風呂だ!
……
「うん?」
大量にキングフロックを”収納”に納めたカンイチ一行。
南門に到着。その衛兵たちの間に美しい翡翠色の髪が。
「やぁ! カンイチ! 待ってたよ! やぁ! やぁ!」
ニコニコと手を振るアールカエフその人だ。思わずにやけるところを我慢のカンイチ。
「アールカエフ様! こんにちは!」
「やぁ! イザック君! 「イザーク君じゃ」 無事で何より!」
「なんじゃ? アールよ。カエルの回収かの?」
「は? 何のことだい? 今日は、件の『風呂釜』の魔道具ができたら持ってきたんだよ! カンイチの喜ぶ顔が早く見たくてね! ここで待ってたんだ! カエル? 折角だし貰うけど?」
「んなぁ! 本当か! アール! でかした!」
ぐいと身を乗り出すカンイチ!
「だ、だろう!? 喜んでくれるのは嬉しいけど。早速……と言いたいが、風呂桶は無いんだ。大きな樽貰ってこないとね」
「カンイチ?」
ぽかんと、成り行きを眺めていた、ガハルトと門衛ご一行。
「うん、ああ、アールに風呂の魔道具作ってもらってたんだ! よしよし! 早速、酒屋に行って、樽を貰ってこよう!」
「じゃぁ、服屋は明日か?」
「そうじゃな! 何よりの風呂じゃ!」
「カンイチさんがこんなにはしゃぐなんて……」
……
門での挨拶もそこそこに、急ぎ酒屋に直行! カンイチの足取りも軽い。スキップのように。
「うんうん。こんなに喜んでもらえるとは思わなかったよ!」
「そりゃ、風呂じゃぞ? 風呂! 毎日、井戸の水で我慢してきたんじゃ。ああ……お湯……風呂!」
「……苦労してたんだねぇ。リスト君て以外にケチだね。風呂ぐらい沸かしてあげればいいのに」
「ま、ワシ一人じゃったからな」
「今は3人だろうに? 臭くなるぞ? イザック君も! 「イザークじゃ」 不潔じゃ、女の子にモテないぞ?」
「で、ですよね! アールカエフ様! カンイチさん! 俺も入れて!!!」
「うむ。水汲み手伝えよ。イザーク君!」
『む? イザークよ。風呂とはなんだ?』
「そうですねぇ。湯に浸かって身を清める……でしょうか?」
『ふ~~む。”洗浄”が使えれば要らんな。余計な手間だな』
「ふん! 獣には解らんわ!」
「カ、カンイチさん!」
……
「いらっしゃい! お? 兄ちゃん、毎度!」
「オヤジさん! 大き目の樽! もちろん代金も払うし、酒も買う! 譲ってくれ!」
挨拶も早々、身を乗り出し、樽を乞うカンイチ。店主も何が何だか。呆気にとられる。
「は? はぁ? 空の樽かい? 兄ちゃん?」
乗り込むカンイチの服を引っ張るアールカエフ。中々の剛力だ。
「カンイチ。必死過ぎ。オヤジ、出来るだけ大きな樽を分けてよ。もちろん、水漏れしない奴」
「は? あ、ああ、アールカエフ様? は、はい! 只今準備します!」
「よろしく~~。ほら、カンイチ、落ち着く。どぅ、どぅ!」
「あ、ああ、すまんの、アール」
「クス。ま、良いよ」
店主に呼ばれ、店の裏に。
「これが、大きくて丈夫な樽です。水漏れは一日、二日、水を張ってもらって確認を。乾燥してますんで」
店主が用意した樽は開口75cm、底85cm、高さ1mほど。所謂450ℓ樽。一般的なドラム缶(約、60×90、200ℓ)と比べ、倍の容積がある。
「なるほど! 水を吸うと木材が膨張して水漏れが止まると」
「はい。漏れても滲む程度とは思いますが……」
”こんこん”
樽のあちこちを叩いて、納得したようだ。
「うんうん。上出来だ! 貰っていくよ。オヤジ!」
「は、はい。どうぞ」
「オヤジさん、この樽いくらかの?」
「なぁに、また酒を買に来てくれればいいさ」
「なら、俺が買っていこう。ビールの良い奴、小樽でくれ」
「ビール? あるのかの? なら、ワシも!」
「はい、毎度ぉ!」
ビールは、ガハルトとカンイチが担ぎ、樽はアールが”収納”に。
帰路に就くカンイチ。その足は軽い。中型とはいえ樽を担いでるのに
……
……
”がっこんがっこん” ”ざばざばざば” ”がっこんがっこん” ”ざばざばざば”
”がっこんがっこん” ”ざばざばざば” ”がっこんがっこん” ”ざばざばざば”
”がっこんがっこん” ”ざばざばざば” ”がっこんがっこん” ”ざばざばざば”
井戸を漕ぎ、水を汲む音が中庭にこだまする。勤しむのは二人の青年だ
……
「ふぅ~~風呂に入るのも大変ですね。カンイチさん」
「ほれ! イザーク君! 風呂のためならぁ~♪ エンヤァ~コリャァ~♪」
”がっこんがっこん” ”ざばざばざば” ”がっこんがっこん” ”ざばざばざば”
「はぁ? 何です? その歌」
「ほれ! 手がお留守じゃぞ! もひとつおまけに、エンヤァ~コリャァ~♪」
”がっこんがっこん” ”ざばざばざば”
「は、はい、でも、カンイチさん! 毎回これは大変ですね……ふう」
「良い筋トレになるじゃろ。はっはっはっはっは! 修行じゃ、修行! イザーク君!」
”がっこんがっこん” ”ざばざばざば”
……。
「元気だねぇ。カンイチ! 早く、”洗浄”覚えないとね!」
ガハルトと一杯飲みながら見物してるアールカエフが声をかける。
「うむ? なるほど。そうすれば毎回水を汲まなんでも良いという訳か……なるほどの!」
”がっこんがっこん” ”ざばざばざば”
「うん? 何やってんだいカンイチ? こ、これは、アールカエフ様? 良くいらっしゃいました」
裏庭の騒ぎを聞きつけ女将さんが出てきたようだ。
「こんばんわ。お世話になるよ? 僕の分の夕食ってある?」
「は、はい、大丈夫ですよ。準備いたします。で、この騒ぎは一体?」
「はっはっは。カンイチがお風呂に入るんだって。で、この騒ぎって訳だ」
「風呂? 銭湯近いですよ?」
「どうにも、恐ろしく汚いそうだよ? で、僕が、風呂釜をこさえたって訳さ!」
「それは、なんとも贅沢だねぇ」
「ま、好きにやらせてあげてよ」
「はい」
 




