草原のド真中で……
……
「よぉし! ダンジョンはこのまま北上でええのかの?」
”かっぽかっぽかっぽ……”
”がらがらがら……”
熊退治も無事に終え、新鮮な野菜も沢山仕入れることができたカンイチ一行。
ダンジョン国の【アマナシャーゴ】を目指し北上。
「ああ。この街道に沿って行けばいいはずだ。王都に寄る気はあるまい? その場合は途中で内陸(東)に行かねばならん」
「いらん! とっとと国境越えるぞ!」
渋い表情になり掃き捨てる。その王都とやらから来た連中のせいでフィヤマでの生活を捨てることになったのだ。
「だな。くっくっく。国境までは……二〇日……くらいでしょうか。アール様」
ハクの背にでろんと器用に横になるアールカエフ。
エルフらしく、細く軽いのでハクの負担にはならない。が、さっぱり歩かないアールカエフ。
「うん? 多分? そのくらいじゃない? ハク、足早いから、もうちょこっと早く着きそうだけどね」
”ぽんぽん”とハク首を撫でる。
「な? そ、そんなにかかるのか?」
今更のカンイチ君。あの粗末な地図からは読み取れなかったらしい。
「はぁ? 当たり前だろう? あと国二つ越えるんだぞ。カンイチ。ダンジョン国まで!」
「ああ。アール様の言う通り。順調に行って100日ってところか。だから、大きな町で穀物を仕入れねばならん。少々遠回りになるが農業国の【メヌーケイ】に寄るのもありだな。大量仕入れが出来るかもしれん」
「100日かのぉ……うん? 農業国……か。別途寄るのもアリじゃの。種やら、苗が買えるかも」
「……そういや、農家志望だったな。カンイチは」
「何を今更。ガハルト。寄るのは決定じゃが」
「でも、カンイチさん。苗買ったらダンジョン入れませんよ?」
「むぅう……イザーク君の言う通りじゃな。ぬぬ……」
「そんな事で悩むこともあるまい? 買わねば良かろうよ」
ガハルトは呆れて、ぼそり
「素通りできるか!」
「そうですね! カンイチさん!」
と、畑切望コンビ? のカンイチとイザーク
「……好きにしろ。ところでシロの調子は?」
「うむ。フジが言うに、今日一日は休ませると。例の毒熊のの」
毒熊を食ったせいか、昨日から少々具合が悪い。
今は犬小屋で療養中だ。なので、今日の馬車犬はクマとハナ。クマも心配顔で、ちょこちょこ小屋にシロの様子を見に行く。指揮官のフジは馬車の屋根の上に。警戒は怠らない。
「そうか……。フジ様が見てくれているのであればよいか……。クマ達は何ともないな……」
「うむ……もう、”魔獣”なのじゃろか?」
「だろう? 出会った時から俺はそう思っているが」
「うん? この辺りに生えてるのって、薬草……ですね。摘んでいきましょう。シロに。食べるかどうかわからないけど……」
「イザーク君……おう! ダイの親方、休憩にしよう!」
「おうよ!」
薬草が効いたのか、体力が打ち勝ったのか、午後には馬車犬の隊列にシロも加わる。
「うむ。大分いいようじゃな。フジよ。無理せんようにシロに言ってくれ」
『大丈夫だ。我が診ておる』
「うむ……頼む」
「よかったね! シロ!」
”ぅをふ!”
首元をわしゃわしゃと摩るイザーク。この男もマメに世話をしているから犬達の信頼を得ている。シロも頭を摺りつけて応える。
ちょっとしたほのぼのタイムだ。
「よぉし! 今日は少し早めに休もう! よさ気な処、探そうか!」
そうとなれば……
「ふぅぅぅぅううう……美しい。……満点の空。この星の中にカンイチさんが生まれた星があるんですねぇ?」
空を見上げるイザーク
「おう。ほんに綺麗じゃぁなぁ。他にもたくさんの星々がの。ふぅうぅぅ……」
カンイチもまた空を見上げる。
『なるほどのぉ……面白きことよ。……大神様は見ておられるのだな?……ふぅいぃぃぃぃ……』
フジもまた
……
「何やってんだい? あの連中は。こんな草原のド真中で……」
少々呆れ顔のディアン。
「まぁ、風呂好きだし? ほっといて良いよ? ディアン君。それとも、君も入るかい?」
彼女たちの視線の先、大きなスノコを敷き、その上には3つの樽が並べられている。
そう! 風呂だ。カンイチとイザーク、フジ専用だ。急拵えの為イザーク君のは少々窮屈そうだ。
交代で入るつもりだったが、折角だし、並べようと出立間際に頂いて来た物だ(酒を購入したおまけとして)
湯に入りながら、天空を見上げる二人と一頭。なかなかに風流だ。
「温くならないのかい? ありゃ」
「うん。僕が湯沸かし器作ったんだよ。スイッチ一つで適温さ」
「ふぅ~~ん。……でも、フジ様も入るんだねぇ」
「そうそう。カンイチのせいで大層な風呂好きになっちゃったよ。毛が抜けるからって湯舟は別だけどね」
「ううん? その毛、集めれば金になるんじゃないかい? フェンリルの毛だろ? 良い触媒になりそうだ」
「おお? なるほど! とっても希少な素材だね!」
と、フジの抜けた毛に関心を寄せるディアンとアールカエフ。
たしかに何の触媒になるのかはしれぬが、ほぼ手に入れることのできない素材には違いない
「おいおい……カンイチ達もアレだが……それ見て金の話にするな。ディアンよ」
「ああ、しょうがねぇなぁ。母ちゃんも、アール殿も。仲間の毛売るなよ……」
「……だな」
こっちは、ダイインドゥ、ミスリール親子とガハルト。夜営ではあるが少量の飲酒は認められている。
「ま、おっしゃる通りで」
「それに、フジ殿、自分で”洗浄”掛けてるし? 最初だけみたいよ抜け毛。ん? 毛、何処行ってるんだ?」
「よし! 俺も酒、呼ばれるか!」
「うん? ディアン君。君、割り当て分、もうとっくに飲んだだろう?」
「そうだっけか? アール殿? じゃぁ、寝るか! 夜番は?」
……
朝起きたら、移動中とはいえ、朝食前に軽く体を動かす。武術の鍛錬だ
ミスリールはカンイチに習い”銃剣術”の型をなぞり、ガハルトとイザークは剣を振る。
朝食の準備は主にディアンが受け持ち、ダイは各宿泊用馬車の内装の改修工事を行う。
アールカエフは……未だ爆睡中だ。
「やぁやぁ。良い匂いだねぇ! お腹減ったよぉ」
と、アールカエフが馬車から出て来れば朝食の開始だ。
皆で朝食を摂りながらミーティングを行い、その日の予定を決める。
食休みを十分に取ったら、馬車での移動開始だ。




