ。賊が居る事、知っておったのか?」
『無論。が、お爺達が”覚悟”を決める話をしていたのでな。お手並み拝見……という訳だ』
「……次からは、わかった時点で頼むの」
『良いのか?』
「安全第一じゃ……。こちらからの奇襲だってよかろうが?」
『うむ。承った』
「良し……じゃぁ、剥ぎ取ってくか」
「ガハルト、で、この死体はどうすんじゃ?」
「道のわきに打ち捨てて行けばいいだろうさ。獣たちが片付けてくれるだろう」
「ガハルトさん、首はどうします?」
「持っていくのはそこの”副頭目”のだけで良いだろう。よし、サッサと剥いてアジトに行くぞ」
{応!}
想定通り、”副頭目”の腰のポーチはマジックポーチだった。
「うん? これにあの丸太が入っていたのか? 俺のよか容量が大きいな……。貰って良いか?」
「良いじゃろ? そういや、仕留めたのはミスリールじゃったか?」
「オレは構わないよ? 作戦の内だったし? 今は足りてる」
「ありがたく頂こう。ミスリール、借り一つだな」
「気にしないでおくれよ、ガハルトさん」
他には特に眼を引く装備品、貴金属は無く、財布を集めて出立となる。ちなみに街道の丸太は『いずれ使うじゃろう』とカンイチが”収納”に。
「さてと。”案内人”殿。アジトは何処だ? ちゃんと案内出来たら速やかな死をくれてやろう。場所を聞きだすまでは指の爪……骨……一本一本。……これは、”上級回復薬”だ。舌を噛んでも直後なら元通りだ。惜しげもなく使ってやろうという訳だ。嬉しかろう?」
ガハルトに死刑判決と共に、アジトの場所を吐くまで……仲間を売るまで、拷問されるということだ。彼に、この盗賊、金だけの繋がりの仲間の為に拷問に耐え、護るだけの”忠誠”はあるのか
”こくり”
頷く案内人。安らかなる死を求めて




