仲間たち
アールカエフが”御籠り”に入って、三日が過ぎた。
「カンイチ……飯食え。体がもたんぞ?」
「ああ……。後で……の」
多くの花で飾られた寝台で眠る、アールカエフ。彼女の横に陣取り、微動だにしないカンイチ……。
偶に動くと思えば、アールカエフの脈をとったり、彼女の目から零れる涙を拭くときだけ。
「カンイチ。アールカエフ様も、今のお前の姿に嘆いて涙を流されているんだ! お前が、病気になったらさらに悲しまれるぞ」
「ああ……そうじゃな……アールよ」
「カンイチ……」
「どうでした? ガハルトさん? カンイチさんの様子は?」
「うむ……もう暫くかかるだろうな。思った以上にショックが大きい様だ。知り合ってそんなに経ってないだろうに?」
「時間……じゃないですよ。よし! 特製滋養マシマシの蛇スープ。持って行ってみようか……」
「すっかり、スープ職人だな……イザークよ。……確かに美味いのが少々腹立たしいが……」
「なんです? それ。ガハルトさん? 美味いのは正義ですよ! じゃ」
「カンイチさん。お邪魔しますね」
「うん? おお……イザーク君。犬達の世話……ありがとうの」
「いえいえ。クマたちも仲間ですし。問題ないですよ……。アールカエフ様……奇麗ですねぇ」
「うむ」
「で、カンイチさんご飯は?」
「後で……の」
「それじゃダメですって。スープもってきました。もちろん、アールカエフ様の分も。ほら、あの時、アールカエフ様が褒めてくれたスープですよ。お代わりもしてくれた」
「あの時の……アールが美味しい美味しいって言った……?」
「そうです! そうですよ、あの時の。さぁ!飲んでください!」
「イザーク君……。ああ、いただこう。”ずぅ”……美味い。美味い……の」
ぼろぼろと涙を流すカンイチ……
「……カンイチさん。そうだ、焼き立てパンも持ってきたんですよ。アールカエフ様の分も。送る御勤めにも体力は必要ですよ。途中で倒れたら誰がアールカエフ様を御守りするんです?」
「そうじゃな。イザーク君の言う通りじゃ……最後まで御勤めを果たさんとの。スープ、もう一杯頂けるかの」
「ええ、もちろん! 沢山ありますから!」
……
「やるな……イザーク。助かった」
「いえ……結構食べてくれましたよ。でも……アールカエフ様が……くっ」
イザークの頬にも涙が伝う。
「大変、明るいお方だったからな」
「ええ、ええ……あの笑顔がもう見れないなんて……」
「どうだい。様子は?」
礼服に身を固めたジップご一行。様子伺いに来たようだ。
「ああ、ジップ。すまんな。うちのチーム世話になりっぱなしだ。……まぁ、俺が言うのも何だが」
「やっと、先ほど食事を摂ってくれました……」
「そうか……まぁ、アールカエフ様には俺たちも世話になってるからな……でも急だな」
「ああ。カンイチによると、出会う前から症状はあったらしい。症状というのも変か……”寿命”だものな」
「そうだな。大往生……だな。これだけの花。ずいぶんと慕われてたようだしな」
「ああ。何せ、あの領主様から見舞いの文と花代の金子が届いたくらいだ」
「そいつはすごいな……領主様もそこら辺は弁えていらっしゃるようだな」
「ああ。接触も今のところないしな。まぁ、あってほしくない……今のカンイチの精神状況ではな」
「は? やられちまう……か?」
「さてな」
「いえ……俺は逆だと思いますよ。アールカエフ様のお眠りを妨げるものが来たら……皆、切り刻むでしょう。何人でも、容赦なく」
「……だな」
「……なら、最悪のお知らせだ。王都組が、この町に入ったようだ。『活動休止中』の貴殿らだ。王都のギルドの連中は抑えが利くと思うが、貴族……はな」
「ふむ。俺のやる事は変わらぬ……。アールカエフ様が最後、カンイチの事を頼むと、ワインと共に”命”を下賜されたからな」
「そうか……なら、俺も混ぜてもらうか」
「うん? ジップ? わざわざ危険に身を晒すこともあるまい?」
「ああ。だから、チームじゃなく俺個人でだ。王都行も延期っぽいしな。時間はある」
「……俺も手伝おう。狼の世話等もあろう?」
「私も。女手は要ると思うわ。早速カンイチさんと打ち合わせしてくるわね。そうそう、イザーク君。夜にはお風呂に入れるようにしておいて。必ず行かせるから」
「はい! お願いします! 皆さん!」
「ううん? イザーク……。君? 私を忘れてないかい?」
「え? ええ? ガルウィンさん?!」
「は? お前さんも参加か? 珍しいな!」
「ええ! もちろんですとも! アールカエフ様とカンイチの純愛……市井で既に物語となっていますよ。そのような御方のお手伝いが出来るとなれば! 吟遊詩人達も、その物語を曲にと競っております! ああ! 素晴らしい!」
「……はぁ?」
「……すまんな。イザーク。少々……ズレてるが、剣の腕は特級だ」
「い、いえ……ははは……」
……




