改めてフェンリル。
……
「いやぁ~~ギルドの方から、注意勧告があったんで、ついでと見に来たんだが……」
そう言って、戯れる4頭の獣を眺めるジップ。
冒険者には”魔獣”って事だけ明かされている。
「しかも、数が倍になってるしなぁ。それぞれに番とは恐れ入ったわ!」
「あの2頭も直、魔獣よ……なんか違う。あの大きな白いハイイロオオカミだけがまともだわ」
ハスキー犬が二頭、フジとシロはハイイロオオカミという種類になる。フジは偽装だが。
「うん? ハイイロオオカミ? 白いぞ? アイリーン?」
「品種的にって意味よ。白毛は珍しいわ。『貴婦人』と言われて高値で取引されてるわ」
「ふ~~ん」
「……で、ジップよ。さっきのは?」
「うん? アトス? お前さんが聞こえていないということは恐らく”念話”だろうなぁ。あの、銀狼、喋るぞ」
「……そうか。馬鹿な連中が手を出さねばいいが……」
「ああ、そうだな。しかし……狼タイプの魔物で喋るのって」
「餓狼種、黒魔狼種……そして、フェンリス狼種。天狼フェンリル」
と、アイリーン。
いずれも、絵本や伝承にある魔獣だ。餓狼は群れで行動し、人語を理解し、誘い、誑かし、人の隙を窺い食い尽くす。
黒魔狼は以前は人の友、従魔の先駆けと謂われ、多く見られたが、”戦争の道具”として使おうと画策した国によって、人と袂を分かつことになり人界から消える。が、今も、山奥の村などに何頭かは確認できる。
そして、フェンリル。数多くの魔物、魔獣でも3指(聖古代ドラゴン等の古代竜、霊鳥ガルダ、天狼フェンリス狼)に入る魔獣。多くの魔法を操り、城壁なども難なく引き裂く爪をもつ。
「フェンリルかぁ……」
「最悪ね。餓狼は無し。黒魔狼……い、いえ、違うのよ。以前見たものと……」
「なら、フェンリルだろ? わざわざ、ハイイロオオカミに化けてるんだし?」
「そうよね……でも、信じられない。人の下に……」
「まぁ、色々あるんだろうさ。番……ねぇ。ははははは」
「だからぁ、笑い事じゃないでしょうに!」
「どうにもならんだろう? それこそ手を出せば町が消えるぞ?」
「うっ……」
「……なるほどなぁ。くくく。それは仕方あるまい」
「もう、アトスまで」
……
「ほう、凄い数だな」
カンイチの足元に積み上げられた野兎。
「ええ。今から剥くんですよ。彼らの夕食です」
と、イザーク君。早速、解体用のナイフをとりだし、剥き始める
「へぇ。お! イザーク! 上手だな!」
「ええ。毎日剝いていますんで。ははは……」
手際よく兎を剥いていくイザーク君。すぐにでも達人の域に達するだろう。『兎剥きのイザーク』と二つ名がつきそうだ。
「俺もやろう……」
己のナイフを出して器用に剥いていくアトス。
「あ、アトスさん、汚れますよ!」
「大丈夫だ。うむ。初心を思い出す……あの頃。……夢を追っていた……」
「アトスさん……」
うんうんと頷くジップとガハルト。彼らも若かりし日を思い出したのかもしれない。
「兎剥きながらする話……かのぉ」
「「カンイチ、台無しだ!」」
ジップとガハルトが思わず突っ込む。
「そうねぇ。兎剥きながら……ないわ」
とアイリーンも。
「ふん! 苦労知らずの優等生の台詞だな! なぁ! ガハルト!」
「ああ。金がない時はよく捕まえて食ったモノだ」
「そうだぞ! 依頼のあと、すきっ腹で兎を追ったものだ!」
と抗議の声を上げる、ジップとガハルト。
「そいつは難儀じゃったな」
とカンイチ。
「ええ。ご苦労様ぁ」
とアイリーン。さらりと。
「このぉ!」
兎も粗方剝き終わり、
「よし!」
木皿に水。クマたちの食事が始まる。段々食事量が増えているが、剥く人工が増えたせいで、気にならない。前は、一人で剥いていたから。今はイザーク君が手伝ってくれる。
「うん? フジ……だったか。あの魔獣は兎、食わんのか?」
一頭だけ、はなれたところで水だけを摂る。フジである。
「あ奴はワシらと一緒の物を食うんじゃ」
「は? ……変わってるな」
「まぁの」
「……ジップ。それで済んじゃうの? 脳筋は良いわね」
と、アイリーンがチクり。
「良いんじゃねぇの?」
「どれ。フジ。ブラシかけるぞ」
カンイチが声をかけるとのそりのそりとやってきて、身をゆだねる。桶に水を張り、タオルを濡らし、丁寧に拭きあげる。
「へぇ。奇麗にしてるんだぁ」
と、手をワキワキさせながらアイリーンが訊ねる。触りたいのは明白だ。
「うん? フジはダメじゃぞ。飯が終われば、イザーク君の方でも始めよう、そっちでの。クマ、ハナなら大丈夫じゃろ」
そう言って、フジの背にブラシを入れていく。クマ、ハナは人に慣れた”犬”だから。シロは曲がりなりにも狼だ。間違いがあってはまずい。
「残念。それにしても……気持ちよさそうねぇ。ふふふ」
特に首から耳の後ろがお気にいりだ。もちろん背中も。目を細めるフジ。
――ふぅむ。フジは魔獣故か、あまり、草やら、引っ付き虫(毛に絡む草の種)も着かぬの。泥すらも。常に綺麗じゃ。フジ自身も”洗浄”とやらを己に掛けているのかもしれないの。アールのように
と分析。
が、奇麗だからと時間を短くすると怒るので、クマたちと同じくらい念入りにブラシを入れるカンイチであった。
そうこうしてるうちに、イザーク君の方でも始まったらしい。
「クマぁ!」
”ぅおふ!”
尻尾をブンブン振ってイザーク君の方に駆け寄るクマ。すっかり慣れたものだ。
カンイチ同様、タオルで拭きあげ、ブラシを入れていくイザーク君。アイリーン嬢が近くにいるせいか、少々上気しているようだ。顔が赤い。そんな様子を見て、カンイチ。
「若いのぉ……シロ!」
フジを送り出し、シロを呼ぶ。
「ふ~ん。なんか平和だなぁ。いつもこんな感じか? カンイチ? ガハルト?」
「そうじゃが? 犬達は友であり、家族じゃからな。うんうん。相変わらず美人さんじゃなシロは」
”しゅっしゅ” ”もふもふ”
”ぅをふ!”
「ああ。が、狩りの時になれば、素晴らしい働きをするぞ。魔猪にも怯まん。夜営も任せられるしな」
「なるほど……夜営だけでも大きいな。うん? 魔猪……行ったのか?」
「うむ。アカリノから山に入ってな。良き戦いであったわ!」
「なるほどねぇ。それでついて来たって訳かぁ。お前さんも戦闘狂だもんなぁ」
「それだけじゃないがな。面白そうだろ? カンイチは」
「まぁな。面白い……か」
……




