フェンリル
……
魔猪と会敵する前に、この世界の最強の魔獣に数えられる、魔獣”フェンリル”と出会ってしまったカンイチ一行。
まだ敵対には至ってはいないが、ハナを置いて行けという無理難題。この場には、ガハルトとイザークもいる。さて、どうしたものかと思案するカンイチ。
『よし! 決めた! お爺。我もついて行こう!』
突然のフェンリルの同道宣言! それもカンイチについて来ると言う。
一体何がと、傍らのハナを見る。首を傾げるハナ。
再び、巨大な狼、フェンリルに向き直るカンイチ。
「はぁ? はっきり言って迷惑……じゃが? ここを見逃してくれるだけで良いのじゃが」
本当に”迷惑””嫌”と大きく顔に書いてあるカンイチ。
「カ、カンイチさん!」
焦るイザーク。未だ腰が抜けて立てない。
『なに!? 我はフェンリルぞ、最強の魔獣ぞ?』
ぐるるるる……と、牙を剥き、カンイチに迫るフェンリル。
「なにせ目立つ。でかいし、白銀の毛。面倒ごとしか思いつかんわい。何よりものすごく食いそうだしの。こんなおおきな魔獣、養いきれんわい」
「お、おい、カンイチ」
さすがにガハルトも声をかける。
『は? 其の方なんぞにに養われずとも飯ぐらい我が………ハナよ、笑うな』
カンイチには解らない。が、この問答、フェンリルの態度にハナが笑ったようだ。犬達の言葉が分かるのかと一気に好奇心が膨らむカンイチ。
「うん? フェンリル様はハナらの言葉が分かるのかの?」
『気安く呼ぶな! お爺! ハナは我の番だ!』
「ハナはわしの友で相棒、家族じゃ」
『むぅ……。我の眷属といったであろうが……。とにかく、付いていくことは決定事項である! これでよかろうが!』
そう言うとスルスルと小さくなるフェンリル。シロと同じくらいの大きさの、落ちついた燻し銀の毛色の狼に。
「す、凄いのぉ……さすが魔獣様じゃなぁ」
『これでよかろう? そうだ、我にも名をつけよ。人のいる場でフェンリルじゃ不味かろう』
「……人のいる場で不味い? 十分に判ってらっしゃるではないか。それで付いてきなさるとおっしゃるのか」
『ハナが行くのであれば決定事項だ!』
「本気か?」
『番だからな! ふふん!』
じっと、フェンリルの目を覗き込む。カンイチ。
その瞳に曇りなし。本気でついてくるようだ。
「……面倒な 『ううん?』 ……。ふぅ……。じゃぁ、フェンリル様だで、フェン 『却下だ! 安易すぎるぞ。もう少し頭を使え!』 コロ 『却下だ! 何故か無性に腹が立つな……』 ポチ 『……却下だ。真面目にやらんと、その頭、齧るぞ!』 う、う~~ん」
――面倒な……。コロでよかろうが……
困り顔のカンイチ。名前のセンスは壊滅的だ。その様子を緊張した面持ちで見守るガハルト、イザーク。何せ相手は伝説の最強、最凶の魔獣、フェンリルだ。
「ふむぅ。じゃぁ【不死の山】、ワシの故郷で一番の山、【富士】にも通じる。……それは美しく大きな山じゃった。フジ……でどうじゃ?」
『ふむ。お爺にはこれ以上求めるのも酷か……。良かろう。それでよい。今から我を、フジと呼ぶといい』
了解の返事と共に、フェンリル、フジの身体が淡く光る。
「うぉ? ……シロの時と同じじゃな」
『ふん。不本意だが、契約のようなものだ。これから頼むぞ、お爺!』
「ワシは、カンイチという。よろしく頼む。フジ」
『うむ。それじゃ、ハナ、子作りの予定をな……』
もうカンイチなぞ、眼中にないフェンリル改め、フジ。ハナの下に駆け寄る。
「やれやれじゃわい……」
ハナの婿が決まったのはいいが、人語を操る魔獣様だ。どうしてもこの先が心配なカンイチであった。
――ま、放っておけばいいかの? なんとなくじゃが、ハナなら上手くやってくれるじゃろ
そんな気がする。と、諦めのカンイチ。所謂、責任放棄だ。
「そうそう、フジよ。ついて来るのはいいが、むやみに人に噛み付いてはいかんぞ」
『……お爺よ、我を何だと思っておるのだ? 誇り高き魔獣、フェンリルぞ!』
「はいはい。じゃ、お願いする」
『うむ。が、武器を持って襲ってきたら……。ハナを守るためには闘うぞ! 我が爪で引き裂いてやろう!』
「その時はの。そうそう、仲間のガハルトさんと、イザークさんだ」
『ふむ。其の方らもよろしく頼む』
「は、はっ、フェンリル様 『フジだ』 フジ様……」
「はひぃ! お、お願いしまふ……」
カンイチ一行に魔獣フェンリルが仲間に加わった。
……
『して、お爺。こんな山奥まで何しに参ったのだ? ただ遊びに来たのではあるまい?』
カンイチとしては、正に、遊びに来たのだが。そこは、周りの雰囲気を読んで
「魔猪を狩にの」
『魔猪? 何だ? 普通の猪と違うのか?』
「普通の猪の何倍も大きくてのぉ、魔石なども持っている」
『うむ? 大きな猪? 魔石? 我くらいの大きさか? なら、この辺りにはもういないぞ。我が、皆、食ってしまった』
体が大きく、最凶の魔獣フェンリルにとっては魔猪も、猪も同じのようだ。
「食ってしまったか……。だそうじゃ、ガハルトさん。場所、変えるかの」
「でしょうね。ふぇん……フジ様がこの辺りにいらっしゃれば、魔猪も寄っては来ないでしょう」
『うむ。そうだ。我には必要ないが、魔石やら牙やら骨は放ってある。必要ならば案内するが。持って行くと良い』
「魔石か……いくらあっても足りぬと聞く。貰ってよいかの?」
『うむ。構わぬ。では、ついてこい』
先頭を歩くフジについて山を登っていく。流石フェンリルが占拠していた山、他の気配はない。
「カンイチさん……。本当に連れて行くんですか?」
「仕方あるまい。ついて来るというている。ほれ、言葉も通じるし、頭も悪くない。なによりハナを置いていくわけにはいかんからの」
「話が通じるっていっても……」
「うん? イザークさんの元のお仲間さんやハグロじゃったか。彼らよりよっぽど話せるぞ」
「……」
渋い顔のイザーク君。
「おいおい。カンイチ。それを言っちゃお終いだわ。まぁ、ここに至っては、な。仕方あるまい。イザークも他言無用だぞ。面倒ごとしかない。下手すりゃ、町が消えるぞ」
「は、はい……」
それほどのもんか? と、前を往くフジに目を向けるも……。ハナから離れようともしない。べったりだ。偶にハナに唸られて、ご機嫌取りをしている。少々情けない。
「ま、ええじゃろうさ……」
ハナとの仔犬が生まれたら人語を話すのだろうか? と、少々楽しみでもあるカンイチ爺さん。孫みたいなものだと。




