お出ましじゃぞぉ!
……
カンイチ一行は面倒ごとを避けるために大きな町には寄らず、小さな村々に寄る。
特に【サヴァ】国内の移動に関しては、王侯貴族の接触や、例の侯爵の関係者からの報復等も考えられる。
それに野菜を仕入れるには、この方が都合が良い。大抵の農村は兎や、猪等の害獣に苦慮している。それを除いてやれば、信用が得られ、交渉事も楽になろうというものだ。
「ふぅ。今日も沢山、猪が獲れたのぉ。少し毛色が違うで、草原にでもいるのかの?」
と、狩猟した猪等を村人の前に並べる。
「助かったよ兄ちゃん。それにしても凄いな。高位の狼使いって」
「ああ。ウチに少し売ってくれないか? 皮も傷が無いし、いい革がとれそうだ」
「おう、兄ちゃんの言う通り。そのイノシシは草原に穴掘って生活してんだ。夜になると畑に押し寄せてきやがる! 穴掘るもんだから、木の柵も効かねぇ……深い板塀じゃねぇとなぁ」
「ほぉう。面倒じゃぁなぉ。足も速いし。若干臆病なところが救いか……」
と、カンイチが狩りの感想を語る
「いや、俺たちじゃ、かえって追い詰めちまう。するってぇと、大暴れだ」
「ああ、一息に仕留めねぇとなぁ」
「村で狼使いを雇えればいいんじゃがなぁ」
「何処も一緒じゃな。この村は犬はおるようじゃが。小さいの(柴犬くらいか)。これじゃぁ、逆に猪に殺されちまうの。板塀は金もうんとかかろうに」
「まぁなぁ。狼だと、万が一、お貴族様をなぁ。吠え掛かるだけで不快に思うお貴族様もおるで……」
「来なきゃいいのじゃがの」
「金だしゃいいんだ。塀の」
{そうじゃ! そうじゃ!}
……
「う~ん。やっぱり小作は嫌じゃな。お貴族様が来る場所もの」
「どうしたのさ? カンイチ?」
「いやの、お貴族様ってなんなんじゃ?」
「ゴミ? ダニ? ヒル? ナンキンムシ?」
「おいおい、アール殿……」
「だって、義務果たしてないじゃん? それに数が多すぎるんだって。無用だね。着てる服や装飾品でしか権威を示すことのできない哀れな連中さ」
「……たしかにな」
「高貴な血? どう違うのか聞いてみたいね? と、そんな事はどうでもいいじゃん? そだ! 神様から貰ったお酒飲もう! 準備でゴタゴタしててすっかり忘れてたよ!」
「そうじゃな」
「うん、うん。団結式? と、出立式? 飲もう!」
{応!}
……
「ぷぅうふぅ~! これが天界の酒かぁのぉ。この苦み! キレ! 余韻……」
「ああ……旨いねぇ。アンタぁ。どんと腹にくるねぇ」
「うまぁ!」
と、ドワーフ連中は感嘆の声を上げる。
「うん? どうしたんだい? カンイチ?」
「いや、の」
懐かしい味。地球で飲んでいたドライで一番人気のあるビール。それにそっくりだ。
神様達も日本のビールを好いてくださってるのかの。と、空を見上げるカンイチ
そっと、杯を天に。
「乾杯」
{乾杯}
……
……
フィヤマを出て、15日目。
「どうじゃ? ガハルト。国境は?」
「ふぅむ。あと、2~3日といったところか……。昨日の村で聞いた、”盗賊団”の件もある。注意して行こう」
「国境近いですものね……」
「ああ。こっちの国で”仕事”をして隣の国に逃げる……そういった輩なら、国境警備の役人とつるんでいるか、抜け道があるな……。より警戒が必要だな」
「で、ガハルトよ。盗賊の対処方法は? どうすりゃいいんじゃ?」
「うん? 『案内役』一人摑まえて、殲滅だな。皆殺しだ!」
当然だろうと。ガハルト。
「皆殺し……は解る。が、なんじゃ? 『案内役』とは?」
「カンイチさん、盗賊のアジトに案内させるんですよ。そこにある金貨なんかも”討伐者”に権利があるんですよ。もちろん留守番やらも除いてからですけど」
「うん? 賊の貯めこんだ財産、わしらが貰って良いのかの?」
「そういう事になりますね。ま、そんな賊を”壊滅”出来る冒険者なんてそうそういませんけどね……」
「ほ~~ん……なるほどのぉ」
「ちっぽけな賊はあまり良い物は無いが、大きいところは結構溜め込んでいて良い物があるぞ。ある程度大きくなると賊も勘違いしてか、貴族のように貯めやがる。このマジックポーチだってそんな賊から頂いたものだ」
「なるほど……じゃ、積極的に狩っていくか! 金子はいくらあっても足りんで! 畑買うのにの」
「だから、誰に払うのだカンイチよ……」
と、ぼそりと言う、ガハルト。カンイチに聞こえないように。
「てか、こんな馬車……誰も襲わないでしょうに。御車台にはダイの親方座ってるし……」
ドワーフ族は、鍛冶屋として有名だが、その実、生粋の戦士だ。耐久力、腕力、スタミナ。どれを取っても人族以上。接近戦で戦いたくない種族だ。
そしてチラとガハルトを見るイザーク。
虎人……獣人族の中でも獅子族と並ぶ戦闘特化の種族。武器なぞなくともその膂力で人体など易々と切り裂く。しかも、ガハルトは、人を超えし者。
そのイザーク視線に気が付いたカンイチ……。
「うんむ。襲わん……な」
「うん? そういえば、カンイチ、イザークよ。人を手にかけたことはあるのか? 賊は一応は”人”だ」
「大丈夫ですよ、ガハルトさん。俺はありますよ。護衛任務で何回か」
「ほう? それでまだ”鉄”? ……”銅”の資格、十分あるだろうが。チッ――、あのくそレンガーの野郎……」
「それを言ったらガハルトさんは”ミスリル”でしょうに? まぁ、今になったら何とも思わないですけどね。こんなの」
「違いない。で、カンイチ……は?」
「わしか? フィヤマのスラムで何人か……そうそう、人攫い共も斬ったのぉ。ありゃ、鬼畜、畜生じゃ。人の括りにゃ入るまい。後は、前の世界での……とても大きな戦があってなぁ……」
「そうか……」
「”ごくり”……」
南の島の密林に潜む、孤立軍……その実、補給もままならず、見捨てられた部隊。生きるために戦い、結果、敵軍に目の敵にされ、追い回され、『野人部隊』、『ブッシュマン』と恐れられたカンイチ。その手で奪った敵兵の命は200を優に超える……。もっとも、爆弾一発で10万人以上の人の命が奪われた大戦だ。
「なら、大丈夫だな……情けなど無用! 生かしておけば、見張りも要るし、飯も食わさねばならん。隙を突かれて仲間が傷つくこともあるかもしれん。義賊? ふん、”良い盗賊”なんて者はいない。そんなものは”首”になった賊だけだ!」
「了解じゃ!」
「は、はい。」
「おっと! ガハルト殿ぉ! 前方! 右! お出ましじゃぞぉ!」
ダイインドゥの一声で、緊張が増す!
「ふん! 来たか! よし! 迎撃するぞ! カンイチ! イザークは馬車の護りだ!」
「……こないと思ったのに……。見張り……ちゃんと仕事しろよぉ……相手はガハルトさんだぞ?」
「ぶふふぅ……。確かにのぉ。見張りよ。その目ん玉はガラスかなにかか」
と、ダイ
「ま、そう言うな。イザーク君。親方どれ。行ってくるかの」




