打ち上げ
……
アカリノの町に到着。今回の魔猪狩りのお疲れさん会と称して皆で飲みに行くことに。
先にガハルトの借家に立ち寄る。庭にクマたちを放し、水用の木皿と桶に水を張り、肉塊を出す。
「皆、ご苦労じゃったのぉ。で、フジはどうするんじゃ?」
『うむ? もちろん向こうで食う。クマよ何かあれば知らせろ。良いな』
フジが、クマにこの場を任せるようだ
”ぅおふ!”
そしてクマが応えるように吠える。まさに答えているのだろう。ここは任せろと。
「では行くかの。留守を頼むぞ。クマ」
”ぅおっふ!”
屋敷の中に戻るとガハルトとイザークが神妙な面持ちで話をしている。
「うん? どうしたんじゃ? 何か問題でも起きたのかの?」
――フジが町に居ること自体が大問題じゃがのぉ。が、今更、どうにもなるまい
とガハルト達の顔を見る。
「いやなぁ、先ずは託された牙。これは懇意にしてる商会に預けようと思う。そこから競売に出してもらおうって腹だ」
フジの食事の残りかす。10本の魔猪の牙だ。
「ふむ。良いのでは? ギルドは……。ま、いいか」
「ああ。わざわざ、あのいけ好かないクソレンガーの手柄にしてやるのもな。でだ、もう一点。素面のうちに言っておきたくてな。カンイチよ」
「なんじゃ? 改まって」
身を正すガハルトとイザークの顔を見まわす。
「俺達も付いて行っていいか?」
「うん? 拠点を移すのか? フィヤマに?」
「違う……。今後もカンイチと行動を共にという意味だ」
……
言葉の意味を整理するカンイチ。
「ワシに付いて来ると? 前にも言ったじゃろ? ワシは3年限定じゃぞ? 冒険者は」
「ああ。その後もな。どうせ、クマたちの餌だって取りに行くだろう? フジ様だっている。呑気に畑……って訳にも行くまいよ?」
――いや、その呑気に畑が希望なんじゃがのぉ。ま、ガハルトの言う通りじゃのぉ。
と。隣にいるフジに視線を落とす。フジは我関せず。ゆったりと寛いでいる。
「そりゃ、そうじゃがな……しかし……」
「ギルドより、多くの”戦い”が期待できるからな。山に村作るんだろう?」
「そりゃぁ、洒落じゃろが? それに、イザークさんはまだ若いだろう? これから稼いで嫁を貰って……」
「それを言ったらカンイチさんだって一緒でしょう?」
「そりゃまぁ、そうじゃが」
偉そうに語ったところで、今はイザーク君と同じ若造である。ピチピチの。
「俺の家も元々農家だし。苦じゃないですよ」
「そ、そうなのか?」
「ええ。兄貴が継いでいます。俺、三男だから。剣も多少振れたんで冒険者に」
「実際、冒険者にはそういうの多いぞ。農地だって有限。長男が継いで、分けても次男までだろ? それ以降は、婿に出るか、兄貴の下に付くか」
「大概が、幼馴染と冒険者で一花咲かそうと出てきますね。兄貴の下だなんてゾッとする。奴隷のように扱き使われるんだ」
「そこまでは無かろうに? 肉親じゃろが。うん? 良いのか? 幼馴染? お仲間は?」
ふと、カンイチに絡んできた二人の若者の顔が思い浮かぶ。
「あ、俺の場合、こっちで知り合ったから……。研修の時に」
「ま、そんな訳だ。どうだろうか?」
「どうと言われてものぉ……」
『ふん。イザークは我が雇ってやる。ブラシ係だな! ついて来ると良い!』
「お、おい。フジ。良いのか? 本当にガハルト、イザークさん」
「ああ! なにより面白そうだ。付いていくぞ! カンイチよ!」
「ええ。お願いします。カンイチさん! 俺も混ぜてください!」
そこまで言われてはと、
「うむ。こちらこそ頼む」
「よし! 当分は一緒に冒険者やろうぜ! 早速、チームの結成式だ! 飲みに行くぞ!」
「「おう!」」
『うむ! 我も行くぞ!』
……
「ねぇ、本気? ガハルト?」
と、ガハルトの”移動”を聞いて驚く美女
「ああ。フィヤマに行く。このチームの頭はカンイチだからな! ま、隣町だし。また寄らせてもらうわ!」
「この町も寂しくなるわねぇ」
そう、ここは【ライザのレストラン】。ガハルトのお気に入りの食事処。ここで、結成式兼、お疲れさん会を。無理を言ってフジも店内に入れてもらえた。
彼は、只今、テーブルの下で香草焼きを堪能中だ。
「しかし、ガハルト、確かに(カンイチは)実力はありそうだが、お前さんが頭じゃないのか? ランク的ににみてもよ」
「はっはっは。カンイチが面白そうだから無理言って付いていくんだ。だから、カンイチが頭だ。それに俺たちの間にランクはない! なぁ!カンイチ!」
「まぁのぉ。わしも良い友人が得られて嬉しいわ」
「お? おお!? 嬉しいこと言ってくれるな! カンイチ!」
「酔ってるんじゃない?」
とライザがチクり。
「おい!」
……
「それにしても、4頭目。そいつ、魔獣だろ? よくもまぁ手懐けたものだな」
「魔獣?ケイン本当ぅ?」
「存在感がまるで違うな。見た目は普通の、毛並みの良いハイイロオオカミだが……。それに野生の狼は香草焼きなぞ臭くて食わんぞ」
「そ、そういえばそうね……。美味しそうに食べてるわ。それに付け合わせの野菜も」
「ま、色々あったんだわ。詮索無用だケイン」
「ああ……。ちゃんと野菜まで食うなんてな。よっぽどガハルトより食通だわな」
「ほっとけ!」
……
「「「かんぱ~い」」」
何回目かの乾杯の合図。フジも香草焼き3人前と、肉多めのスープ、パン。ちゃっかりデザートも平らげてテーブルの下で満足げに毛繕い。酒は飲まないそうだ。
「”ぶふぁぁ!” カンイチよ。もう、明日一日、付き合ってくれ。ギルドと例の販売委託をしたい」
「うむ。構わんぞ。イザーク君もやることあったら」
「”ひっく!” だ、大丈夫ですよぉ~~」
「おぅん? 少々飲み過ぎたか。そうそう。茶、売ってるとこ知らんか? ガハルト」
「茶? ああ、茶なら、明日行くところでも取り扱ってるぞ」
「うん? アミアンのところにか?」
替りのジョッキを持ってきたケインが訪ねる
「そうだが? なんかあったか?」
「いや、特にないが……。競売にかけるくらいの収穫があったか? 羨ましいこって」
「なら、復帰すればよかろうが! 何ならうちに混ぜてやるぞ? はっはっはっは!」
「面白そうだなぁ」
「ほらほら! あなた!」
「おう! ガハルトよ。たまには顔出せよ!」
「おうよ!」
……




