ハインツのレストランへ行こいう!
……
今日はハインツのレストランで食事を摂ることにし、フジをピックアップ。
もちろんアールカエフにも声をかけるつもりだ。
もう慣れた道を進み、坂道の中腹にあるガラクタの塔が乱立する彼女の自宅に。
「お~~い。アールよ~~居るかぁ。飯まだなら一緒にどうじゃ~~」
と、呼びかけるカンイチ。
「……」
”しーん” 家の方からは返答はない
「うん? 今日は珍しく居ないのかの。それとも怪しい実験か?」
――うん? 錬金術に通じるものか? 今度教えてもらうか……
などと思っていると、
「……いち。かん……」
「ううん?」
かすかに聞こえるアールカエフの声
『……お爺。なにやら、あすこに埋まっているようだぞ?』
「はぁ? アール!」
あわてて、半壊しているガラクタの塔に駆け寄り、除ける
”がんがらがらがら……”
ガハルト、イザークも手を貸し、急ぎガラクタをどけていく。
「……も……う少し……丁寧に……商品よ?」
……
「いやぁ~! 助かったよ! こりゃ、朝までって覚悟してたくらいさ!」
”ぱんぱん”と服の埃をはたき立ち上がる、翡翠色の髪の持ち主。アールカエフ。
全然懲りていない様子。
「おい。本当に死んじまうぞ……アールよ。ちゃんと血栓の検査しとけよ……」
「はいはい。全く心配性だね! カンイチは! ……。うんうん……うん? 大丈夫っぽいよ?」
「なぜに疑問形なのじゃ? ちゃんとやっとるのか?」
「当たり前だろう? 健康は全く問題ないよ! はっはっは!」
けっこう華奢に見えるのに”頑強”なアールカエフである。
「怪我しちゃいますよ? アールカエフ様?」
「なぁに! 心配ご無用だよ! イザック君! 「イザーク君じゃ」 伊達に、1000年埋まっていないさ!」
「せ、千年ん……」
「アールよ……自慢にならんぞ。埋まっていたってことは飯、まだじゃな。いくか?」
「うんうん! 行くよ! 行く! 昼も摂ってないんだ。もうお腹、ペコペコだよ! ちょっと待ってて。外套取って来る!」
――昼から埋まっていたのかの? まさかの……
「いやぁ、今日は本当に参ったよ。安定感抜群の所だったんだよ? あそこは! なのに、横から、たったニ個抜いただけで崩れるとは! 僕はもうがっかりさ!」
どうやら、ガラクタ・ジェンガを敢行したらしい。それで、失敗したようだ。
プリプリと怒り出すアールカエフ。カンイチにしたら、意味不明だ。いや、カンイチ以外も。まぁ、ガハルトは我関せずのようだが。
「少しは片付けろ。アール」
「横から抜いたら、崩れますよぉ……アールカエフ様ぁ」
「わかっていないねぇ! イザック君! 「イザークじゃ」 あの美しいバランスを!」
「はぁ?」
「アホ言ってないで、片付けろ」
「まぁ、そこまで言ってくれるんだ! カンイチと片付けに来てくれてもいいよ? 歓迎しよう! イザーク君! 「イザック……あれ?」 引っかかったね! カンイチ! ははははは!」
無邪気に笑う、翡翠色の髪の少女。こういうのも悪くないと思うカンイチだった。
……
店に到着するなり、早速と地下に通される。
「いらっしゃいませ、アールカエフ様、フジ様、ガハルト様、カンイチ様、イザーク様」
「うんうん! 今日も頼むよ!」
『うむ! 楽しみにしているぞ。店主』
「はい。御期待に応えられるように。で、本日の”納品”の 「クラフト様その前に……」 おっと、私としたことが、どんな食材かと期待のあまりに。今までの卸して頂いた買取価格にございます。明細書も付いておりますので御確認をお願いします。それと、”片牙男爵”と、魔猪の牙、革につきましては、オークション後に。売れ残る事はないでしょう。ご期待ください」
黒服の職員。ちょっとその筋のお方のような出で立ちの男性二人が、ワゴンに麻袋を乗せて現れた。
”ごくり”。イザーク君の唾をのむ音が…
そこに添付してる明細書にザっと、目を通すカンイチ。数量なんか一々覚えていないが。確かにギルドに卸すより単価の値段が格段に良い。魔猪なぞ倍近い。
「クラフトさん、魔猪、随分と高いですね」
「ええ。ギルドの販売額が高価ですので。どうしても価格は引っ張られてしまいますね。もちろん品質も特上品。それでも結構乗ってるんですよ。ふふふ」
「なるほど……。こりゃ、皆、大物やら、珍しいものはこっちに持ってくるだろうの」
『お爺。そんなモノより、”納品”だ。我は、蜥蜴肉が食いたい。あれであれば、今日中に喰えよう?』
「うむ……。金子はワシが預かるぞ。宿舎で分けよう」
「み、見てもいいです? カンイチさん?」
「ああ、もちろんだ。イザーク君。ガハルトも見ておけ。不満があれば言うと良い」
「俺は特にない。信じるさ」
カンイチから手渡された明細書、その数字を見て固まるイザーク君。
「き、金貨……700ま……ま、枚ぃ?!」
大概のチームは利益の一部をいざという時の為に積み立て、残りを分配という形だ。100枚積み立てても、単純に200枚手に入る事となる。
「はい。珍しい食材、処理、鮮度も申し分なく。買い手、数多。商売大繁盛にございます。本命のオークションもお楽しみに」
「おお! イザック君! お金持ちだねぇ! 「イザークじゃ」 これだけあればいつお嫁さん貰ってもいいね!」
「……アールカエフ様ぁ。俺……その相手が居ません……」
「あらま。それは残念! そういや、肉屋に可愛い子がいたなぁ、紹介しようか?」
「ぜ、ぜひ!」
「確か……テルルちゃんっていったかな? 元気いっぱいの可愛い子だよ?」
「うん? テルルちゃん?……さん? ……肉屋の? ! ひ、ひぃ!」
イザーク君の脳裏には両手に肉切包丁を握り、にんまりと笑う、肉屋の女将さんの姿が
「どうしたんだい? イザック君?」
心配そうに、イザークの怯えた目を覗き込むアールカエフ。
「アールよ……お前さん、時間が止まってるぞ。そのテルル嬢は、今や健やかに、”獄卒”に御成りじゃ」
「うん? そうかね? ははは! 長命種のあるあるだね! 僕、引きこもりだし? それに、なんだい? ”獄卒”って?」
「はぁ……」
イザーク君の一縷の望みが砕かれた瞬間だった
 




