異物
神様に教えてもらった河原に到着。
運良く、途中に大きな兎を得る。
早速と解体、河原の石を用いて簡単な竈を組み、焚き火を起こすことにも成功する。
「ふぅ。今のところ、いたって順調じゃ。どれ、これでひと心地じゃな。お前たちも腹が減っていよう? クマぁ、ハナは生のがええの。ほれ」
と、兎肉の塊を放る。その真っ赤な肉塊に美味そうに食らいつく犬たち。その様子を見守る。
「うむ。本当に狼みたいじゃぁの。まぁ、ええか。この世界は危険ちゅうたからの。どれ、ワシも食うとするかの」
赤身の兎の肉塊を薄くそぎ、焚火の周りの石の上に並べる。串焼きにしたかったが、寄生虫等が心配だ。よく焼くには、薄くそいで石焼の方がよかろうと。
大きなバナナの葉でもあれば、じっくりと蒸し焼きにしたに違いない。戦争中の南の国を思い出して。
焼き上がった兎肉を、慎重に観察。赤い部分(生焼けの処)がないことを確認し、口に。
「”むぐむぐ”…。ほぅむ! こりゃぁ美味いの! 味付けなしでこれとは。うむうむ」
ものすごい勢いで兎を胃に納めるカンイチ。次から次と。肉を切り、焼いては喰らい、切っては並べ……
「ふぅ……。うん? ワシ……こんなに食ったか?」
気が付けば大きな肉塊一つ、きれいさっぱり、カンイチの胃袋へと消えていた。
首を傾げていると、
「お? おおぉ?」
”ぐるりぐきゅり”
大量に肉を収めた胃袋が歓声を上げる! 腸も早く回せと顫動運動を始める。
「そういや、こんなに肉を食ったのは何時ぶりじゃ。おうおう。胃袋もびっくりしておるわい」
食事の余韻。内臓の歓喜を楽しみながら食休み。
さて、動くかという時に、
『おお! カンイチ! 無事かぁ? 悪い悪い。会議抜けられなくてなぁ』
突然脳裏に***の声が響く。そういえば約束の時間はとっくに過ぎている。
「……神様。ワシの事はどうでもいいので。星の方をちゃんと見てくだされよ。星が消えたら元も子も……」
『任せとけって。でだ。補足説明な。その星についてな。大きさは地球より二回りほど大きい。一日の長さもそう変わらないだろう。ご要望なら自転スピード速めようか?』
「ひぃ! 私の為にそのような」
『冗談だ。でと……人口は、地球のおよそ半分くらい。カンイチに似た人種と、獣とその人種を混ぜたような容姿の獣人種、後は御伽の話に出てくるような魔法特化のエルフ人種やらドワーフ人種やら適当に”入植”している。カンイチ! その気があればお前はどの種族とも”繁殖”可能だぞ』
「は、はぁ……」
『感動が薄いな。おとぎの世界、ゲームの……まぁいい。カンイチだしな』
色々と言いたいところだがグッと我慢するカンイチ。どうも、全てが……常識が”ゲーム”に行きつくところが納得できない。そんなに“ゲーム”とは偉いものかと。
「では、私と同じ人種はいないのでしょうか?」
『は? カンイチよ。お前は、人じゃねぇし? 神の一歩手前の”亜神”だし? むしろ俺たちに近い。地球に行っても”異物”だぞ?』
「い、”異物”……」
何気にショックを受けるカンイチ。まさか異物扱いされるようになるとは。
『まぁ、繁殖も可能、普通に生きていくことは可能だろうさ。それで、人種に似た亜人。化物もいる。注意な。そんなところだが……ゲームやってた若いのなら楽なんだがなぁ。質問は?』
「また”ゲーム”かのぉ……。疑問も多すぎて、何が何やら。それでは……」
常識、金銭等について聞こうと口を開くも、
『ふ~ん。そか! それじゃ、頑張ってみろ。またなぁ』
「あ! 質問が……」
――質問を求めておいて行かれてしまうとは……。
一人ぽつんと残されるカンイチであった
すこしの時間、天空を見上げ呆けていたカンイチ、
「ふぅ。ここに居ても仕方ないか。行けるところまで行ってみるか……」
藪を抜け、再び街道に出る。来た時は人っ子一人居なかったが、今では多くの馬車が行き来している。橋のたもとに腰掛けて通行する人や馬車を観察する。
商人の馬車であろうか。荷物を満載にした幌馬車。こちらはバスのような箱を曳く馬車。乗合馬車だろうか。こちらは馬車の側面に大きな紋章が。それを囲む武装した男たち。貴人か何かの馬車だろうか。
「ふむ、ワシの知ってる普通の馬だなぁ。バケモンみたいなのばっかりだと思ったが……」
そしてカンイチの目に映るのは、ヨーロッパ系の人種に似た人々。しかも目につく男は赤毛、金髪……と体もガッチリとしている大男ばかり。
外人どころか『異星人』なのだが、カンイチにしてみれば、異星人、異世界人だろうがなんだろうが、黄色人種以外は”外人”だ
「ここの世界の方は皆、外人さんかのぉ……」
むしろ、カンイチの方が外人さんなのだが。それ以上の”異物”でもあるのだが……。心配せずにはいられない。ここで暮らしていかねばならぬのだ。
「大丈夫だろうかぁ。ワシ。英語あまり(全然と言ってもいい……)しゃべれんぞ。この星で生活できるじゃろうか……」
”く~ん” ”く~ん”
慰めるように鳴く犬たち…
「まぁ、その時は山奥にでも引き籠ればいいだろうさ。畑耕してのぉ。じゃ、そろそろ、村さ向かって歩こうかの」
特段急ぐ道中でもなし。のんびりと、クマたちと戯れながら街道をゆく。道すがら、食用になりそうな草や、木の実を採取しながら。
「さっきの川さ、アユがいればええのぉ。塩焼きにして、蓼(たで・『蓼食う虫も好き好き』の野草)がこれだけあるんじゃ。蓼酢もつくれるのぉ」
などとのんきなことを言っていると、街道の先に町が見えて来た。
多くの家々が並び、ぐるりと木の矢板で隙間なく囲まれている。落とし門を備えた大きな門。町に入るためであろう、多くの人々が列を作っている。
「ほほぉ。結構大きな町じゃなぁ。市が立ってるのか? 随分とまぁ賑やかじゃぁの。あ……ワシ、ひょっとして。一文無しか?」
ひょっとしなくとも文無しである。ツナギのポケットを探ったところで何もない。
「……勢いで(天界より)降りて来てしもうたが……。猶予でいただいた”一週間”、じっくり使えばよかったかのぉ」
今更思い至っても後の祭り。選択肢は二つ。町に入るか、このまま通り過ぎるか。仙人生活も良いが、最低限の情報収集はせねばなるまい。己の安寧の為にも。
「先送り…は無しだな。ダメで元々! 当たって砕けろじゃぁ!」
気合いを入れ、列の最後尾に並ぶ。
……
クマたちと戯れているとあっという間に順番となった。




