さらば!アカリノのギルドよ!
……
「ふ、ふひぃ……頭がぁ……頭がぁ」
「無理せずに家に居ればよかろうが。大人しく寝ておれ」
「だぞ! イザークよ!」
「ひぃ、ひぐぅ! ガ、ガハルトさん、声デカぁ、ひ、響くぅ、ひびくぅ……」
少々昨日の酒は深かったようだ。イザークはガッツリ二日酔い。頭を抱え悶絶している。
が、獣人のガハルト。加護持ち(魔改造済)のカンイチはケロリとしたもの。
「仕方ないな。朝は串焼きでいいか?」
「うぇえ……串焼き? 俺、要らない。気持ち悪いぃ……うぇっぷ」
「だから、寝ておれというのに」
まぁ、こういった事は若いうちに経験しておいた方がいいと、優しく? 見守るカンイチ。
『うむ。良い匂いが立ち込めておるな。少しずつ、2~3カ所の物を所望す!』
ちゃんとフジも付いてきている。
「で、ガハルト、ギルドに何の用じゃ?」
「ああ。貸家の解約と、一応、町を出るって報告をな。そう時間もかかるまい」
「ふ~~ん。あ、フィヤマに着いたら住むところどうしよ?」
「うん? しばらくは宿屋か? カンイチの処でも構わんぞ。寝られりゃな。今はどうしてるんだ?」
「ギルドの宿舎を借りてる」
「ふむ。ま、俺とイザークで別に家借りても良いもんな。カンイチと一緒だと……リスト殿と交渉だな」
「そりゃぁ、構わんが。うちはギルドの受付嬢と一緒じゃぞ?」
「な! カンイチさん! ほ、本当ぉ……い、痛たた……」
痛い頭をガバリと上げるイザーク。二日酔いに性欲が打ち勝った瞬間だ。
その後すぐに惨敗だが。
「若い……のぉ」
「ああ……」
「カ、カンイチさんが爺臭いんですよぉ。ぃつぅ……」
――ジジイじゃもの。ふふふ
『うむ? ここのがいいな! お爺!』
「了解じゃ。買って来よう」
甘ったるい香りのする串焼き屋だ。フジの嗅覚に訴えるものがあったのだろう。
「うぇ……」
二日酔いのイザーク君の胃袋には臭いだけでもダメージを与えたようだ。胃液が過剰に分泌され、胃をキリキリと締め上げる…
そんな事は他所に焼き立てを3本購入し、木皿に串を外して入れてやる。熱くてもフジにはいいようだ。
『ほうほう……。この焦げ目、これを香ばしいといったな。うむうむ。甘いが酸っぱみがありなんとも不思議な味だ。これはこれで旨いな!』
「そりゃ、良かったの。うん? ほんに美味いな。果汁が使われてるか?」
「おう。酒が欲しくなるな」
カンイチ達も追加で購入。朝食にする。
青い顔でその様子を窺うイザーク君
「ふむ。イザーク君。ここは一丁、迎え酒と行くかのぉ?」
「へぇ? 迎え酒です? な、何ですそれ? カンイチさん?」
「うむ。酒で今の症状を緩和……する方法じゃ」
「へぇ。本当ですかぁ? ……カンイチさん」
カンイチの顔にないか感じただろうイザーク君。疑いの目を向ける。
「ほう?」
「うむ。先送りともいう。更なる地獄が待っているがのぉ」
「ダメじゃん……それ……」
「そうそう上手い話はないってことだ! イザークよ! はっはっはっは!」
「だ、だからぁ、ガハルトさん、声! ひ、響くぅぅぅぅぅ……」
”はっはっはっはっは”
……
フジの嗅覚に引っかかった露店で串焼きを数点購入。朝食とする。フジも当初の宣言通り、そう大食いもせずに満足しているようだ。
「フジよ。足りておるのか?」
ガフガフという訳でもなく、肉片を一つずつ楽しむように口に入れるフジ。
『うむ? 今はの。多くの味、工夫された味。楽しさの方が勝っておる! ついて来た甲斐があったわ!』
「そりゃぁ、良かったの。まだまだ美味い食い物もあろう。楽しんでくれ」
わしわしと首を撫でる。
『うむ!……気持ちいの』
……
そして因縁の地、いや、今では仲間を得た運命の地か。アカリノの『冒険者ギルド』に到着。
経緯を知ってるガハルト、チラとカンイチに目を向ける。
「カンイチ、着いたが?」
「ワシには用事も無し。ここはいけ好かぬからフジと外で待ってるわ」
「だろうよ。イザークはどうする」
「俺も、一応、報告だけ……」
「わかった。行くか」
「あ……カンイチさん! じゅ、従魔票! フジ様の分、申請しないと!」
「む……。仕方ないの」
すっかりフジの分の従魔票を忘れていたカンイチであった。このまま出発となれば門でまた止められるところだった。
……
「カ、カンイチ様……しょ、処理が終わりました。これが新しい従魔票です」
「うむ。手数をかけたの」
今回に関しては通常の登録業務。が、受付嬢に背を押された責任者が対応。
何も悪いことしてないのにと少々納得のいかないカンイチ。この全てはガハルトのせいだと。
手数料を払い、出口に向かおうとすると……
「お前が、カンイチか?」
ベテランの域に達しているだろう、冒険者5人がカンイチの行く手を遮り取り囲む。
「はて? どちら様かな?」
ぐるりと顔を見渡すも全く覚えがない。
「ふん。ちょっと付き合え……」
「生意気なルーキーが暴れてると聞いてな」
「ギルド長様も大層お気になされていた。ここを他所者にいいようにされてなぁ」
――ギルド長? 見せしめ……みたいなものかのぉ。なんじゃ本当に小物のようじゃなぁ。ここのギルド長は。下らぬことで……
と、呆れる。
「わしには、何の利益も無い。断らせていただく」
ずい! と、踏み出すも
「おいおい……ここはギルドの中だぞ。逃げられるとでも?」
「くっくっく。なぁに、少々痛い目にあってもらうだけだ」
「ふむ」
『うん? 敵か? 我が蹴散らそうか? お爺』
「フジが動けば、こんな奴ら粉々じゃ。放っておけ。放っておけ」
『そういうわけにはいかんぞ。ハナから守るように言われておる』
「大丈夫じゃ。命に触るようなときは頼む。それまでは人の世界のこと」
『ふむ。判った。面倒な事よ』
「うむ。そうなぁ、面倒なことじゃて」
完全に無視をされて騒ぎ出す、男たち。
「何をごちゃごちゃと!」
「おい! このガキが!」
「ふん。ギルド長あたりからの依頼か? 下らん。そこまで言うのなら相手をしてやってもいいぞ。その代り、貴様らの全財産賭けろ。であれば乗ってやるわい」
「はぁ? それこそ割に合わねぇだろ!」
「なら話は無しじゃな。のけ」
背を向け歩きだすカンイチ。
「おい! 何処に行く」
歩き出したカンイチの肩に伸ばされた手、その手は届かなかった。
「本当に面白い奴だな! カンイチ!」
ガシリと手首をガハルトが掴んだからだ。
「ガ、ガハルト……さん? あ、アンタには関係ねぇ! は、放せよ!」
”ぐきき……”
がハルとの握力でぎりぎりと締め上げられる手首。
「い、いでで……は、放してくれ!」
「は? カンイチは俺のチームのリーダーだぞ? 自分のチームのリーダーが襲われていて見て見ぬふりは出来まいよ。バッサクよ。お前は見捨てて逃げるのか? 仲間を置いて?」
「は? はぁ?」
「お、おい……聞いていた話と……」
5人の男たち、明らかに動揺をしている。
「この騒ぎ。レンガーの野郎か? 下らぬな」
「ほ、本当にチーム……か?」
「ああ。明日には俺はこの町を出る。カンイチと一緒にな!」
「……」
「うっ」
「で、どうする? チーム対抗戦。やるのか? やらんのか? もちろん、貴様ら全員の全財産賭けてもらうぞ。くくく」
「か、勝てっこねぇ!」
「俺は降りるぞ!」
「お、おい!」
バッサクを置いて逃げ出す、チームの他のメンバーたち。早速、”見捨てられて”しまったようだ。
「なんだ。可愛そうにな。置いてかれちまったな。バッサクよ」
「く、くそぉ!」
「どうするんだ! おい!!!」
ガハルトの怒声一発!
「ひ! ひぃーー!」
腰が砕けたようにガクリと膝が折れるも、ガハルトに手首を握られたまま。ぶら下がってる格好だ。
「小物が。ふん。おい、小便漏らしてないよな?」
握っていた手を放してやる。へたり込むバッサク。
「もう良かろう、ガハルト。そっちの用事は?」
「ああ。済んだ。世話になったな! さらばだ! アカリノのギルドよ! はっはっは!」
「じゃ、いこうかの。イザーク君は?」
「そこらにいるだろ。お~~い! 行くぞぉ! イザーーーク!」
「は、はいぃ……」
ガハルトの大声に反応したようだ。頭を抱えて出て来たイザーク君
「居たのぉ……」
……




