力を欲する者達……
領主館
イザークからもたらされたアールカエフの状態。
その情報をもって、領主館へと急ぎやってきたリスト。今日の会談と、今後なされるであろう、勧誘――脅しに対するけん制のために。
内密の話と願ったのだが、通されたのは謁見の間。多くの施政に関する文官もいる。先ずは、アールカエフの事は伏せ、『活動停止』と報告する。
「何ぃ! ここに至って活動休止じゃとぉ? 昨日返答があったばかりじゃろう? 都合がよすぎるの……どんな理由じゃ?」
「理由も何も……『活動休止』彼らが決めた事……余り問い詰めますと町から出て行ってしまいますよ?」
「……じゃが、どうせ、王都からの連中に会わせる……のじゃろうが?」
疑いの目をリストに向ける領主。
自分の処より先に王都の連中に会わせるのだろうと疑う。取られてなるものかと。食って掛かる
「『活動休止』と言いました。私は会わせる気はございません。グランドマスターも了承いただけるでしょう。侯爵様にはグランドマスターの方から説得していただくつもりです。早馬も出しました」
「信じられるか! コソコソと……其の方、ワシを愚弄してか?」
「……では、仕方ありません。人払いを……」
「うん?……わかった。ここは大丈夫じゃ、皆、出て行け!」
「はい」
……
「……な、何と。アールカエフ様が……」
「はい。もう長くはないと……で、今回の渦中の冒険者のカンイチをアールカエフ様が最後の時を過ごす相手にと望まれました」
「ぬくくく……」
さすがに、”英雄”アールカエフの意志には逆らえない。それだけの恩もある
「お父上の代とは言え、”氾濫”を収めた、大恩ある、アールカエフ様。その最後、騒がせたら……」
「ふぅ……。このワシだってそれくらいわかるわ。……解った……了承しよう」
「聞き届けていただきありがとうございます」
「良い……。”英雄”殿には色々と助けられた。最後は安らかにしていただきたい……この地に暮らすもの、皆、同じ願いであろう。見舞いの文を出したいのだが?」
「はい。御預かりします……」
人払いした謁見の間。そこに掛かる絵画の裏……覗き部屋に改造された物置……そこにはミュンヘンの姿が……
――ふん。好都合だな。”英雄”殿は動けない……と。バラグライド侯爵にも一報を入れるか。馬車の足も上がろう。くくくくく。
……
王都~フィヤマ間 街道上
「ふぅむ? リストからの早馬だと?」
「はっ! 緊急の文があるとの事」
「わかった。伝令には今晩の酒代くらい出してやれ」
「はっ!」
周りを固める護衛の騎士から渡された書類をぽんとレミュウに放るレッド。
「もうここまで来ちまったが……何か起きたのだろうか? 急ぎっちゃ、例の冒険者か、ゴブリンか?」
「ゴブリン……ああ、境界がどうのと騒いでいましたねぇ。さっさと対処しないと被害が大きくなるのに……どれどれ……」
「で、溢れたか?」
「はい、レッド・ギルド長。文によりますと……件の冒険者が無期限の『活動休止』との事。う~ん。これじゃぁ、ギルドとしての面会は叶いませんね。一般人の扱いですし。これじゃリスト殿に別に面会の場を設定してもらわないといけませんねぇ。うん? 面会自体を断る? はて? 何かしました? ギルド長? お貴族様には、あまりしつこいと国を出るとか言って引き返してくれと……うん?」
「するか! ん? どうした?」
「こっちはギルドの暗号符文?……ふむふむ。! な! なんと……」
「どうした? レミュウ? そんなに狼狽えて?」
「極秘でお願いします。アールカエフ様が、御籠りになられたと……その看取りに、件の……カンイチ殿が選ばれたそうにございます」
この世界。エルフの”御籠り”……その意味は、死を迎える直前。木のように眠る時を示す。もっとも尊厳のある時である。そして看取る……それが出来るのは肉親や配偶者、極く、親しい者しかできない。
「なにぃ! 真か! ……こいつが侯爵の耳に入ったら……」
「ええ……益々……。しかも、アールカエフ様はこの国の抑止の一角。それが失われるとあっては……より、新たな”力”――フェンリルを求めるかと」
「くそ……今から会談を申し込もう」
「それが良いでしょうね」
……
……
「なにぃ? レッド殿ぉ。ここまで来たというのに引き返すというのか?」
目の前に平伏する、ギルド長らを見下ろし、不機嫌を隠そうともしない。
宰相の甥にあたる、バラグライド侯爵。年の頃、40後半。
自称、やり手侯爵と宣うが、古い家と地位、血族の宰相のおかげと気が付かない愚物だ。
「はい。ギルドといたしましては。『活動休止中』のチームに命ずるのも……あまり追い詰めますと他国に流れる恐れも……」
「ほう。他国にのぉ……ふふん! ワシが何も知らんとおもってるのか! アールカエフというエルフが死の床に……というのであろう? そんなモノは王国の一大事には関係あるまい!」
「ど、何処でそれを?」
「貴様らだけではないわ! 策士と言われし、この私だ! 多くの耳だってあるわ!」
「ちっ、何が策士だ……」
「ギルド長」
「何か言ったかな? そのアールカエフとやらにしろ、わが国が保護してやってるものであろう? しかも、名誉なことに戦力に加えてやっているのだ!」
「はぁ? 何を……」
ぐいとレミュウがレッドの服を引く。その目にはこの手の者には何を言っても無駄だと。
「ちっ!」
ぎゅっと、拳を固く握る。
「その戦力が使えなくなるのだぞ? であれば、新たな! 強大な戦力を補填せねばなるまいよ! 更なる力! フェンリルをなぁ! くははははっはは!」
「で、侯爵様、その強大な力、フェンリルにどうやって言う事を聞くかせるので? 不勉強な私に御教え願えないか?」
「ふん。我は策士ぞ。多くの策で固めてあるわ! 黙ってみているがいい! ははははははは!」
悦にはいり、大笑する公爵。
それを冷ややかな目で見る二人……
――策などあるまい……この馬鹿野郎が! ちっ――! こりゃぁ、下手すりゃ、この馬鹿野郎のせいで町、国が消えちまうな……
「ではこのまま参ろうか! ギルドの連中は引き返してもいいぞ。……役立たずめが!」
「我らも参りますぞ……」
――最悪の事態に備えて……ついていくしかあるまいよ! 先にこの馬鹿が死んでくれればいいがな……はぁ、来なきゃぁ良かったわい……
「ふん! 勝手にするがいい! 出立じゃ!」
「はっ!」
……




