ライザのレストラン
……
一方その頃。
「「かんぱぁい!!」」
”がこぉん!”
真昼間というのに店内に乾杯の声と、木製のジョッキを打ち鳴らす音が店内に響く!
小さな樽のような、巨大なジョッキの中味を美味そうに、一息に胃に嚥下する二人。カンイチとガハルトだ。
「あらあら。ガハルトが人連れてくるなんて珍しいわねぇ」
お替りのジョッキを運んできた、美女。30には届かないだろう。
そんな美女も首を傾げる。相手のカンイチに。
ガハルトも人だ。道で出会って意気投合という奇跡があっても不思議ではないが、どうみても見習いくらいの年齢の若造だ。しかも、人族。
特にガハルトは気難しい。”金”のベテラン、ソロで活躍している。それなりに力のある者でないと口すらきかない。そんなガハルトの様子を不思議そうに見る。
「ぷふぅ~~。ライザよ。俺だって友人の一人や二人……いたか? はっはっは! まぁいい! こいつはカンイチだ。よろしく頼む!」
珍しく上機嫌のガハルトに更に驚く美女、ライザ
「カンイチじゃ……です。よろしく」
「こちらこそ。てか、真昼間から呑んでていいのぉ~~あなた達?」
「いいんだ、いいんだ。面白いことがあったからなぁ!」
「ふ~~ん。ツマミはお任せでいいわね」
ここ迄上機嫌のガハルトを見るのも初めて。ならば、店としてはその場を提供しましょうと引っ込むライザ。
「おう! 頼む!」
ここは『ライザのレストラン』。ガハルトの巨体に似合わない、こじんまりとした街のレストランだ。営業は基本、夜のコース料理のみ。少々お高い店だ。今は準備中だが
厨房には、旦那と思われる筋骨隆々の偉丈夫がその料理の腕を振るう。怪異な風貌とピンクのフリフリのついた可愛らしいエプロンとの違和感が凄まじい。
一品出来たのか、厨房から偉丈夫が皿を持って現れた。
「おう! ガハルト。随分と上機嫌だな」
「おう! ケイン! ……お前さんもそのエプロンどうにかならんのか?」
「うるさいわ! 結構気に入ってるんだ。ほう……。中々できるな……」
カンイチの目、肩回り、腰回り、手足を順に目で追うケイン。
「だろう! カンイチだ!」
「カンイチです。よろしく」
「うむ。よろしく。狼使い……って訳でもなさそうだな。てか、あの白い狼、たしか、ハグロの小僧のじゃなかったか?」
窓から見える中庭。3頭の狼――内2頭は犬だが――が、ゆったりと日向ぼっこをしている。そして、クマに寄りそう白狼に目を向ける。
「あ、私もそう思った。最近、ここらで狼使いってハグロ君しかいないものね。それに、あの首輪」
「ぶはぁ~~。ああ。そうだ! ハグロの狼だ! でなぁ……」
ギルド内のいざこざ。訓練場でのバトル。そして、クマについてきたこと。を、ガハルトが面白可笑しく語る。
「そいつはハグロも災難だなぁ。自業自得とはいえ」
気の毒そうにつぶやくケイン。
「調子こいてたのよ。弱っちいのに。狼にも見捨てられちゃったんだ。もうお終いね」
と、笑いながらライザがチクり。
「おい……。しかし、少々問題になりそうだな。この場合従魔の奪取にあたるのか? その点はどうなんだ。ガハルト?」
「知らん。が、大丈夫だろ。そもそもハグロの野郎が仕掛けて来たんだしな」
「知らんて……。お前、先輩なんだしな。ちゃんと面倒見てやれよ」
「おう。何とかなるだろうさ」
”からんかららあん”
ドアベルの音とともにイザークが店内に。用事を済ませ、”報酬”を受け取りにきたようだ。
「行ってきましたよ。ガハルトさん! ライザさん、ケインさんお久しぶりです!」
「あらぁ、イザーク君。いらっしゃい」
「おう! 久しぶりだな! イザーク!」
この店は少々お高い、高級店でもある。イザークの稼ぎじゃ来たくともそうそう来れる店じゃない。
元、高位の冒険者夫婦の経営する店だ。多少の若者冒険者割引きがあるとしても。
「ご苦労。どうだった? ハグロの野郎、受け取ったか?」
「はい。文句があればガハルトさんにって伝えておきました」
「は? 俺じゃないだろう。カンイチにだ。ったく。まぁ座れ。好きな飲みもん頼め」
「いただきます! 久しぶりだなぁ。ここ」
ワクワク顔でメニューを広げるイザーク
「うん? 受け取ったかって?」
「ああ。ハグロに金貨10枚な。あいつが、カンイチの狼に付けた値段だ。文句はあるまい」
がふりとグリルした骨付き肉に食らいつくガハルト。
「それと、結納? の金貨5枚。あ! ライザさん! このワインください!」
と、イザークが補足。
「金か……受け取ったのならいいのか?」
「知らん。どうでもいい。なぁ、カンイチ!」
「どうでも良くはないがの。クマも気に入ってるようだしのぉ。無理に引き離しに来たら、食い殺しかねん」
中庭に目を向ける。どこから見てもラブラブの二頭。べったりだ。
「あらあら。でも、3頭も養うとなると大変ねぇ」
「まぁ、何とかなる。フィヤマの近郊には野兎がたんといるで……いますから」
「なるほどぉ。害獣駆除の依頼も熟せて一石二鳥ね。それにウサギ肉は良いわ。作物荒らしてさらに栄養価も高いでしょうし」
「うむ。丸々と肥えとる。狩っても狩っても減る気配がない。おそらく先の方の草原から次々に来るのだろう」
「うん? カンイチは、フィヤマの所属か?」
と、今更ながらのガハルト
「言ってなかったか? ド田舎の村から出てきて、今はフィヤマの冒険者ギルドで世話になってる」
「なぁ、カンイチ。ランクは何?」
おもむろにイザークが話しかける。あの闘いっぷり、”銅”かも知れないと。
「ワシのか……確か、”銀”だったか?」
”ぶふぅぅ!”
「はぁ? ぎ、”銀”ん? ほ、本当?」
折角のワインを噴き出したイザーク。銀……。それなりの武と経験が無ければ許されないランクだ。
「ほう。”銀”かよ。なるほどな。フィヤマは確か……リスト殿だったか。ちゃんと見合ったランクをくれてるようだな」
「そうか? ケイン。”金”でも良さそうな腕だぞ」
「もう……。すぐ忘れるんだから、脳筋は。ギルド長権限は”銀”までよぉ。それに新人君に”銀”なんて特例中の特例。それとも、話し方みたいに、若返りの霊薬でも使ってるのかしら?」
霊薬は使っていないが、中身は正真正銘の99の爺様だ。中々に勘がいいライザ。
「”銀”……か」
ちなみにイザーク君はまだ、”鉄”だ。
「歳は15だ。話し方は、年寄しかいない村だったせいか。今、直してるところだ……」
「ふふふ。良いじゃない。そのままでも」
「笑われるからな。ライザさんみたいに」
「あら、失礼しました!」
……
 




