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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
4. スミレ

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4-19. 森を駆けていくような


「何か、久しぶりに来たような気がする」


「ボクもたぶん、聖歌(せいか)と同じタイミングで来て以来かも」


「……そっか」


 目の前に広がるのは楽譜がたくさん詰め込まれた本棚。

 その奥には楽典の書籍や指導書。

 そのさらに奥の方には鍵盤楽器の試奏エリアが広がっている。

 アップライトピアノの購入を検討しているのか、親子連れの姿が見えた。


 ボクと聖歌が来ているのは、例の楽器店。

 いつぞたまたま鉢合わせしてしまった、あの店だ。


 経緯も機微なども、何だかよくわからない。

 ボクが何となく「楽器屋に行こうかなって思うんだけど、いっしょに来る?」と訊いて、今ひとつ返事の内容もあまり確認しないままに、それこそ強引に手を引くような雰囲気で連れてきてしまった。


 さっきマスターに『今は落ち着いた』とか言った矢先の、コレだ。

 口は悪いけれど『このザマ』なんて言い方でもお釣りが来るくらいだと思う。

 タイムマシンがあったら、あの現場に押しかけて後頭部あたりに一撃食らわせてやろうかと思うくらいだ。


「聖歌は……何か見たいのとかあった?」


「うーん……」


 案の定、歯切れの悪い回答。

 そりゃそうだ。勝手に連れて来られて何があるというのか、って話だった。


「だったら……」


「ん? 何かある?」


「ジャズピアノの教本……とか?」


「それは、ボクに見せたいモノって話じゃない?」


 だんだんと、強引に連れてきてしまったのが申し訳なくなってきた。


 やっぱりそうだ。

 機微がよくわからない、なんて言ったけれど、あれはウソだ。


 いや、ウソと言い切るにはちょっと違う。


 今しがた解ってしまった、と言うのが適切だろう。


 ただただ、単純な話。



 ――聖歌と離れがたく思ってしまったからだ。



「ううん、そんなことなくって。あたしも、ちょっとは見てみたいし。それにほら、さっきの聴いて、やっぱり普通の演奏とは違うんだよね、って思ったら興味あるし」


 懸命に言葉を紡いでくれるのは、ボクのためなのか何なのか。

 そんなことはないだろうけど、心のどこかではそうであることを期待してしまっている。

 浅ましいと思えなくもないけれど、都合良く考えてしまうのは人の性だと思うのだ。


 ならば、これくらいのわがままは聞いてもらえるだろうか。


「だったらそれと……、あとはついでだけど、上のフロアも見たいんだけどイイかな?」


「もちろんだよ」


「ありがと」


「何かまたスゴい楽器とか、あるかな?」


「どうかなぁ」


 乗り気になっている聖歌の姿に、祐樹(ゆうき)亜紀子(あきこ)の顔が覆い被さって、すぐに消えていった。




            ○





 思った以上に書籍巡りに時間がかかってしまった。

 その上に、お金に余裕があるなら1冊買っていった方がいいよ、という聖歌の薦めもあり、教本を1冊購入する。

 会員カードを持ってきていて良かった。

 こういう何気ないタイミングでふらっと遊びにきて、そこで思わぬ掘り出し物を見つけてしまうことが多いので、ボクは基本的にポイントカードを常時持ち歩いてしまうタイプだった。

 財布がやたらと分厚くなって不格好だからと思ってカードケースを持つようになってからは、その傾向に拍車がかかっている。


「聖歌は楽譜とか教本とか見なくて良かったの?」


「今は、いいかな」


「そっか」


 ウインドーショッピングのようなものに無理矢理付き合わせている感が無いとは言えない。

 けれど、ボクが開いて見せた教本のページに真剣に頷いたり、「そうなんだぁ……」と呟いたりしていたあたり、そこまで退屈な時間にはなっていなかったと思いたかった。


「じゃあ、上行こ」


「……何で聖歌の方が乗り気なのか、と」


「んー。弾けないけど、見るのは好きだから、かな」


 くるりとプリーツスカートを翻しながら、階段上から聖歌が告げる。

 危うくその中身が見えそうになり、慌てて視線を外へと向けた。

 吹き抜けのようになっているこのスペースは、ちょっとした休憩ができるようにもなっている。

 大きな窓からは通りを挟んで反対側にある大きなホテルに反射した夕陽が差し込んできていた。

 ――顔が赤いのは誤魔化せただろう。


「あれ? 貴女はたしか……」


「あ、えーっと……」


 先に階段を上がりきった聖歌に、聞き慣れた声がかかった。

 若干人見知りが発動してしまったような声もいっしょに聞こえる。

 反射的に口篭もった聖歌に早いとこ助け船を出してあげないと。


「どもです、美春(みはる)さん」


「ああ、やっぱりそうだった」


 いつもお世話になっている店員、蘇芳(すおう)美春がボクに向かっても笑みを見せる。

 基本的な営業スマイルとはちょっと違う、さながら親戚の子に向かって見せるような笑顔だ。


「よかった、私の記憶違いだったらどうしようかと思って」


「1回ちらっとしか見てないのに覚えてる方がスゴいですって」


「伊達にこの仕事短くないからね」


 そうでした。

 接客業を舐めちゃいけない案件の第2弾、といった感じだろうか。

 今日はこういう反省事項が多い気がする。


「さてと、お兄さん。今日は何の楽器をご所望で?」


「……知ってるクセに」


「まぁね」


 先日母から送られてきたあのオーボエの領収書の販売担当者を書く欄には、しっかりと蘇芳美春の名前があった。

 テンションが上がりすぎてそのことに気が付いたのは帰宅後だったわけだけど、きっと気が付かないよりはマシだと思う。


「そちらの彼女は、彼のオーボエ聴いた?」


 美春さんはさらにやわらかい笑顔を作って、聖歌に訊いた。

 まるで小学生の女の子を相手にするような訊き方だった。


「まだ、です」


「甲斐性無しめ」


「……その言い方はおかしくないです?」


 そこまで便利な言葉だと思ったことはない、甲斐性無し。


「いえいえ、別に。って今はそういう話をするんじゃなくて」


「何です?」


 美春さんはボクの訊き返したのを聞き取るが早いか、バタバタとレジ横にある棚の方に駆けていったと思ったら、何やら書類を持って戻ってきた。


「アンケート」


「ああ、なるほど」


 購入者のなんとやら、というヤツだろう。

 次にいつ来られるかなんて不確定。

 たしかに今ここでやっておくのが無難だろう。


「ごめんね。えーっと……、聖歌ちゃんだったかな?」


「え? は、はい。そうです」


「ちょっとだけこの子預からせてもらうわね」


「……そのまま未成年略取されそうですね、その言い方だと」


「あら、人聞きの悪いことを言う口だわね」


すんませんでした(ふんまへんへした)


 思いっきり唇を掴まれた。

 その光景を見てくすくすと笑いながらも、書類書きの邪魔になったら悪いと思ったのか、聖歌は以前と同じようにフルートやらクラリネットが並んでいる階段近くのショーケースの方へ向かっていった。

 そこまでのことでも無いような気がするが、それと同時に遠慮しがちな聖歌らしさも覚える。


「じゃあ、とりあえずコレねー。ま、いつもの、って感じでしょ?」


「いつもの、って言い切れるほどいつも楽器は買ってないですよ」


「ノリ悪いわねえ。せっかくイイの持ったんだから、それくらいの見栄は張ったってイイじゃないの」


 それとこれとは違うような気がするんだけど――とか思いながら、必要事項を淡々と書いていく。

 その様子を見ているようで見ていない美春さんの視線がどうにも気になって、ちょっとだけ顔を上げると、タイミング悪く美春さんとばっちり目が合った。


「……何ですか」


「ん? 訊いてイイの?」


「何をですか?」


 訊き返されるとは思っていなかったので、少々面食らう。


「……ホワイトデーのプレゼントって渡せたの?」


「はぇ!?」


「はい、うるさい」


「……すみません」


 予想外のアングルから小脇をくすぐられたような心境。

 実際に突然くすぐられたときのような声を出してしまった。

 天井の高い店内に響き渡ってしまい、聖歌の注意もこちらに向く。

 ごめんと手を合わせれば、少し訝しがるような顔を見せたもののすぐにショーケースの中を眺めに戻った。


「で? どうなの?」


「……渡しました」


「よし、エラいエラい」


 頭を撫でられる。


「……良かったんですかね、それで」


「イイでしょ、別に」


 あっさりと言い切られる。


「喜んでくれた?」


「最初は、断られかけましたよ」


「あら? その心は?」


「……バレンタインのときに渡せてないし、誕生日のときのお返しもしてないし、って」


 ボクの回答に、美春さんの右眉がぴくりと跳ねた。


「ふーん、なるほどねぇ。それで? 結局受け取ってはもらえたのね?」


「はい」


「じゃあ、やっぱり渡して正解ね」


 自分の意見が正しかったと確信をするように大きく頷く美春さん。

 その様子に、ボクの首はシンクロしてくれなかった。


「煮え切らないわね」


 不満げな美春さんに、『だって』とか『でも』というような言葉をぶつけそうになる。

 そんな言葉を吐き捨てたところで意味はないだろうからそのまま飲み込むけれど、やはり喉を通り抜けていくにはその言葉と気持ちは大きすぎた。


 苦しがっているように見えたのか、ボクの背中に平手を打って彼女は言う。


「美春姉さんから、ちょっとだけアドバイスね。……そこで自分の気持ちにウソつく理由ってあるの?」


 ――ウソ、とは。


 一体、何だろうか。




 ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


 圧しの足りない子というわけじゃないです、弁えているのです。……たぶん。



 ※次でラストです。

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