レッド・レザー・リザード
……
「どれどれ。どんなものかの」
ガハルトに群の二番目に大きい副リーダ的な個体排除を頼まれたカンイチ。
近づきながら、”収納”から鶴嘴を引っ張り出す。戦いを楽しむ気は0。サクッと始末をつけるつもりだ。
先方のトカゲも気が付いたのだろう。前足を踏ん張り、”ばしゃり!”とエリマキを広げ、
”けきゃきゃきゃきゃきゃきゃーーー!”
奇怪な鳴き声を上げ、警戒の合図を出す次席トカゲ。
同時にエリマキを小刻みに振動させ”カシャシャシャカシャカシャ……”と独特の威嚇の音を上げる。
周りに侍る他の個体はエリマキが小さい。雌なのだろうか。次席トカゲやボストカゲに絶対の信頼があるのだろう、逃げようともしない。一緒に威嚇の声を上げ、カンイチを囲む
「結構な美味だと聞く。すまんが、頂くぞ」
”ぺぇ!”
緑色の粘性のある唾液をカンイチに吐きかける次席トカゲ。周りの個体もそれに倣い一斉に”ぺぇ!””げぇ!””べぇ!”と唾を吐きかけて来る。
コブラ等のスプレーのような噴射とちがい、粘性のある痰のような物質なので、避けやすいが、如何せん数が多い。
「お、おっと! やはり、毒持ちか! この!」
近場のトカゲの頭に”すとん!”と鶴嘴を打ち込み地面に縫い付ける。抜かずにもう一本だし、真正面の個体にも。”すとん!”その個体を足場にジャンプ! 空中で飛翔しながら、もう一本、鶴嘴を出し、次席の頭部に叩きつける。
”すっとん!”そのまま同様に地面に縫い付ける。
が、流石次席というべきか。絶命する前に縫い付けられた頭を起点に思い切り尻尾で薙ぎ払いを敢行してきた。もちろんカンイチに油断はない。既にその手には大鎌が握られており、カンイチに迫る極太の筋肉質の尻尾を半ばから刈り飛ばす。それでもじたばたと身体を動かしていた次席。が、段々動きも緩慢になり、動かなくなり、死を迎えたようだ。
カンイチの任務は完了。ちら、とボス個体の方に目を向けると、
「どぉおおおおおおおおーーーーーー!」
すでに、仕掛けているようだ。雄叫びをあげながら剣一本でボストカゲに襲い掛かるガハルト。
他のトカゲもガハルトとボスの戦いの場から距離を取り、遠巻きに戦いの行方を見守っている。
ガハルトの持つ剣はドワーフ族であるダイ親方の打った業物だ。切れ味が違う。それに虎人の膂力。
ボストカゲも噛みつき、尻尾での薙ぎ払い、巨体を生かした浴びせ倒しを敢行するも、その首が飛ぶのにそう時間がかからなかった。鮮やかな切断面を見せて息絶えるボストカゲ。
ボスの死を感じ、わっ! と散るトカゲたち。このボストカゲの支配していたコミュニティの崩壊だ。そこにクマたちが襲い掛かる! 一頭が一頭ずつ、大きな間食を手に入れたようだ。
伏せをし、前足で押さえ付け、美味そうにバリバリと貪り食うクマとハナ。シロもそれに倣う。
「……本当に犬、卒業してしもうたか? シロは元々狼だから良いがの。毒……大丈夫か?」
毒持ちのトカゲ故、心配そうにのぞき込むカンイチ
――ま、散々毒蛇も食ってるで……うん? 犬歯も大きくなっとらんか? 後でみてみるかの
「美味いか?」
”ぅおおん!” ”わふん!”
「……なら、ええがの。フジはええのか?」
『我は料理したものを所望す』
「じゃぁ、明日以降じゃぞ? トカゲは」
『うむ。仕方なし。……お爺。串焼きで良いから出してくれ』
「だの。フジだけ食わないのも酷じゃな。どれ、串から外してやろう。猪の肉でええか?」
『うむ』
折角なので犬達の水を出し、カンイチ達も軽く腹に入れる。この場は蜥蜴たちの日光浴をする場所で、開けていて休憩するに都合がいい。
「良しと。ガハルトよ蜥蜴はワシが持ってるぞ」
「応! 流石、ダイの親方の打った剣だ。うむうむ」
「聞いてるのかの? そうじゃ、ゴラ……例のでかい兎には会ったのかの?」
横文字には弱いカンイチだった。
「いや、会えてないな。もっともレアな奴だ。そうそう会えんだろうさ。で、どうする? この後。撤収か?」
「どっちでもええぞ。まだ探すなら捜すとええ。日も高いでな。どうせ、大して疲れていないのじゃろ?」
「じゃぁ、もう少し見て行くか! 他の群れも居ると良いな!」
「……面倒じゃのぉ。居ても明日以降じゃぞ」
「おうよ!」
「ここら辺、薬草も濃いですよ。もう少し見ていきましょう!」
「了解じゃ! イザーク君」
……
それから二手に分かれて草原を散策。
カンイチとイザークは植物採取。ガハルトは再び犬を連れて草原の奥に。
3時間後合流し帰途へと。牛兎は見つからなかったが、ガハルトもボストカゲとの一戦で大いに身体を動かし、狩猟欲も満たせたであろう。
イザーク、カンイチ組も珍しい薬草や、ハーブがとれて大満足だ。今日の仕事も上々だろう。足取りも軽い
 




