鍛冶車
……
朝食後の一服が終われば、活動開始のカンイチ一行。
昨日、移動の挨拶と、世話になった礼をしにいったら、ダイの親方と、娘のミスリール親子が付いて来るという。最終確認をしにイザークとフジをお供にダイの親方の所にやって来た。
フジは大抵、カンイチと一緒だ。ハナの願いらしい。一番強く、街中に4頭も出られないから。
「おお! す、凄いのぉ……」
「うわぁ! 格好いい! すげぇ!」
先ず目に入ったのは、店のわきに小さい”家”があった。幌馬車を改造したのだろう。家に4つの車輪がついている形だ。まるで、トレーラタイプのキャンピングカーのよう。
「はふぅ~ん……。もう、朝かのぉ? ぅうん? カンイチか?」
大きな欠伸しいしい、目をしぼしぼさせて窓から顔を出すダイの親方。おそらく徹夜で頑張っていたのだろう。
斜めに射す朝日の光に目を細める
「おお? おはよう、親方! これこさえたんか?」
「おう! どうじゃ! ちと、張り切ってしもうて、徹夜じゃ! これから小さい魔導炉を乗せての! 煙突付けて……簡易の鍜治場……そうじゃな、『鍛冶車』じゃぁな! ま、ワシと、ミスリールくらいなら寝られるで」
――鍛冶車ぁ? 何じゃか火の車みたいじゃぁのぉ……。あながち間違いじゃないかもしれんの……ワシらについてくりゃぁ、稼げんで……本当の『火の車』にならんようにせねばのぉ……
と、物騒なことを考えるカンイチ
そして、ここまでやってるのだ、今更意思の確認も無いだろうと。
ダイインドゥ親子は行く気満々だ!
「いいな! 親方! ワシらの分も作ってくれんか!」
「うん? 馬車……かの?」
「いや、ワシらのは”収納”で運ぶで。ほれ、野営の時に便利じゃろ? ダンジョンの中とかでも使えそうじゃ」
カンイチの言葉を聞き、理解したダイの親方。
「ふぅむ。なるほどのぉ……家代わりか。受けようか。ま、移動しながら手も加えられよう。早速、馬車屋に行って平馬車と予備の車輪、車軸を買って来るかの」
「もう一台。魔導炉の乗った重い馬車をわざわざ、馬に牽かせるのもかわいそうじゃ。そいつは、”収納”で運ぶで。親方が乗る馬車もの。銭はこっちで出すで」
「うむ! なるほどな! 馬の消耗も少ないの。そいつは助かるわい! ではそうしよう! おうん? ”収納”に入れてくれるのであれば、魔導炉もうち(大型)のを載せられるのぉ……。うむうむ。でじゃぁ、寝床の馬車は……最小限の、2台で良いの? カンイチ、アールカエフ殿と同じが良いじゃろが、ま、我慢じゃな! 若いのもおるでの! ばっはっはっはっは!」
「……誰かさんみたいに盛ってないわい! じゃが、ガハルトがでかいで……」
「俺?」
「なら、カンイチとアール殿。ガハルト殿とイザーク、ワシらの分の3台にするかのぉ。大丈夫か?」
「まぁ、アールも”収納”持ちじゃぁて、何とかなるだろ。うん? どうしたフジよ?」
『我は何時でも盛っておるぞ! お爺ぃ! でだ! ダイとやら』
「おい……」
「フジ様!」
「……なるほどのぉ……喋る魔獣殿か。よろしく頼むの。フジ……殿?」
『うむ。追々で良い。我らの……クマたちの分とで二つ。家を所望する。雨除けはもちろんのこと、風の通りも良く、居住性も良いものをな。高さはそうは要らぬ……屋根の傾斜は緩くし、日向ぼっこが出来るとなおいいな』
「カンイチ?」
「……主は何時も要望が多いいのぉ。まったく。親方、悪いが用意してくれると助かる。ボチボチで構わんで。一台を仕切ってもいいで。あ……金も渡しとくの」
「ああ……承った……。が……」
『子作りには必要であろうが』
「そうじゃぁの。承ったぞい」
「すまんのぉ。親方。相も変わらず盛っておるのぉ。フジよ」
『当たり前だ! イザークよ! 我を見習うと良い! こういった気配りが大切ぞ!』
「は、はいぃ……」
「イザーク君……ほどほどにの……変態認定喰らわんようにのぉ……」
「はいぃ」
……
「じゃが、これだと、5日……一週間はかかろうな」
「まぁのぉ……それでも十分早いくらいだわな……」
「結構かかりますね」
「上だけじゃぞ? 馬車屋に土台になる幌馬車がありゃええがの。新品がええじゃろう。側(がわ。大まかな外観。壁や屋根)位作らんといかんでの。」
「あ、大工や、馬車職人雇ってもいいぞ。親方。いくら何でも親方一人じゃ出立前に体壊しちまうじゃろ。人工代……これで足りるかの? 必要な金額……まぁ、ええわぃ! この金預けておくで! ガッツリ良いもん作ってくれ!」
”収納”から金貨の詰まった麻袋を引っ張り出し、ダイに渡す。
「ほう! 大きく出たのぉ! カンイチよぉ! ”じゃらり” ……お? おぅ……凄いの。……十分すぎるわい。予備の板も買っておくかのぉ。よぉっしゃぁ! 特急で取り掛かるわい! が、土台になる馬車がなけりゃ延期止む無しじゃぞ」
「うむ。了解じゃ! 他に要るモノがあったら言ってくれ」
……
着々と準備が進む中、ギルドから書状が届いた。
「面会か……のぉ」
「そうだろうな。ま、どのみち一回は顔を出さねばなるまい?」
とガハルトが応じる。
「そりゃな。リストさんにも世話になっておったからの。いくか」
出発前日にでもと考えていたカンイチ。
「そういえば、領主様の方からは何もありませんね」
と、イザーク君
彼の言う通り、あれから何一つ接触も無い。ハンスさんの方からも
「そりゃぁ、腹心が一枚噛んでたんだ。出てはこれまい。”弁明書”くらいは来るだろうが。交渉したくとも、当分は動けぬだろうさ」
「ま、その間に、ワシらはダンジョンじゃがの!」
「くくく。そうだな。で、どうする? 俺とカンイチで良いか?」
シュタッと手を挙げるアールカエフ。
「僕も行く! 僕だって挨拶したいしね!」
「で、良かろう?」
「じゃ、早速行くか」
……
 




