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二(かんいち)爺ちゃん、異世界へ!(仮)  作者: ぷりぷり星人
序章
16/520

地球

 その頃の地球、【深山村】


 ”ババババババババ……!” ”ババババババ……!”

 普段、人気のない山間部にある農村。【深山村】。今日は朝からヘリコプター騒音をまき散らしながらが上空を舞う。地上でも色とりどりの車、中継車が列をなす。地元住人への騒音、迷惑などお構いなしに。

 馬糞にたかるハエのように多くの報道陣が我先へと集まって来た。”特ダネ”を求めて。

 他にもこの村に生活基盤を持たない、只のやじ馬も多く押し寄せてきており、畑に押し入ったり、田の畦から用水路に落ちたり、あちこちお構いなくゴミを撒いて行ったりと地元民から見ればはたはた迷惑なはなしである。


 あえて言うのであれば、隣町の失脚間近の町長があちらこちらのTV局の取材に乱入し、関係者のように装って語って聞かせ、支持者を集めるチャンスと張り切っているくらいだ。まぁ、肝心の選挙権を持つ地元民はその魂胆もお見通しだが。

 後日、犠牲者が出ているにも拘らずTVで面白可笑しく語り、町の恥よと町民、町議からリコールが起こされるのだがそれはまた別の話。


 で、この騒ぎの発端は、大きな熊が出没。多くの死人が出た。

 不謹慎ではあるが、年に数件は起こる珍しくも無い事件だ。が、今回は違う。村人が撮影したという、動画が、SNSを大いに騒がしている。

 

 『これはフェイクだ。あり得ない』

 『はぁ? 何処から見ても実写だろうが!』

 書き込み欄も賛否で二分。

 朝やら昼のワイドショーでも、動物学者、解剖学の権威、映像クリエーターや、ユー〇ューバー等も駆り出され、これは本物? 偽物? と白熱した議論が交わされている。

 

 大元の動画はすでに削除されているが、一旦流れた映像。彼方此方で再アップされ、海外でも議論になっているという。今では、最初に投稿した村民は行方不明とされ、政府の陰謀説すら流れだす始末だ。

 

 その問題の映像は、”熊”との戦闘シーン。駆除ではなく、戦闘だ。まるで市街戦の様相である。TVで流されている映像には流石にモザイクがかけられているが、凄惨なシーンも多々含まれており、刺激的なモノだった。

 

 特に問題は相手の”熊”だ。

 小山のような巨大な体躯、何よりも異形なのは腕が4本もあることだ。そう、まるで怪獣映画に出てくるクリーチャーのように。

 凄惨な現場とこの熊だ。現実離れしすぎている。

 が、毛艶、動きにしろ、どうしても本物に見える。このCGの発達した時代になってもだ。多くの若い映像クリエータは本物と断じ、老いた動物学者先生は受けられられずに偽物と断ずる。

 

 唯一の証拠である、”熊”の死体が見つからないのも謎である。自衛隊がすでに回収したとか、アメリカ軍が出張って来たとか。そして、古井戸が”異世界”に繋がっており、元の世界に還ったとか…。

 

 迷惑なことに、この後、ひと月の間に、”異世界”というものに憧れる若者が3人。古井戸の水面に浮かぶこととなる。


 ……


 「う~ん……誰も口を開かないわ。困ったわ」

 真っ先に駆け付けたフリーの女アナウンサー。大戸おおと 美咲みさきは愚痴る。

 己の美貌とスタイルを武器に昨年フリーになったばかりの女子アナだ。この村に入って3日全くといって良い程、収穫が無い。

 

 「仕方ないって。田舎だしぃ。それに…信じられねぇが、事実っぽいし?」

 と、カメラマンの田尻たじり 修人しゅうとが応える。

 こちらは口調は軽いが、見た目は真面目な好青年だ。美咲に請われ、一緒にこの村に入った。カメラの腕はもちろんだが、移動アトリエとして使っているマイクロバスが目当てというのもある。

 「は? シュウちゃん、信じてるの? この事件」

 服に消臭スプレーをかけながら美咲が問う。

 真っ先に駆け付けた割にこの口調。内容なんかはどうでもいい。とにかく売れるチャンスをという訳だ。

 「ああ。あのブロック塀見たろ。今はないが長い体毛とかもあったしなぁ。軍か何かの学者連中が採集していったろ。結果が出ても恐らくは公表はされないだろうけどなぁ」

 真っ先に駆け付けたとはいえ、既に、自衛隊が到着し、フル装備の自衛隊員が村や山の現場を維持していた。クマの体毛についても、あと半日も遅れれば見る事すらもできなかっただろう。

 

 「なら、そんな熊、どっから来たのよ!」

 信じられないと、どこぞの外国映画のポーズを、わざと大げさに取る美咲。

 「う~ん……。やっぱ、”異世界”じゃね?」

 「はぁ? ゲームのやり過ぎよ。でも、この動画、所々、ノイズが入るのよねぇ。ここは編集でカットしたような……」

 「そう! それも不思議なとこだよ! わざと、あからさまにカットしてるように見える。そう、まるでフェイクだよって誘導してるように。それに、素人さんには解んねぇだろうが、このカット……カットじゃねぇのよ」

 「は? どういう事よ? 編集でしょうに?」

 「いや、編集でつなぐ……じゃねぇ。なんというか、そっくり”消えた”ような?」

 「はぁ? それを編集って言うのでしょうに? アンタ、馬鹿?」

 なんとも要領を得ない田尻の推測に食いつく美咲

 「そうなんだがなぁ。違和感……このノイズにしたってなぁ」

 美咲はそんな田尻の発言に理解は及ばないが、映像云々の専門家だ。これ以上異を唱えたところで、へそを曲げられて帰られても困る。

 「ふ~ん。どっかの国の陰謀? 宇宙人とか?」

 「真面目な話だよ。だが、まぁ、これ以上は映像からは追えないなぁ。投稿者も消えたんだろう?」

 「ええ。もともとが、通信会社の役員って聞いてるけど……その真意も不明」

 ぱらぱらと本社から送られてきた資料に目を通す、美咲。 

 

 「ふ~ん。それよりこの空き家見てよ、最近まで人がいたような雰囲気なんだけど。ほら、庭の植木やら、菜園とかも手入れされてるだろ?」

 モニターに映る、一軒の農家。掃除も行き届いており、庭木の手入れもされている。人が住んでいてもおかしくないほど奇麗だ。が、家財道具は無く。間違いなく空き家だ。

 が、田尻は菜園に引っかかった。未だ、作物が奇麗に植わっていたからだ。村の人がとも思ったが、それぞれ広い耕作地を持っている。態々他人の庭先を借りなくともと。

 

 そしてなんとなく、ここに住んでいた住民について聞いてみたところ、

 「さて? 誰じゃったか?」

 「そう言われれば……誰が住んでおったっけか?」

 「総代とこの甥っ子じゃったか?」

 と。不思議な反応を示す村民。閉鎖された田舎の集落では絶対にありえないことだ。

 

 「あの家? 関係ないでしょうに。村の外れにあるし」

 「時間が空いてるときに聞いて回ったんだけどさぁ。誰も前に住んでいた人を覚えていないそうだよ。どう?不思議じゃない?」

 「どっかの偏屈爺さんでも住んでたんじゃない? 嫌われ者の。大麻とか栽培してたり?」

 「おいおい……。まぁ、明日には帰るし、良いかぁ!」

 「ええぇ! 帰らないわよぉ! もう少し!」

 「いい加減……臭いぞ。さすがに風呂は借りられないだろう」

 ”プチ” ”ぶぅん”

 そういってモニターの電源を落とす、田尻。

 同時に、割っている途中の薪が庭に転がるかんいち爺さんの家が映る画像も消える……。


 ……。


 翌年。都内マンションの一室。

 

 「ねぇねぇ。父ちゃん、今年は大爺の家に行かないの?」

 「うん。早紀もいきたい!」

 夏休みに入って少し。子供達が毎年行っていた所に行かないのかと。隙間だらけの夏休みの予定表を示しながら父に問う。

 「大爺? 先週、爺ちゃん家に泊まりに行っただろう? 悠斗?」

 子供達の頭を撫でながら答える勇佑。

 「じぃじ、じゃないよ! 大爺!」

 「そう! 大爺!」

 「大爺……? あ……。大爺?」

 何だろうか……この違和感。

 

 大爺……曽祖父……自分から見れば祖父……。親父の親? って、誰だっけ? 戦争で死んだ……って、親父の年が合わないぞ。

 ああ、戦後暫くして亡くなって……婆ちゃんが女手一つで? あれ? 確かに子供の時、夏休みは泊まりに行って……婆ちゃんの家? って、確か深山村……昨年、大騒ぎになった熊の……あれ? どうなってるんだ?

 記憶がちぐはぐ。肝心の処は白い霧の中。何の違和感も無かったのだが? 大爺その言葉が妙に引っかかる。頭を振る勇佑。

 「何だろう……何か忘れている……大切なことを……。お、おい! 美沙! 美沙ぁ!」

 「なぁに? あなた?」

 ……

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― 新着の感想 ―
[一言] 家族の記憶から消されるのか、とても悲惨のように感じる。死んだ後、死者は家族の記憶の中で生きていくのにそれを奪われてしまったんや。
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