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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
4. スミレ

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4-18. 面影とすこしばかりの面映ゆさ


 16時を回ったあたりで、そろそろ行かないとマズいかもしれないという話になった平松(ひらまつ)さんが先に店を後にした。

 彼女はコーヒーにもケーキにも満足だったようで、「また来ますー!」と元気に宣言していった。

 店内BGM代わりに演奏をさせてもらっていたボクには何故か投げキッスをして去っていたが、どうにも最近そういう別れ方をしてくる同級生が増えてきているような気がしてならなかった。


「ちょっと休憩……」


 ありがたいことに拍手を頂戴しながら、カウンターへと戻る。


「おつかれさま」


「ありがと」


 聖歌(せいか)のねぎらいとともに、カフェラテを飲む。

 黙々と演奏していたのだが、いくら口を閉じていても喉は渇くものだった。


「また最近弾くようになったなんて知らなかった」


「ホントに誰にも言ってなかったからね」


「内緒にすることも無いような……ってこともなかったね」


「ん……、まぁね」


 知っててくれているのかわからないが、出来ればあまり話したくはないことだった。

 最近がんばりはじめたばかりのことだし、とくにその辺はまだまだヒミツにし続けたい気持ちが強い。


「でも、久しぶりに聞けた気がする。ピアノ」


「……言われてみればそうかもね。いつだろ。中学の合唱の伴奏とか?」


「そんな感じする。……あ、もしかしたら中3のときの選択の音楽かも」


「あ、そんなのあったね」


 懐かしい。

 中3の1学期、2学期はいくつか選択科目みたいなものがあって、その中で選んだ音楽の授業は、たしかに聖歌と同じクラスになっていた。

 男子でピアノを弾けるのがボクしか居なかったので自動的に歌うときの伴奏はボクが弾くことになったのだが、それを聞いていればそっちの方かもしれない。


「んー?」


「……懐かしいなぁ、選択科目か」


「あたしも言ってて『そんなのあったなぁ』って思っちゃった」


「んんー?」


 暇になったのか何なのか、さっきからコチラの様子を遠巻きに見ていたマスターが、何やら唸りながらこちらに近付いてきた。

 そのまま聖歌の顔を覗き込むようにして見てくる。


「え……?」


「ちょっとマスター。怯えてるからやめて」


 ひっ、とかいうタイプの悲鳴を上げないだけマシだけど、引き気味の反応なのは間違いない。


「大丈夫だって、獲って食いやしねえよ」


「……怪しいんだよなぁ」


 何かそういうドラマみたいなのが、深夜くらいに放送されていそうな気がする。


「いやさぁ、聖歌ちゃん?」


「はい?」


「何かさ、『俺、こっちの子のことはどっかで見たことあるんだけど、どこだったかなぁ』ってずっと思ってたんだけどさ」


 デートか何かで来たとかだろうか。

 でも、仮にそうだとしたら、お店の玄関先に来た時点でこの場所を知っていそうなリアクションを取るはずだった。

 あの反応は間違いなく、初めて来た場所に対してする反応だった。


「アレじゃないか? 昔、コイツといっしょにコンサート会場とか遊びに来てなかったか?」


「え? あ、はい……。何回かあります」


「やっぱりか! そうかなぁ、とは思ってたんだよ」


 かなり驚く。

 聖歌も驚いていたが、きっとそれ以上にボクが驚いていた。

 小学校に入ってからしばらくくらいまでしか、聖歌がいっしょに遊びに来たことは無いはずだ。


「マスター、そんなに人の顔覚えるタイプでした?」


「失礼な。だったら接客業なんかやらねえよ。からかうの下手くそだな、瑞希(みずき)


 言われてみればその通りだった。

 ひと泡吹かせてやろうと思ったのに、キレイに返り討ちにされてしまった。


「『ずいぶんカワイイ子と仲良いんだな、コイツは』って思ってたってだけだよ」


「え」


「だから、やめてマスター。そういう毒牙にかけないで、っていつも言ってるでしょ」


 すぐそうやって口説こうとする。

 油断も隙もないとはまさにこのこと。

 もちろん、そこまで本気で言っているわけじゃないのも知っているし、失礼にならないように細心の注意を払っているのも知っている。

 何なら、マスターの褒め言葉は異性にだけ向けられるモノじゃ無いと言うことも知っている。

 それぞれのお客様の良いところを褒めて伸ばそうとする意図はしっかりと見せているから、そこまで警戒するような必要もないんだけれど。


 ――それでも、やっぱり何故か、危険なニオイを感じてしまった。


 もちろんそんなボクの気配を察することなく、マスターは聖歌に向けて人好きのする笑みを浮かべながら話を続ける。


「コイツは昔からちょろちょろといろんなとこ走り回ってたからなぁ……」


「今は落ち着いたでしょ」


「あー、ないない。それは無い」


 ぐうの音も出ない。

 いろんなところを歩き回るのが好きなのは、その頃からあまり変わっていない自覚が一応あった。

 今日のマスターは、ボクの痛いところを的確に突いてくるのが巧い気がする。

 誰かの差し金でもあったのだろうか。


「聖歌ちゃん的には、ああいうのって、良い迷惑だったんじゃないの?」


「そ、そんなことないですっ」


 にやりと笑ったマスターに、少し慌てて返す聖歌。

 食い気味で答えてくれたことに安心してしまった。


「ふーん……。なるほど、『振り回されるのが好き』、と」


「んなこと、一言も言ってないべ」


 嘘偽りだらけのファイリングを続けるのは止めていただきたい。

 さっきまでいた平松さんの情報については、本人が楽しそうにいろいろと話していたので間違ったモノにはなっていないだろうけど、今の話の流れでは『有る事無い事』じゃなくて『無い事無い事』だらけになっている。


「でも聖歌ちゃん、満更でも無い顔してるぞ?」


「ないない、それは無い」


 そんな物好きなことがあってたまるか、と思いながら横を見るが――。


「……」


「な?」


「……いやいや、ないない」


 たしかに、ちょっと満更でもないような顔をしているように見えてしまった。

 ただのプラシーボ効果のようなモノだろうと、自分の認識をリセットするように瞬きを素早くしてみる。


「ねえ、聖歌ちゃん。悪い男が好きなら、どーだい?」


「だから、無いっての」


 自分のことを指しながらにっこりと笑うマスターの手を払う。


「じゃあ、何か? お前は、聖歌ちゃんが『瑞希といっしょだったから、迷惑とは思っていない』と考えてるってコトか?」


「……そうも言ってないけどさ」


 そういう言い方をされて、「ええ、ハイ。まぁ、そうでしょうね」なんて開き直れるほど、ボクは人間が熟成されていない。

 世のオトコは自分かそれ以外しか居ない、なんていう名言を臆面も無く引用してこられるほどの度胸も持ち合わせちゃいないのだ。


「まぁ、いいや。それにしても、あれか。ふたりは幼なじみってヤツだったか」


 ある程度ボクをイジって満足したのか、マスターは勝手に納得して話を進め始めた。


「そう、ね」


 喉に何かが引っかかっているような気がして、咳払いをひとつしたあと、カップに残っていたカフェラテを飲みきる。

 2杯目がちょっとだけ欲しくなってしまうが、今からさらにカフェインを補充するのはあまり良く無さそうな気がしたのでやめておく。


「……ふーん」


 一瞬言葉に詰まったのを攻め立ててくるかと思ったが、意外にもマスターは思案気味に唸るだけだった。

 カウンターを挟んだ向こう側と、こちら側では、見えているものが違うのだろうか。

 そんなもの、皆目見当が付かないけれど。


「なるほどな」


「……何スか?」


「いやいや。とにかく、聖歌ちゃんも、また来てくれよ? ……コイツ抜きで、美里(みり)ちゃん連れてきてくれて全然構わないから」


「はい、それはもう」


「……聖歌より平松さんの方がここに来たがりそうな気がする」


「あ、たぶんそうかも。美里、結構こういうとこ好きそうだし」


「お、そうなの? じゃあ、ぜひ宣伝してくれ。ステマも大歓迎だから」


「正当な宣伝活動にしてくださいね」


 ステルスなモノには加担したくない。


「じゃあ、はっきりと宣伝させてもらうことにしよう」


 そう言って準備万端なマスターが取り出したのは、例の歌声バルのチラシだった。


「歌声……バルですか。喫茶じゃなくて」


「そう。そこなんだよ、よく気が付いてくれました。さすが月雁の子だな、地頭がイイ」


「いえ、そんな……」


 照れる聖歌。そんな姿を見て、さらに満足そうな雰囲気でマスターは頷いた。 


「実際、聖歌ちゃんの言うとおり、喫茶形式のときもあるんだけどね。バルでやるのはあんまり聞かないだろ?」


「あたしは、初めて聞きました」


「実はコイツのアイディアでね」


 ばしばしと勢いよく肩を叩いてくるマスター。

 さすがに力が強くて、そのまま前に吹き飛ばされそうになった。

 わざとらしく肩の埃を払うような素振りをしていると、聖歌の視線がこちらの方に向いていることに気付く。


「……てっきり、手柄を自分のモノにするかと思いました」


「バカやろう、そこまではしねえよ」


 そう言いながら苦笑いを浮かべたマスターの言葉に、偽りは含まれていないようだった。

 結構な頻度で冗談やウソを織り交ぜたりすることが多いマスターだが、言い方や顔つきでそれがウソか本当かくらいはわかるようにしてくれるところがある。


「なかなか夜の時間帯だと高校生には難しいかもしれないけどね、家族でも誰かそういうのが好きそうな人が居たら『こういうのもあるんだよー』って紹介してくれると嬉しいな、って話さ」


「そういうことでしたら、全然」


 巧い誘い文句だった。

 そもそも聖歌がここで断るとは思わなかったが、恐らく普段からこういう感じで常連さんにチラシを渡しているのだろう。このあたりはマスターのマスターらしいところだと思った。



 ここまでお読みいただきましてありがとうございます。

 なぜかタイトルが「5・7・5」になってますが、あまり気にしないでね。


 案外――と言うと失礼なんですが、人をしっかり見ているマスターの工藤さんです。

 現状、いちばん瑞希の周りを俯瞰出来ているオトナかもしれません。 


 ※第2章、残り2話!

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