アカリノへ帰還
……
山を下りることになったカンイチ一行。先頭はこの辺りを知りつくしているフジ、一応警戒しながら進む。フジがいるとはいえ、魔界のような山だ。何が起こるかわからない。
先頭のフジが顔を上げ鼻をヒク付かせる。
『うむ? ……臭いな。気をつけよ。この先に蛇がいるな』
「蛇かの」
”ぅをふ!”
シロの吠える方向……
「何じゃぁ、この辺りにはデカい物しかおらんのか……人とはなんと矮小なものよ……」
結構距離があるのだが、はっきりとその姿を見て取れる。大きい。
マムシ……というより、コブラだろう。つるりとした頭。こちらを確認すると鎌首を上げ、威嚇の喉を広げる。その長さ……20m以上あるだろう。持ち上げた頭はこちらを見下ろすくらいだ。
「ここで、『藪走り』か……。デカいから『森走り』と言えるかもしれんな」
「ガ、ガハルトさん! そんなこと言ってる場合じゃ…」
「ここは撤退しよう。まだ距離もある。そうっと下がれ」
手のサインで、後退の指示を出す。
「だの」
カンイチも賛同の返事をし、フジを見る。
『ふん。こんな蛇ごとき。退くか! 行くぞ! 〖閃爪〗!』
今度は大きくならずに駆け寄りざま、その爪をコブラの首に叩きつけるフジ。その首は易々切断され、
”どさり”
鎌首ごと、地面に落される
その様子を呆然と眺める一行。
「もう、何でもありじゃな。フジ……この化物め……」
『化物ではない。フェンリルだ! お爺。サッサと仕舞って先に征くぞ! 惚れたか! ハナぁ!』
”ぅわふ!”
ハナも満更ではないようだ。皆が言うように魔物に近づいているせいか、なんとなしに表情でわかる。
「良かったのぉ。フジよ……」
『当然であろう! 我はフェンリルぞ! ふふん♪』
その割には浮かれてるとも思ったがここは口には出さない。思ったより可愛い奴だと。
頭と、まだ蠢く身体。双方とも”収納”に問題なく入った。何事も無かったかのように進軍は再開される。フジに対する畏怖の念を抱きつつ
その後は特に魔物と会敵することもなく。山中で2泊。やっと草原に出た。
……
草原に出た後は、採取、狩猟等はせずに町へと向かう。途中、毒蛇を貪る犬達。いつもの風景だ。夕方にはアカリノの町に到着。
が、少々騒ぎとなる。この町でも、上位。勇名を馳せるガハルトの姿を見て門衛も騒めく
「お! おい! ガハルト! 大丈夫か!」
気の知れた門衛が声を掛ける。
「ああ、かすり傷だ。問題ない」
力こぶを造り、無事を告げるガハルト。
「何とやり合ったんだ? いったい……」
ガハルトの着る金属ヨロイの所々のパーツがひしゃげ、部品も所々無い。拭ってはいるが、あちこちに渇いてこびりついた血の跡も。
ガハルト自体はぴんぴんしているから、問題ないのだろうが、心配そうに声を掛ける
「ま、色々な。傷ももう塞がったし。問題ない」
「それならいいがな」
「でなぁ、サイクス。問題……。いや、カンイチの従魔が一頭増えた。仮手続きしてくれ」
「は? うん? 今度は銀狼? ハイイロオオカミ? じゃあ、今度は婿か? はははは」
「ああ、その通りだ。良くわかったな? サイクス」
「は? まじ?」
「本当か? ガハルト。適当に言ったのだが……」
「なかなかに勇壮な狼だな。いい面構えだ。しかし、大丈夫か? 4頭ともなると、養うの大変だな……エサ代だって」
「まぁ、問題ない」
「流石、”銀”だな。これを。仮の証だ。出る時返してくれ」
「わかった」
「おかえり! 冒険者諸君! 無事で何よりだ」
……
いざ、街なかに! という段で少々問題発生。
『……で、お爺。この我に縄を付けると?』
フジの睨みつける先。そう手綱だ。特に罰則はない。手綱を付けるのが望ましいとなってはいる。もちろん貴族街は別、必須だ。
但し、手綱を付けずに”従魔”が暴走し住民などに怪我を負わせたり、死に至らしめた場合は重罪。死刑もありうる。よって自主的に付けるものが多い。カンイチも問題回避にとハンスから重々言われている。
「そうなんじゃ。フジには悪いと思うておる。この町の……いや、人間の領域の”掟”でな。フジがワシらと人の領域で暮らすなら守ってもらいたいのじゃが。どうする? さすがに首輪はせんつもりじゃ。大きくなるしの」
申し訳なさそうに説明をするカンイチ。
その真摯な態度に嘘はなし。フジも頷く。
『仕方なしか……。その代わり、我も食事の時は同席するぞ』
ふいと手綱から目を逸らす。
「わかった。人語も無しで頼む」
『うん? この声は直接、お爺や、ガハルトらの頭に送っておる。大丈夫だ』
「そうだったのか……」
「何ブツブツ言ってるんだ? 縄、頼むぞ?」
「はい。なるほどのぉ」
確かに衛士の方々には聞こえていないらしい。狼が喋る。それだけで騒ぎになるだろう。
『そういう事だ。ふむ。早速、飯屋か?』
「そうですな! 身支度整えて、お疲れさん会をしましょう!」
「ガハルト?」
『うむ。楽しみであるな!』
「そういうもんですよ。カンイチさん。今回はかなりの実入りも期待できますし」
「ああ! 良く動き、良く戦った! ぱぁっとやってゆっくり休もう!」
「そうじゃな、うむ!」
カンイチだって、地球にいる時は猪が取れれば、町の皆集まってわいわいと焼いて食ったりしたものだ。
「そうじゃ、ガハルト、今晩も世話になってええか?」
「ああ。もちろんだ。なにもないがな!」
「お、俺も……良いですか?」
「は? 来ても何もないぞ? イザーク。只、寝るだけの場所だ。寝袋で寝るんだぞ?」
「そ、それでもいいです!」
イザーク君から見れば、高位冒険者ガハルトと一緒。それに、このチームから外れたくないという気持ちも大きいのだろう。そんな事とは露知らず、好奇の目を向けるガハルト。
「変わった奴だな。なら来ると良い。構わんだろ? カンイチ」
「ああ。ワシに思うところはない。本当に何も無いぞ?」
「やった!」
小躍りしそうなほどの喜びを見せるイザーク。
「「変わった奴だな」 じゃな」
と
『うん? 飯は未だか? 飯は? お爺?』
「はい、フジ様。行きましょうか」
『うむ!』
 




