熊退治!
新章再開しました。よろしくお願いします!
……
『ふぅん? 熊退治か?』
のそりと頭を上げるフジ。
食事の準備が調うまで、馬車の屋根で寛いでいた。
そこに、これから熊狩りに行くとカンイチ達がぞろぞろと出て来た
『……うむ。……確かに気を感じるな。西の……あの茂みだ。魔物のようだな。我がいる間は近づいては来ぬがな』
フジには見えているのか的確に熊の居場所を言い当てる。
最強の魔獣と恐れられるフェンリルの力だろう
「よう、判るの。フジ。便利じゃな……。で、フジも参加かするかの?」
『うん? もちろんだ。ハナに何かあったらどうしてくれる? お爺? うぅん?』
このくだりの会話も何時もの事。ハナが行くならどこにでも。惚れた漢の辛いところだ。
「了解じゃ……。で、ミスリールの得物は? 手ぶらという訳でもあるまい?」
姿は幼く見えるが、成人のミスリール。
しかも鍛冶屋だ。
「オレ? これだよ」
腰のポーチから引っ張り出したのはクロスボウ。いや、アーバレストと言われる物だろう。弓、躯体共に金属製。矢も太く大きなものが装填されている。
かなりの重量物なのだろうが、易々と担ぐミスリール。
「カンイチさんのあの……例のアレ(散弾銃)からヒントを得て改良したんだ! 取り回しも良くなったし、ほら! ここ! カンイチさんみたいに剣も付けられる! 斧刃もあるぞ!」
銃床の先端の部位にかちり! とカンイチと同じタイプの銃剣を装着するミスリール
「おお? 銃剣か? なるほど……のぉ。触ってもええか? ……”ずし……” お、重いの! こりゃぁ!」
「そう? カンイチさん? そうそう! 型、オレに教えてよ!」
片手でカンイチもビックリの重量のあるアーバレストをブンブン振り回すミスリール。
見た目は細い腕なのに。余程筋繊維が発達してるのだろう。
「そりゃぁ、構わん……が」
「やったぁ! じゃぁ! よろしく師匠!」
まさか、世界を越えて『乙種銃剣術』を伝える相手が出ようとは、さすがのカンイチも思わなかっただろう
……
「おい、ガハルト。相手は”魔物”じゃと。どうする?」
「うん? どうも何も……仕掛けるが? 真正面から」
何時もの如く……何を当たり前な事を聞くのだカンイチよ? そう言いたげな表情のガハルト
すでに武装し、今にも駆けだしそうだ。
カンイチとしては、作戦、手を出さないまでもバックアップ等の打ち合わせもしたかったが……
ハナから不要らしい。
「……またかよ。……作戦は無しかの?」
「おお! 出たとこ勝負だな! クマ、無理はしないでいい。林から引っ張り出してくれ!」
”ぅおふ!”
ガハルトの呼びかけるようにクマを頭にハナ、シロが躍り出る
「何じゃ……クマ、お前さんも随分とヤル気じゃの……。しょうがないのぉ……。右手の……あの茂みのようじゃ」
「よし! 頼むぞ! クマ!」
”ぅおおん!”
ダダッと弾丸のように駆け出すクマ、ハナ、シロ。カンイチの指さす茂みに向かう。
その後ろから、これまた巨体のガハルトが恐ろしい速さで続く。その表情には笑みが漏れる。
「速いなぁ! よし! 見に行くぞ! カンイチ! 早く!」
駆けだすアールカエフ
「ふぅ……じゃ、ワシらも行くかの……フジ」
『うむ』
「イザーク坊ちゃん! 俺達も行こう!」
「ミスリールさん……やめてくれます? ……それ……”ばん!” うっ!」
ミスリールに尻に喝を入れられるイザーク君。
「はっはっは! 行こうか! お坊ちゃん!」
”ぅおおおん!” ”ぅわん!” ”ぅをん!”
黒い塊と一定の距離を取り吠え掛かる犬たち。
大熊はすでに茂みから釣りだされている。
”ぐっふ! ぐふふふ……”
忌々し気に腕を振り回し、
”ぶふぉふぉふぉおおおあああ!”
時折、歯をむき出して犬達を威嚇をする。
恐れることなく、熊の退路を断ち、かく乱するクマたち。
立ったときの大きさは、2mを少し超えるくらいだろか。丁度ガハルトと同じくらいだ。
その前に剣を構え、立つガハルト
「へぇ……”魔物”と聞いたけど。あれはレッド・クロー・ベアかな?」
「うん? アール、詳しいのぉ」
「だって、爪、赤いし? ほら?」
「……なるほど……のぉ」
アールカエフの言う通り、むき出しになった爪は怪しく赤く光る
「デカい赤爪だなぁ~~マジで一人でやるつもりかよ……ガハルト殿は……いいの? 師匠?」
一定の距離を取り、ガハルトと対峙する熊に目をやる
「でしょうね。もうどっちが熊かわからないけど? 邪魔したら怒りますよ? ガハルトさん。きっと」
と、何時ものこととイザーク。
「くっくっく。だの。で、ミスリール、赤爪とは?」
「うん? 食ってる木の実が毒で、体内に取り入れてる”毒熊”。牙と爪に毒があるって言われてるんだ。冒険者から見たら最悪の相手だね。結構強いし、引っ搔かれたら毒消し要るし。肉は食えないし。肝心のキモも食えない。売れるのはゴワゴワの毛皮と、あの赤い爪くらい。しかもお安いしぃ。名誉じゃ腹が膨れないって典型だね」
「ほぉう」
”ごおおおおーーーー!”
ガハルトを真正面に。吠え、威嚇する赤爪熊。
「ふむ。恐怖は無い……な。緊張も無し……参る!」
”ひたっ!”
ガハルトの神速の踏み込み! 熊の右腕の振り下ろしのタイミングを見誤り、熊の右側を駆け抜けるガハルト。
「うむ? ハンス殿との手合わせで大分つかめていたのだが……」
己の身体に目を向け、足の調子。剣の重さなどを確かめるガハルト。そして再び対峙する。
「……走り抜けおった。……化物め」
「す、すげぇ踏み込み……」
「やるねぇ! ガハルト君!」
「ふぅむ……」
”ぶぅん!”
振られた左手を躱す。もちろん毒爪。が、コンマ数ミリで躱す。
「うむ。……」
”ぶふぉん!”
今度は右手。……見えている。完全に見切っている。
――びき……びきき……ぴきん――
この音は、ガハルトの足……腰……背から聞こえてくる?
”ぶん!” ”ぐふぉん!”
クマの左、右。振り子のように振られる毒爪。
――ぐきり、びき……びきり――
それは弓を引くように
”ぶふぉぉおおおおぉおお!”
雄たけびを上げ、今度は体を預けるように殴り掛かる熊! 爪の攻撃を躱されてもそのまま体当たりを敢行しようという腹積もりだ。
――ぎきき……ぴっきん! ――
「見えた!」
”どん!”
一瞬で熊に肉薄! そのまま、真正面から熊を真二つに斬り捨てるガハルト。
熊にしても野生の反射で太い腕を盾のように眼前に出したのだが、その腕。その太い骨ごと、更に熊の分厚い頭骨を剣が割る! その斬撃、剣が伸びたように背を抜け断つ!
「ふぅぅぅぅううううぅ……」
残心……
「やりおった」
「すげぇ……虎人の膂力か? ……いや、タイミングで斬ったという感じか?」
「すげぇ……」
ミスリールにはしっかり見えてたようだ。イザークは驚くばかり。
「うんうん。”限界突破”の恩恵だねぇ。しっかり使いこなせているようだね! さっすが! ガハルト君!」
腕を組んで、うんうん唸るアールカエフ。
未だに、ガハルトの身体のいたるところから”ぴきん!” ”ぴしり!” と音が聞こえてくる
「本当に人か……ありゃぁ」
……




