医師? アールカエフ
……
「うん? ところで、アールよ。診療所の先生も追い出してしもうてええのかよ?」
「構わないよ? 僕が診るし? 100年くらい、お医者の真似事してたから大丈夫だよ?」
「……そうかの」
伊達に1000年生きていないと、感心させられるカンイチだった。
「お待たせしました!」
大量のタオルを抱えてイザークが戻る。
「よし! 次は、その桶に水を汲んできてくれたまえ!」
「は、はい! アールカエフ様!」
二つの桶を抱え、再び出ていくイザーク君。それを見送り、ガハルトに向き合うアールカエフ。
「良し……と。じゃ、ガハルト君! 死ぬことは無い……と思うけど? 飲んだらすぐに効果が出る。急速に治癒が始まるよ? それで、彼方此方に激痛が走るよ。数週間分の苦痛を一日で体験しようって言うんだ。めっちゃくちゃ痛いぞーー!」
「ふっ、はい……お願いします……」
「余裕だねぇ。ぃよぉし! 景気よく行ってくれたまえ! 一本全部、一息で!」
「い、頂きます……”ぐびり、ぐびり……ごくり”」
牛乳瓶のようなガラス容器に満たされた、淡く光る緑色の溶液を一息に飲み干すガハルト
「う……うぅぐぅ!」
ガハルトの身体が光を発し、一回り膨れ、すぐに戻る。
”ドクン! ドクン!”
心臓の動きと共に上下する肋骨。鼓動の脈動が伝わってくるようだ。
「うぅごぉぉぉおおおぁ!」
鼓動と共に絞り出される、苦鳴。そしてベッドに張り付けにされたかのように動かない。
その様子に腰が引けるカンイチ……ガハルト以上に顔色も悪い。
――毒じゃぁ無かろうか? このまま、死にはせんか?
と、心配顔だ。
そんな事は他所に、ふむふむと満足げに見守るアールカエフ。
「おっと! 折れた腕を成型しないとね。折れたままくっついちゃうな。よっしゃ! やるか! カンイチ、ここんところ押さえて」
「りょ、了解じゃ!」
アールカエフの指示に従い、肩口を押さえるカンイチ。そのガハルトの折れた腕を取り、
「ふむふむ。ふん! ”ぴきし!”……と、ここ? ”ぴきり!” ”びきり!” ”ごきり”」
易々と捩じり、骨を合わせていくアールカエフ。意外に力もありそうだ
「や、やるのぉ。アールよ」
「ふふふ。100年は無駄じゃなかったね! ふん! ”ぴきり!”」
折れた腕には、ずれないように添え木をし、他に骨折してる場所かないか調べる。ここでもアールカエフの謎の『診断魔法』とやらが活躍する。骨折の治療を終え、ガハルトの様子を見守る。
「うん? 随分と落ち着いてきたようじゃが……凄い汗じゃな」
「おうぅ? 思ったより効果抜群!? 普通の人間だったら悶絶して死んでんね……。こりゃ?」
「ひぃ! マジです! アールカエフ様ぁ!?」
丁度、イザーク君が水を汲んで帰って来たところだ
「お! 丁度いい! イザック君! ガハルト君の汗を拭いてあげて――あ! そうだ! 扇風機もできたぞ! カンイチ! 早速試してみよう!」
「応! ……イザーク君じゃ」
「はい! ガハルトさん、しっかり!」
”ぶぅぅぅううううぅぅ……ん”
虫羽根の扇風機が勢い良く回る。中々の風力だ。
「うむ。よう出来てるのぉ。良い風じゃわい……思ったよりも音もしないの」
「だろう! さぁさ、お茶の準備ができたよ! 一服しよう!」
「い、良いんですか? アールカエフ様?」
「長丁場になるんだ。休憩は大事だよ! イザック君 「イザークじゃ」 ま、そゆことで」
「はぁ、いただきます」
扇風機の風を遠くからガハルトに当て体を冷やす。汗の気化で熱も奪え、効果抜群だ。
未だに、真っ赤なガハルト。意識は無く、時々うめき声……”ぐるるるぅぅ”うなり声が聞こえる。
「すまんの、アールよ。付き合わさせて」
「いや、何。これでも楽しんでるんだよ! 僕は! 気にすることは無いよ。イザーク君も休憩しながらね」
「はい」
……
「ふぅ。心なしか、寝息も穏やかになって来たか?」
ガハルトの身体に当ててる濡れタオルを交換しながらガハルトの顔を覗き込むカンイチ
「そうですね。はふぅ……」
「うん? 仮眠とれ、イザーク君」
「だ、大丈夫ですよ。カンイチさん」
「長丁場になるで」
視線をガハルトが寝ている隣のベッドに移す、そこにはアールカエフが高いびき。
”くひょぉ~” ”ぷひょ~”
「くくく」
その様子を見て思わず笑いを漏らすカンイチ。
「しかし……凄いですねぇ。流石アールカエフ様」
「じゃの」
「だろう! イザック君! むにゃ……」
「イザーク君じゃ……まったく。寝言かの?」
「ふふふ。カンイチさんこそ仮眠をとったら?」
「ま、今日ぐらい朝までは頑張ろうと思ってな。仲間……じゃしの」
「お、俺も!」
体中に当てがってる濡れタオルを交換し、様子を窺う。所々にあった内出血も今ではすっかりと無くなり、肌の赤味も大分落ち着いてきた。
「でも、良かった……のでしょうか?」
「うん?」
「まぁ、あのガハルトさんだし? 一年もじっとしていられないでしょうけど……」
「まぁなぁ。自他ともに認める戦闘狂殿だ。心が病んで死んでしまうかも知れん。このまま回復したら、本当にアール様様じゃ」
「ですねぇ」
「……うぅ、ううむぅ……」
「うん? 目を覚ましたかの?」
「ガハルトさん! 具合は!?」
ゆっくりと目を開けるガハルト。
「うむぅ……すまん……な。カンイチ、イザークよ……」
「構わん。仲間じゃろが」
「ええ。ゆっくり寝てください」
「う……うむ……う……」
また意識を手放したようだ。
「ふぅ……何とかなりそうですね」
「うむ」
……
 




