買物
……
「カンイチさぁ~~ん! 商売繁盛よぉ!」
「お? お! おおお!?」
いきなり豊満で別嬪のユーノ女史に抱き付かれ、驚愕のカンイチ。中身は99の爺さんでも嬉しいものは嬉しい。柔らかいわ、良い匂いだわ、おまけに体も若返って反応も良いわ。
余計なことを考えて気を紛らわさねば、一点集中! 暴発寸前だ!
――おう……婆さんがみちょる!
何とか死に別れた婆様の顔を思い出し鎮める。指をくわえ羨まし気のイザーク君と目が合う
「若いのぉ。イザーク君」
「んな……」
「っと、ユーノさん、落ち着いて。商売繁盛? 何よりじゃな」
極上の抱擁から惜しいが解放される。
「あ、あら、ごめんなさい。ふんどし、大繁盛よ! 予約も沢山!」
「へぇ、そりゃぁ、大変じゃな」
「大丈夫、大丈夫。手伝ってくれるところもあるし」
「でも簡単なものじゃろ? 他所の所に行かないのかの?」
「ウチが”本家”ですし? 此処の物を求めるお客さんが多いわ」
「ふ~ん。そんなもんかのぉ」
たしかに店内には褌に関するポップが踊る。”予約受け付中”、”新柄発表”やら。
「そうそう。じかたび……でしたっけ? 試作あがってきてるわ。カンイチさん見て頂戴!」
「おう! 早いのぉ!じゃ、見てる間、そっちの褌見てやってくれんか? 大きいから、オーダーじゃろ?」
興味深く褌の並ぶ棚を物色しているガハルトを指さす。
「そうねぇ。一応、一回り大きいの作ったんだけど……虎人さん、大きいものねぇ」
どこが? と、揶揄ってみたかったが、ガキの言動じゃないと断念。お爺なら、『いやねぇ。お爺ちゃんたら!』 で済むのだが、15のガキだと変に思われるのは確実だ。
「どれどれ……ほう、ほう」
生地は綿のような生地。色はツナギの時同様染色前の生なり。薄い茶色。素材の色だ。地下足袋の試作品は2パターン。違いは、留め具で締めるのと紐で締める違いだ。
底は革が張ってあり、それを何らかの樹脂に踝の辺りまで浸してある。この樹脂。布との親和性がすこぶる良いようで、曲げても折れずにしなやかに曲がる。いっそのこと、全部付ければ、田植えの時に使う、ゴム長になるだろう。両方とも特徴である親指が独立している。
「うむ。随分としっとりとしているのぉ。どれ」
ぐいと左足を入れる。フィット感も上々
「そりゃ、オーダーじゃからなぁ……お? おお?」
今履いているものよりも履き心地が良い。クッション性もあるのだが、裸足のようだ。足指の自由度が高い。
「ゴムより柔らかいのか? 後は耐久性じゃな」
親指を動かしたり、アキレス腱を伸ばす動作をしたり。履き心地を確認。樹脂は割れることもはがれることもない。柔軟な靴底。少々蒸れるがそもそもが防水仕様だ仕方ない。
うむうむと職人たちの技に感服していると
「どう? カンイチさん?」
「うむ。履き心地は良い。後は耐久性じゃな。直ぐに壊れるようではな」
「う~~ん。樹脂は良いんだけどねぇ、革がねぇ、キングフロックの革使えればよりしなやかで丈夫なんだけどねぇ。高価なのよ」
――ううん? どこぞで聞いたな……キングフロック
「うん? それってこれくらいの大きなカエルの事かの?」
と、手で1m四方の大きさを示すカンイチ
「そうそう! 西の方の湿地にいるの」
「そいつの革か? それなら、ワシが獲って来るぞ? ワシの依頼じゃし。仲間の分も作ってほしいのじゃが」
「本当? 皮も極上だけど、あれ、美味しいのよねぇ~~」
「ほぅ。であれば、丸のまま進呈しようかのぉ。そのままここに持ってくればいいかの?」
「本当に? 期待してるわよ! カンイチさん!」
「おう! 任せとけ」
キングフロッグの納品を約束し、新しい地下足袋で店を出るカンイチ。イザークも褌を複数枚購入したようだ。ガハルトはオーダー。やはり大きかったらしい。いろいろと。あと、尻尾を出す穴が必要とか?
――褌に穴開けて良いのじゃろか。処変わればとはいうがの……。ま、できてからのお楽しみじゃな
その後は商店街を回り細々とした日用品の購入。
そして、布団屋でフジの為に特大の寝袋を購入する。冒険者御用達だと思ったがお貴族様用のものだそうだ。文句言われても良いように、中に敷くための布団も一応購入しておく。
「おう! カンイチ! 良いブラシがあるぞ! フジ様に良いかもしれん」
雑貨屋の軒先にぶら下がって売られたのは馬用と思われる大きなブラシ。
「うん? どら、ここらのは毛が硬くて気持ちよさそうじゃな。よし。オヤジさん4つくれ」
「へい! まいどぉ!」
「ガハルトは日用品買わなくていいのかの?」
「俺か? 特に不足は無い。大抵のものはここに入ってるからな」
ぽんぽんとマジックバッグを叩く。
「いいなぁ。マジックバッグ……」
イザーク君は羨望の眼差しでぼそりと。
「そうじゃったな。便利じゃな。どっかで買ったのかの?」
「いや、護衛依頼の時だったか? 盗賊に襲撃されてな。その時の盗賊の頭目が持っていてな。運がよかったわ」
「なるほどのぉ」
――守れないモノは奪われる……じゃな。命すらも。
「で、だいたい幾らぐらいするんじゃ? そいつは?」
「さてな」
「決まった値段は無いですよ。カンイチさん。一個一個違いますからぁ。手放す人もそうそういませんし。大体がオークションに出されますね。もち、高価ですよ」
「おーくしょん……かのぉ」
「カンイチさん?」
己が出品されそうになった過去を持つカンイチ。あまり良い気持ちはしない
 




