部屋を借りよう
……
あまり階上、ギルド長室には行きたくないが、ガハルトやイザークの宿舎の件を話すのなら、リストの元に行かないことには始まらない。嘆願にあがる一行。
”こんこん”
戸を叩く手にも力が入らないカンイチ。どうも文官タイプは苦手のようだ。
「お早うございます。リストさん、居らっしゃるか?」
「うん。居るぞ、なんだ? カンイチ。そうそう、昨日はカンイチ持ちだったそうだな。ご馳走さま」
「うん? アールが……。ま、いいわい。ハンスさんにも、リストさんにも大層世話になってるからの。で、じゃ」
「うん? 住む場所か?」
「うむ。できれば宿舎がいいの。鍛錬場の回りが使えればクマたちも快適じゃ。あれだけ広い、閉鎖された場所は町中に無いでのぉ」
「構わんが……家賃貰うぞ?」
「……せこいのぉ。ギルド長殿。ワシ等が、うんと稼がせてやると言うのに。やる気半減じゃな。のぉ、イザーク君」
「い、いえ……は、ははは……」
「はっはっは」
ガハルトは笑うのみ。
「ま、良いじゃろ。ワシは払わんでも良いんじゃろ」
「おう。約束だからな」
「ガハルトはどうする? 一軒借りた方が良いか? 宿舎は狭いで」
「俺か? 寝る場所だけあればいいぞ。カンイチの部屋でもな」
「ワシの部屋かの? 余計な物が沢山置いてあるからのぉ……」
酒樽やら
「うん。毒蛇が入った瓶が並んでた……」
と、昨晩世話になったイザーク君の告白。布を除けたらずらりと並ぶ蛇! 蛇!
しかも、人など一噛みであの世に送る、『ブッシュ・マスター』だ。大いに驚かされた。
「うん? 何すんだ、カンイチ? そんなもん」
「おいおい。宿舎に放してくれるなよ、毒蛇なんぞ」
「ああ。酒に漬けるんじゃ。ま、楽しみにしとれ。じゃ、一部屋借りていいかの? ガハルトとイザーク君で。ワシの所は、フジが上がって来るからのぉ……。今日、フジの寝袋か布団買わんと……」
フジは外で寝るのではなく、部屋にあがって来る。おまけに布団をご所望だ。しかも、ハナを呼ぶ始末。ハナは、昔から外。雨、雪の日は土間だったので座敷には上がっては来ない。こちらの世界は、”土足”だが、その辺りはきっちりしている。もちろんカンイチの部屋は土足厳禁だ。
「フジ殿か……。ふぅ……」
リストギルド長の悩みのタネ。何分前例もない。上に報告を上げて良いものか
一日で国を亡ぼす最強の魔獣フェンリルなのだ。ギルド、領主、王へ報告しないといけない案件だ。
報告したらしたで、カンイチごと取り込もうとするだろう。並みの冒険者ならそれでもいいが。恐らく仕官なぞ望まないだろう。
「ちゃんと言葉もわかるし、賢いぞ。問題あるまい? 余計なことをしなかったらの、特に、ハナに手出すなよ? 嫁に手を出したら……」
「ああ。ふぅ……。頭が痛い。魔獣より、”人”の方がアホだからな……」
「そうなぁ」
「ああ、違いない」
「……で、ですね」
少々耳の痛いイザーク君でした。まぁ、正確には彼のチーム。そして、良い悪いは別にしてそのおかげでカンイチ達のチームにいる。
「で、今日は何するんだ? カンイチ。外に出るのかい?」
ギルド長が、予定を聞く。
「今日は、主にガハルト等の買い出しじゃな。で、明日から、ボチボチ。あの確か……ドクサンショウウオ? じゃったか? 先ずはアレをと思っておる。後で打ち合わせしようと思っているがの。結構美味かったしの」
「なら、ギルドにも卸してくれ」
「了解じゃ。ガハルトさんがいるから、多少大きな獲物でも問題なかろう? ワシ一人よか量も獲れるじゃろ」
「おお! いいな! でかいのも狙うか?」
「う~~ん。陸地まで引き摺りだす手段が見えん。釣るにしても人手が足りん」
「滑車が要りますね。あと、牛とか?」
「うん? それじゃ。どこかに売ってるかの?」
「大きいですし、作ってもらうしか……」
「ま、追々じゃな」
「あっ、と。カンイチ、毒蛇、指名依頼出していいか? 新しいケージもできてな。ブッシュマスターあの麻袋で二つ。おかげで、薬の製造も順調だ」
「うむ。ついでに取って来るかのぉ。念のため、薬、まわしてくれんか。ギルド長」
「お? さすがのカンイチも危険性に気づいたか?」
「危険性は十分知っちょる。備えがあれば憂いなし。それにイザーク君が噛まれてもいいようにの」
「お、俺?」
「念の為じゃ。町に帰るまでに死んじまうぞ」
「ひ! そ、そうですよね……」
「そうだな。慎重だものな。お前さんは。帰りカウンターで受け取ってくれ。3人分無償で支給しよう。注文書に添付しておくわ」
「ありがとう。という訳で、明日、ドクサンショウウオと蛇でええか?」
「応! 俺は構わんぞ!」
「はい。ドクサンショウウオと……ブッシュマスター」
「ちょっと、”鉄”にはきついがな。頑張ってくれイザーク」
「は、はい。ギルド長!」
「うん? ワシには激励がないのかの? リストギルド長? ワシの方が新人じゃが」
「は? 要るのか? じゃぁ、ギルドの為に頑張ってくれ! カンイチ!」
「う~~ん。……なんか嫌じゃな」
「だろうが!」
「はっはっは! 騒がせたな! リストギルド長。部屋もありがたく使わせてもらう。ほれ、行くぞカンイチ」
「うむ……」
 




