どっちに納品?
……
「う、うわわぁ……気持ち悪いですねぇ。色といい、形といい……しかも……」
川を覗き込んだイザーク君。ここは以前カンイチが狩りを行ったところだ。
「ああ。こんなにいるとはな。ちと増えすぎだなこりゃ」
とガハルトが応じる。彼らの目の前には、黒地に赤斑の奇怪な生物が大量に蠢いている。川底を覆い隠すように。
「こいつがドクサンショウウオだ。結構旨いぞ。イザーク。適当に狩ったら飯にしようか」
「ええ!? 昼、これ?」
「違うわい。毒抜きしないと食えんぞ。あと、偶にデカい個体が現れる。猛毒吐いて来るから注意じゃ!」
「カンイチさん、こいつはどうやって?」
「腹に毒腺があるんじゃ。槍で頭部を刺して一気に絶命させて”収納”じゃな」
「イザーク、こいつは狩るよりその後の処理が重要なんだ。鮮度を保ちいかに早く運ぶかがな。急がないと肝心の毒腺が萎んじまう。食える肉もより毒に浸されちまって食えなくなっちまう。解体のスキルがあればここでバラすのも手だがな。でかいのもいるし、血の匂いで他の魔物も寄ってくるかもしらん」
「なるほど……。”収納”持ちのカンイチさんにはこれ以上ない獲物ですね」
「うむ。美味いからの。よし、ギルドに10匹もあれば良かろう。裏の方にも20匹?」
「そうだ! カンイチ! 猪どうすんだ?」
「そうじゃな。今日、明日中に出すか……。アールにも声かけるか。へそ曲げると面倒じゃ」
「ああ、それがいいだろうな」
「じゃ、始めようか。親分が出て来るまでが勝負じゃぞ」
「「おう!」」
……
「ふぅ……。カンイチさん、あの大きいの。仲間が狩られてるのわかってて助けに来るんでしょうか?」
「さてなぁ」
「そうかもしれんのぉ、仲間の血を嗅ぎつけて。で、どうじゃ、ガハルト。親分の攻略は?」
ドクサンショウウオを狩り、河辺から離れた、草原の見晴らしの良いところでランチタイム。
案の定、大きな個体が現れたが、満足な数量狩れたので毒を吐かれる前に退却した。
「そうだなぁ。釣り上げるしかないが……。かなりの人数が要るな。陸に上げない事には話にならん。水から出てくる気配は無いものなぁ」
『なら、我が狩ってやろうか? 一撃で首を飛ばしてくれる』
「フジよ、ありがたいが、ワシ等の仕事じゃ」
『我等の……であろうが。まぁ、よい。その小さいのの味次第だな。美味けりゃ狩るのもありだ』
「その時はの」
「で、次はカエルか? カンイチ?」
「いや、今日はこれくらいにしておこう。イザーク君もそろそろ限界じゃろ?」
「え? まだ……行けますよ」
「無理して、反応が遅れれば、カエルに飲まれるぞ?」
「そうだな。潮時か。あそこらの沼にはヨロイオオナマズってのもいてな。水中から大口開けて飛んでくる。ドラゴンフライにしても空から襲って来るしな。今よりずっと過酷だぞ」
「”ごくり” す、すいません。足引っ張って……」
「何も謝る事はない。今日の採集にしてもけっこうな金になるじゃろが?」
「おう! 何も慌てることは無い。徐々に力をつけりゃいい。明日、朝から行くか!」
「うん? そうじゃ、休日は良いのか?」
「はぁ? そんなもん要らん。狩りがしたくて来たんだからな!」
「うんむ。聞く相手を間違ったわい。イザーク君は?」
「休日? ですか? 休んでたら”鉄”じゃ食っていけませんよ? それに、まだまだ足手まといだし。そんなのが休日なんて言ってられませんよ!」
「なんと……。不憫な連中じゃな……」
年中無休でこんなことを。ガハルトはともかくと思うカンイチであった。
……
ギルドに行く前にアールカエフの家に寄る事にしたカンイチ一行。といっても道程にギルドは存在し、ギルドの真ん前、鍛錬場にクマたちを放し、井戸で身を清め、着替える。それでもギルドは素通りだ。
”納品”の別口。裏ルートはリストには内緒だから。
「アールいるかぁ!」
……
「うん? どこぞに埋まってるかの?」
「埋まってる? ですか?」
「ゴミ……ガラクタにのぉ」
暫く待つも反応なし。
「仕方がないの。明日に寄るとするか」
と、この場を後にしようとしたとき。
”がらり”。
ガラクタの崩れる音ではなく、家の引き戸が開く。どうやら埋まってはいないらしい。
「いらっしゃい! カンイチ! 悪い悪い、実験中だったんだよ! 気が抜ければ、ここら一帯吹っ飛ぶくらいの?」
「ひぃ!」
「……そんな実験、街中でやるな。アールよ……」
「だって、仕方ないだろう? ここ僕の家だし? 一応、魔法の結界の術あるし? ガハルト君もイザック 「イザークじゃ」 君も無事そうだね。お帰り! フジ殿! ご機嫌麗しく。で、ディナーでも誘ってくれるのかい? カンイチ?」
「うむ。”納品”もしたいしの。時間があれば付き合ってくれんか? 明日でも構わんで」
「カンイチのお誘いなら用事があっても行くさ。じゃ、早速行こう!」
そう言われ、ちょっと嬉しいカンイチ。
アールカエフも玄関先に掛けてあった外套を引っ掴み、すぐに合流。
「おいおい。アールよ。戸締りは?」
「うん? 大丈夫だよ? この精霊魔法使いアール様の家に忍び込もうなんてアホは、一歩踏み込んだだけで木っ端微塵さ!」
「物騒じゃな……」
「じゃ! いこう! フジ殿ぉ! なんかいい獲物獲れました?」
『うむ。ドクサンショウウオだかいっておったな』
「ほうほう。香草焼きが絶品ですよ!」
『ほう! そいつは期待できるな!』
わいのわいのと今晩の晩餐に思いを馳せる、アールカエフとフジの後に続きレストランを目指す。
やってきました、『ハンイツのレストラン』
「いらっしゃいませぇ。アールカエフ様ぁ」
「やぁ! アリア君! 早速、オヤジ一丁!」
「はい! オヤジ、一丁! お部屋にお持ちしますね!」
「お願い! じゃ、行こうか!」
「まぁ、ええがの……」
「お邪魔します」
賑々しく店内に入るご一行。
今晩はどんな美味にありつける事やら。
 




