壮行
……
《カンイチよ。早速と今後のことが決まったと聞きました。喜ばしいことです》
*********が現れた。
二は***と、*****を待っていたつもりだが……。
その後ろに***と*****もいた。どうやら、酒宴はないらしい。
酒を断ったと言っても一緒に呑む相手がいなくなり、自然と縁遠いものになってしまった訳で、元々は嫌いではない。それに、ここは天界。それなりに期待していた二。少々残念である。
《一応、ピックアップしておいたが……。本当に***の星で良いのかい?》
「は、はい! どのみち他の星と言ってもワシに……私にはわかりませんし、管理者であられる、神様がわざわざ招いてくださいましたから」
《そう……。確かにリストを見るだけではわからぬことも多い。文明が高い、それが住みやすいとは言えぬしな。むしろ自由は制限されることであろうな》
「はい。それ相応の力もいただけたようですし。畑を耕すには十分かと」
お、おい! 余計な事を言うなと焦る***
監督者である*****の顔色も悪い。
《畑? ふむ。どれ……。なるほど……良くも盛ったものよ。では、我からも祝福を》
ステータスモニターの一部が変わる。
農業Sが、EXへと。
天界ポーチの事故(無限収納)やらのお咎めはなし。ほっと胸をなでおろす***
《それで思う存分、何処に行っても田畑を耕せるであろう。それと、身を守るものが必要だな。其方が持ち込んだ武器。これも使えるようにしておこう。銃剣? ……”ぴ!” なるほど。このような形状にすればよいのか……》
”神”が、壊れた散弾銃に手を触れると、歪んだ銃身が元のように真っすぐに戻り、青銀の鈍い光を放つ。その銃身には新に山刀等の刃物が取り付けられるようなアタッチメント、台座が現れる。
《こんなものであろう。これは、神器。其の方しか扱えぬ。もちろん、”弾”も撃てる。弾丸はイメージだ。良いな》
「はぁ? あ、ありがたき幸せにございますぅ! 神様!」
平伏し、礼をいう二。
『イメージってのは、カンイチ、弾丸の仕組みやら分かるだろう? それを頭に思い浮かべるんだ。そうすりゃ、”銃弾”が勝手に装填されるだろうさ』
神様から散弾銃を受け取る。吸いつくような握り心地。重さも申し分なし。適当に振ってみる。”ぶんぶんぶん!” バランスも申し分なし。己の手の延長のように動く。
”ひゅひゅひゅ!” 突きを数回くりだす。全く問題はない。二の表情がそれを物語っている。
《うむ。良いようですね。では、送るとしましょう。良き”修行”を》
『*********様。少しお待ちを。カンイチ酒宴は流れてしまったが、準備した酒、そんなに多くはないが持って行くと良い。それとその銃の弾? だ。これがあればイメージしやすかろう』
幾本かの酒瓶と、発砲前の散弾を二に手渡す*****
「あ、ありがとうございます。神様」
『うん?***は無いのか? 餞別』
『は? ……! ……そうだ! これもってけ。カンイチ。売ってもいいし。犬に食わせててもいい』
***が持つ巾着袋から例の化け物熊を引き出す。
「はぁあ? 神様、こ、これをどうせよと? 背負って行けとおっしゃるので?」
巨大な熊を目の前に狼狽える二。持って行けと言われても精々腕の一本か?
『あ、そうだ。”実行”! カンイチ・ミッション・スタート!』
***が、声高々に宣言! そして手元の端末の画面をタップする!
「はぁ? ”どくん!” ! う? うぐぅ!」
***の宣言で、二の身体が跳ねあがる! 体中の血管に熱い何かが回り、全身が熱を持つ。それでも勢いが収まる気配はない。その勢いのままに体中を何周も何周も熱い何かが回っていく。
「あ? あぐぐぐぅ! あがぁ!」
見よ! 頭髪がみるみる黒く、細い手足に筋肉がついていく。
「あ? あうぁ! うぐあぁああ!」
元からシミは少ない二爺さんだが、その肌が輝きを発していく。水分の少ない肌が砂漠の砂のように水分をどんどん吸い、奥底に溜めていく。皺だらけの皮膚が、張りのある瑞々しい肌へと置換されていく。
「あ……おおぉ?」
ぐいんと伸びをする二。適度な筋肉、その小鹿のようにしなやかな体、精悍な顔つき。が、幼いながらもその目には100年の刻が窺える。
「お? おお? か、神様? こ、これは…」
”ぽきぽき” ”ぴきり” ”ごきり”
何時の頃から、歳のせいでその機能を十全に発揮できなかった関節が歓喜の声を上げる。
”ぐきゅるるきゅる”
と同時に老人の身体ではそこまで栄養素を必要としなかったが、この若い身体。長い眠りから目覚めたかのように食糧を欲する。巡る血の一滴すら、養分が足りぬと訴えているようだ。
『カンイチよ。……まるっきり別人だな……おい』
と、***がこぼれ落ちそうな目玉を向ける。
『それは仕方あるまい。 『寿命限界個体』 から、最も活動的な 『成熟前期個体』 への改変なのだ。しかし凄い腹の音だな。我らに空腹という概念が無いので用意は出来ぬが……』
と、*****。口調は穏やかだが、久々のイベントにすこし興奮し顔が赤くなってる。
「ありがとうございます! 神様! 後は自分で何とかしますじゃ! この熊さ焼いて食ってもいいしのぉ」
『うん? なんか(言葉使いが)変だが……。まぁ良いだろう。んじゃぁ、カンイチよ。その熊に手をかざしてだな、”収納”……そうだなぁ、倉庫……いや、棚の方が良いか? そこに仕舞うイメージで』
「はい! 神様”収納”! …!!! おお! 熊、熊さ、が消えたぞ!」
”ふっ”
眼の前にあった大きな四腕の化け物熊の亡骸が一瞬で消える。
『うむ。上出来だ。頭に、己の中の倉庫の風景、そして中身を思い出してみよ』
「…なるほど…このように見えるのかの」
今、二が頭に思い浮かべている風景。広い畳の部屋に多くの桐箪笥がずらりと並ぶ。
その引き出しの一つ。そこに”熊”と書かれている。その引き出しを開けるイメージをすると、ぱっと足元に化け物熊の亡骸が現れる。
「熊! こ、こりゃぁ、魂消たのぉ……」
『別に声に出し、叫ばなくともいいぞ。ほれ、この酒も入れていけ。貴重なものだ。いっぺんに飲むなよ? じゃぁ、俺の星に送るぞ』
《うん? 犬たちも一緒に行くのかい。此処に居ても良いのだぞ? ……ふぅむ。……では、主人を守る”牙”をやろう。達者でな》
”わおふ!” ”ぅおふ!”
礼を言うように吠える犬達
『じゃ、カンイチ! 短い時間だったが楽しかったぞ! 元気でな!』
「はい! 神様! 大変お手数をおかけいたしました。そしてお世話になりました! では、お願いします!」
床に幾何学模様が浮かび上がり、二と二頭のハスキー犬を光が包む。その光が小さく、より強く光を発し、そのまま光の尾を引きながら、***の頭上に浮かぶ球体へと吸い込まれていった。
『ふぅ。無事に到着いたしました』
《ふふふ。どうだ***よ。命というのも良いものであろう》
『はい。良い学びの場になりました』
《ふむ。であるならいい。気を抜かず、以後、務めるがよい》
『はい』
……
《それでは、後は地球での始末が残っている。良い学びのついでに*****と***でやってみるといい》
『は? そ、それは……』
『……はぁ』




