「さらば! フィヤマよ! またなぁ!」
……
案内された場所の飼葉を”収納”に。馬具を装着して店を後にする。
街中は武官以外の騎乗は認められていないので轡を取っての移動となる。
「さて! これでいよいよこの町より出立となるわけじゃ! 買い忘れとかは無いかの!」
「馬……ハク用のタオルが要るな。後は、厚手の掛物。寒くはないと思うがな。一応な」
「了解じゃ、ガハルト。後は?」
一同の顔を見まわすも特にないようだ。
「では、買い物したらミスリールと合流して出発じゃ!」
{応!}
……
ミスリールを迎えにダイの店舗に。
「うん?」
そこには、二人……一人はもちろんミスリール。そして、ミスリールによく似た、一回り大きくした、ドワーフ族の女性……。大きな瞳に太い二本の三つ編み……
「あ! カンイチさん! ……? うん? 初めてだったか? オレの母ちゃんだ」
「か、母ちゃん?」
――姉妹かと思ったわ……。そうじゃなミスリールがいるんじゃ……その母親がいても何ら不思議じゃないわな。むしろ自然じゃ。勝手に片親だと思ってたわ……。それにしても若い……の。それに別嬪さんじゃわ
「なんとしたこっちゃ……。予測出来たのにのぉ」
思わず口に出てしまった。
「……だな」
とガハルト。彼もカンイチ同様。
「え? ええぇ? 母ちゃん……お姉さん……じゃなくて?」
動揺を隠せないイザーク君。
ドワーフも長命種の括りにはいる。特に女性は若い期間が長い。老齢になると段々、体形も男性に近くなるとか。髭も生えて来るともいわれている。
「あれ? 知らなかったのカンイチ? ディアン君だよ? ダイの親方の奥さんの」
「知ってたのか。アール?」
「勿論。当たり前だろう?」
「初めまして。オレは、ディアンだ。よろしくな! カンイチ!」
「……ついて来る……という事じゃな」
「もちろん。旦那と娘が行くんだ。一人残るのは無しだろう? なぁに、自分の身くらいは護れる。足手まといにはならないさ」
「ありゃぁ、紹介しとらんかったかの? ワシの妻じゃ」
とダイの親方。何処か自慢気でもある。
――まぁ、別嬪さんじゃものな
納得のカンイチ。
「ま、ワシも確認せなんだものな……よろしくの。ディアンさん」
「本当に爺さんみたいだな! カンイチ! よろしくな。ガハルト殿も」
「うむ。こちらこそ頼む。しかし、”金剛爆斧”殿とは……」
「え? ”金剛爆斧”って……あの”金ランク”の? ……男……じゃなかったの?」
「うん? 知らなかったのか? イザーク」
「懐かしいな! 身を引いて結構経つからな。今の若い衆はオレの事なんか知らんだろ?」
「だって……身の程もある巨大な戦斧で……って? どんなものでも叩き割る……」
「大袈裟。そんな力は無いさ」
「……親父を家の外までぶっ飛ばす力はあるけどね……」
「……じゃ、準備しようかの。のぉ、ミスリールよ、他に兄弟が付いて来るとか……は?」
「無いよ。兄貴がいるけど、王都と……どこだっけか? ま、他所の地で所帯持って鍛冶屋やってるし?」
「そうか……」
空荷の馬車に従魔用・犬小屋コンテナ車を連結。そこにハクを繋ぐ。
主要な荷物はほとんどはカンイチとアールカエフの”収納”に。
細々した荷物はそれぞれのマジックバッグに。ダイの親方、奥方もマジックバッグを所有している。ミスリールも装備などは腰に下げたマジックポーチの中のようだ。
イザーク君は……まぁ、未だ、分不相応だ。それなりに、金と力が要る代物だ。
最終的には、人族?1人、人族1人、エルフ1人、獣人1人、ドワーフ3人。フェンリル1頭、狼1頭、犬2頭。馬1頭の大所帯だ。
「よし!出立じゃ!」
{応!}
”がらがらがらがらがら……”
「おおう? 思った以上に揺れないの。この馬車」
御者台に上ってはしゃぐカンイチ。
「うむ! 車軸の軸受に板バネ挟んどる。改良版じゃ!」
御者が出来るのはイザーク以外。彼も習うことにしている。
犬達も大人しく犬小屋に。フジは、馬車の屋根に上って町の人々を睥睨して、満足そうだ。
町の人々も、アールカエフが乗ってるということで手を振り見送り、あるものは涙する。予測はしていたが、英雄とのお別れだ。子供達はフジ達、大きな狼(と犬)に夢中だ。
「ちょっとハンスさんの所に挨拶していく……で」
「ああ。好きにするといい」
……
「ハンスさん、ヨルグさん。皆……改めて……世話になった」
門番の詰め所に顔を出したカンイチ。この世界の第一歩……この世界の人情にも触れた場所だ。
身を正し頭を下げる
「おぅ! 今日出立か……。ったく。ま、色々楽しめたさ! また顔出せよ! カンイチよ!」
「ほんとだよな。国は何を考えているんだか……」
「災難だな……カンイチ。また寄れよ!」
「いつでも歓迎さ。頑張れよ!」
ハンス達の激励を受けるカンイチ。
「うむ、残念じゃがな。また会う機会もあるだろう。それまで元気でな!」
「おう! アールカエフ様を頼むぞ! ……うん? ……って、ダイの親方の処も行くのかよ……」
「うんむ! ダンジョンじゃぞ! ダンジョン! カンイチとアール殿、それにガハルト殿……フジ殿も。こんなパーティどこ捜したって無いぞい! 深部も覗けようさ!」
「だな。……はぁ。大きな損失だわ」
「隊長だって独り身だったら付いてくでしょうよ?」
「まあな。子供がもうちょっと大きかったらなぁ」
「ふふふ、じゃぁ、また会おう! 皆の衆!」
”ざっつ”
衛兵たちの最敬礼で見送られるカンイチ一行
{おう!}
「またな! カンイチ!」
……
「気の良い連中じゃ……別れが惜しいわい……」
「まぁ、”収納”ある時点で予感もあったじゃろが? その若さじゃしの?」(ダイ)
「まぁのぉ……」
再び取って返し、町の中へ。北門から出るためだ。
ここでもアールカエフの人気は高く。多くの声援に送られる。
「流石”英雄”様じゃなぁ」
「ま、僕は魔石欲しくてやっただけだし? 次の”氾濫”は、とっとと逃げるつもりだったしぃ? 無様なところ、見られなかったということで良し?」
そう、勝手にだが”期待”を集める”英雄”様が、とっとと逃げだす姿を晒さなくても良くなったともいえる。
「……そうとも言えるかもの。この声援……イコール”期待”じゃっただろうに」
「そ。一応ね、これで肩の荷が一気に下りたよ? はっはっは!」
「何よりじゃ。これでわしだけのアールじゃな……」
「おお? 気のきいたセリフだね! カンイチ! ふふふ」
「ふんだ!」
北門から、審査を終え町を出る。本来は、”住人”はその領地の”財産とみられる場合があるが、彼らは出る分にはそうきつくはない。元々冒険者だし、移民のドワーフ。そして、放浪のハイエルフだからだ。
「さらば! フィヤマよ! またなぁ!」
カンイチの感謝の声が木魂する <第一部 完>




