今日は南の原に
……
今朝も朝一番。犬達の水を替え、肉を出す。今日は猪のブロック肉だ。
それからカンイチは元気に褌洗い。
”ごしごしごし……”
「ふぅ、気持ちがいいの。今日もいい天気じゃわい!」
「はふぅ……。おはようございまふぅ。眠……」
「おう! おはようさん。イザーク君。うん? ガハルトは?」
「朝、食べてますよぉ」
「もうか? 相変わらず早いのぉ。じゃ、ワシも行くかの。イザーク君は?」
「う……ん、褌洗ったら行きますよぉ……」
「お! 自分で洗うとは良い心がけじゃな! じゃ、お先に。フジ行くぞ? うん? フジ? どこいった?」
「フジ様ならガハルトさんと」
「そうか……。いつのまに」
……
「ふぅ……」
カンイチの姿は、毎度のことながら買取カウンターの奥にあった。ガハルト達も一緒だ
「カンイチよ。今日はどっち方面に行くんだ?」
「うん? 偶には休みにでもするかの?」
「つまらんだろうが!」
すでにこの場は、カンイチ・チームのミーティングの場となっている。大抵は、ここでその日の獲物、行く方面が決定される。ドルの親方やルックの意見も汲み上げて。
「……困ったもんじゃ。そうだ、ルックさん、カエルあるけど要るかの?」
「ええ! もちろん! カンイチさんのは特上ですから。直ぐ売れますよ!」
「じゃ、出すが。ここでええか。……。で、イザーク君もなんかやりたいことあるかの?」
解体台に弛緩した大カエルを出しながら。
「特には。そうだ! 南の原行ってみません? 薬草の宝庫とか?」
「薬草摘みかぁ。まぁ、基本っちゃ、基本だな」
あまり乗り気ではないガハルト。彼は剣に生きる漢だ。
「ガハルトさんは反対です? でも、拠点の回りの産物くらい調べないとダメでしょう?」
「いやな……そうではないが」
「珍しいでっかい兎がおるぞ。それを狙えばよかろう?」
「デカい兎?」
ぴくりと反応するガハルト
「確か……ごら……ご……。なんじゃったか? ルックさん」
サクサクと解体中の手を止めルックが答える。
「ええ。牛兎。ゴライアスラビットですね。あ、革、もう少しかかります」
「ほう。ゴライアスラビットか。行こう!」
「単純じゃの……」
「ええ……」
「でも、会敵確率はものすごく低いですよ。あと、開けたところに大きな蜥蜴がいるから注意してくださいね」
「うん? そいつは食えるかの?」
「ええ。鶏の笹身みたいでおいしいですよ。ちょっと硬いけど」
「じゃ、試しに獲るかのぉ」
「基準が美味しいか不味いかですか? カンイチさん?」
「当たり前じゃろが、イザーク君。生きるためじゃ。イザーク君も言ってただろうに?」
「……違う意味でですよ。で、ルックさん、そのトカゲって?」
「うん? レッド・レザー・リザードね。赤いでっかい蜥蜴だよ。毒は無いけど、噛まれれば足の骨でも粉々だよ。あと、尻尾ね。はたかれたらふっ飛ばされるくらい強烈だよ。死んじゃうかも? 注意ね」
「はい。注意します……」
「よし! 出発するか! 目指すは、レッド・レザー・リザード!」
「ちがわい……今日は薬草採取だぞ。ガハルトよ」
「あ! ガハルト殿、牛兎の方が買取価格高いですよ~~」
……
……
「おはよう! カンイチ。今日はどっちに?」
南門に到着。慣れ親しんだ面々。今日はハンスはいないようだ。
「おはようございます。ヨルグさん。今日は南の原に」
「そうか、気を付けてな。おう、クマも元気だな!」
”うおふ!”
クマの首を撫でながら。ここでも犬達は人気者だ。
「はい!」
街道に出てしまえば、クマたちの手綱を解放。
「レッド・レザー・リザードかぁ。どんな魔物でしょうね?」
「まだ動物の括りだろう? 町の南すぐだし。比較的安全と聞く。あの原っぱも広いもんなぁ」
「何で畑にせなんだ?」
「さてな。ま、森も近いし。維持が大変なんだろう。東側の農地で精いっぱいのようだしな」
「あ……そういえばそうじゃな。柵も不十分じゃった」
「ま、冊で完全に囲まない限り、安心して畑も耕せないってことだな」
「そうじゃな」
……
「へぇ。街道に近いのに人、あんまり入っていませんね……。街道沿いの草も荒れてないし」
「ここも川が近いで、毒蛇でもおるんじゃろ」
「よし! この辺りから行くか! 頼むぞ! クマ!」
”ぅおふ!”
一声、返事をし、藪に入っていくクマたち。
”がささささ”
ガハルトもスルスルと入って行く。
「あんな大きな図体で……音がせんとはのぉ。すごいの」
「獣人族……。しかも虎人族ですからねぇ。生まれながらの狩人ですよ」
「獣人族って皆あんなのかの?」
「いえ、いろんな種族の人が居ますよ。畑耕すのが上手な人やら、細工物が上手の人やら。ガハルトさんみたいな”戦闘種”は狩猟やら、ギルドにも何人か所属してますよ」
「その割にはあまり見かけないのぉ」
「そうです? フィヤマの町にも結構いますよ? 獣人の方。もっとも、尻尾とか耳は隠していますし、ガハルトさんみたいに目立ちませんけど」
「ほぉ~~そうかのぉ。注意してみてみよう」
『お爺、話しも良いが、注意せよ。蛇が結構いるぞ。イザークよ噛まれても知らんぞ』
「あ、ありがとうございます! フジ様。引き締めます!」
腰帯から鞘ごと剣を外し、構えるイザーク。
『うむ』
「すまん、すまん。ここに居るのはどんな種類かの。違う種類なら酒に漬けてみるかの」
「またあれ作るんですか……」
「うむ。そろそろ、蒸留酒のキツイやつ、仕入ねばの」
「げぇ。本当に?」
「強壮剤になるんじゃぞ?」
「へぇ……」
……
 




