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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
4. スミレ

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4-16. 楽譜とお誘い


 思った通り、今年も楽器と過ごすゴールデンウイークだった――と振り返るにはまだもう1日あるけれど、結局は誤差みたいなモノだ。

 基本的には同じように経過する24時間が再度繰り返されるだけのこと。

 もちろん、やっている練習はどれも今の自分にも将来の自分にも大切になるモノだから、適当に扱っているわけではない。


「……アタマではわかっててもなー」


 全く関係の無い話をしていた先輩たちが、偶然にもボクの思考と同じ様なことを言った。

 思わず頷きそうになるが、さすがに不審なのでちょっとだけ堪えておいた。


 現在時刻は2時半を少し過ぎたくらい。

 いつものようにぶっ通しの練習ではなかった理由のひとつには、先日のさくらフェスの打ち上げがこの土日に固まりがちだったというものがあった。

 学校行事に命を賭けるようなところがある我が校、こういうところも重要視していた。


「うーん……」


「何唸ってんの?」


「ん?」


 腕を組んでいたところに声をかけてきたのは、同級生の佐々岡(ささおか)慎也(しんや)だった。


「あー、いや。ちょっとこの後どうしようかな、って」


「ふーん」


 特段興味の無さそうな声が返ってきた。

 おそらく佐々岡くんのアタマの中は、どうやって空腹を満たそうか、ということでいっぱいになっているのだろう。

 今日は昼休憩がいつも以上に短くなっていたため、軽食のようなモノもまともに取れないくらいだった。


「そっちは? 打ち上げとかあるんだっけ?」


「そ」


「……あんまり食べ過ぎると勿体ないぞ?」


「なぜわかった」


「顔見りゃわかる」


 少なくとも『筆者の考えを選べ』系のテスト問題よりは読解が簡単だ。


「……ま、その通りなんだよなぁ。コンビニでおにぎりでも買うかー」


 腹をさすりつつ荷物を手に、佐々岡くんが去って行く。

 その後も続々と足早に音楽室を出て行く部員たち。

 わりとみんな急ぎ目なのは、このあと打ち上げまでの間にどこかへ繰り出すとか、そういう予定があるからだろう。

 ボクのクラスは終了済みなので、とくに急ぐような必要も無かった。


「ミズキー」


「うん?」


 今度は神流(かんな)だった。


「アンタ、帰んないの?」


「……ちょっとやりたいことあるからもうちょっと残ってく」


「んー、あっそー」


「じゃーねー、みずきくーん」


「おーっす、おつかれー」


 和恵(かずえ)さんたちも含めて続々と帰って行った結果、久しぶりにボクがラストになったらしい。

 本当に、いつ以来だろうか。

 それくらいの雰囲気があった。


「さて」


 資料などが置かれている棚を調べる。

 物色、と言った方が正しいだろうか。


 目当てのモノは、ピアノの楽譜。

 練習に使えそうなモノはあるだろうと睨んでいたのだが、残念なことに第2音楽室側には管楽器系の物が多く集まっていた。


「……ってことは、1音の方か」


 ならば、善は急げ――本当にこれが「善」なのかはわからないけれど、まぁいい――。

 今日は合唱部の方も早く上がることになっているのは、昼休憩のときに遭遇した大輔(だいすけ)から聞いていた。

 鍵をかけられてしまっていると少し面倒なので、自分の荷物を回収して第1音楽室のある3階へと向かうことにした。






 予想通りというか、何というか。

 かなり人は減ってきていた。

 もう少し探すのを粘ってみようか、なんてことを考えていたら、無人の音楽室の前で立ちすくみながら今日の部活を終えなくてはいけなかった。

 危ない、危ない。


 とりあえずノックをしてみる。


「はーい?」


 聞き覚えのある声が返ってきたので遠慮無く扉を開ける。


「あ、瑞希(みずき)くんじゃん!」


「どもっす」


 平松(ひらまつ)美里(みり)が扉のすぐ傍に居て、妙に楽しそうな顔をしていた。


「どしたの?」


「んー、ちょっと資料というか楽譜をね」


「楽譜? ……えーっと、オーボエのとか?」


 部活で使う物を探しに来たと思われているらしい。

 そりゃ当然か。


「あれ……? みずきくん?」


 ボクに気が付いて、聖歌(せいか)がゆっくりとこちらにやってきた。

 平松さんがまだ残っているなら聖歌もいるんじゃないか、と何となく思っていたが、予想は当たったらしい。

 折角なので聖歌にもここに来た理由を教える。

「だったらついてきて」ということで、合唱部顧問の小早川(こばやかわ)真央(まお)先生ごと鍵を借りてきてくれた平松さんが、ドアを開けてくれた。

 先生もいっしょなのは、ある意味ありがたかった。


「それにしても、ピアノもできるんだねー。瑞希くん」


「ピアノ教室に行ってたとかそういう感じじゃないけど、教わってはいたのかな。一応」


「弾ける人が身近に居たとかなの?」


「そんな感じです」


「どれくらい弾けるの?」


「一応、ちょっとだけ」


「……奥さん、今聞きました? あれは絶対『弾ける人』の言い方ですヨ」


「うん、絶対そうね。あれは」


「……あ、ダメだ。これもう自己弁護できないや」


「あはは……」


 ――なんて会話を3人と交わしながら物色。

 個人利用ならコピーを取っていってもいいよ、という小早川先生のお墨付きももらったので、遠慮無くめぼしいモノを確保させてもらうことにした。

 普段あまり絡みがない小早川先生だったが、こういうノリの人なのか、とひとつ学習した。


「ふたりともありがとうね。助かった」


 コピーを手伝ってもらったり、鍵を返しに行ったりとしているうちに、そのままの流れでいっしょに帰ることになった。

 まずはふたりに礼を言う。


「あたしは何もしてないよ。美里のおかげ」


「えっへん」


 平松さんは、ふふんと得意げに鼻を鳴らした。

 意外にも幼いリアクションにこちらまで笑ってしまう。


「ところで、さっきの楽譜って何に使うの?」


「んー、まぁ、その……。ウチに無い楽譜はあるかな、折角なら使わせてもらえないかな、って思ってね」


 基礎練習をもう一度、というのがメインの目的。

 サブの目的があるとすれば、それはただの興味。

 昔から何にしても、やりはじめるとこうなってしまいがちだった。


「練習は家で?」


「んー。まぁ、よくあるタイプのキーボードは持ってて、ヘッドホン繋いで練習したりもするんだけど」


 やっぱり、時にはあの重みのある弾き心地じゃないとな、なんてことは思ったりするわけで――。


 ――と、ここまで言ってしまって、少しだけ悩む。


 これから行くのがその練習場所でもある、例のマスターのお店。

『店内BGMとして弾いてくれるなら練習させてやる』というある意味ではありがたいお言葉を頂戴しているのだが、今日はその予定になっている日。

 あのお店のイイ感じのピアノを触れる貴重な日だった。


 まぁ、でも、イイだろう。

 コピーの手伝いまでしてもらったのに、『それじゃあまた』なんてお別れになるのは、恩を仇で返すまでは行かなくてもちょっと失礼な気がしてしまう。


「……実は今からその練習をしに行くんだけど」


「聞きたーい!」


 威勢の良い挙手と、返事。

 そんな予感はしていたし、予想もしていたけれど、そこまで元気なものが返ってくるとは思っていなかった。


「聖歌も来るっしょ?」


「え? ……あ、あたしは」


「来るって」


 言ってないけどね。

 ――いや、言ってないわけじゃないか。

 行きたいと言って良いのか迷っている、という感じかもしれない。


「……ま、そういうと思ってたけどね」


「イイ?」


「そりゃもう」


「やたっ」


 ぐっ、と小さくガッツポーズをして喜ぶ平松さん。


「っていうか、ウチらこのあと打ち上げあるんだけどね、時間がビミョーに空いちゃってどうしようかな、って思っててさ。聖歌は、瑞希くんと同じクラスだから、もう終わっちゃってるでしょ?」


「そうね」


「だから、ちょっと連れ回そうかと思ってたんだけど。とくにその宛てもないから困ってたんだよね」


 平松さんの口調から考えれば、恐らく夕方くらいから始まる打ち上げなのだろう。

 今から2時間とかそれ以上の時間を潰さなくてはいけないのなら、わりと難易度が高い。


「……ということなので、私たちを助けると思って!」


 今度は懇願してくる平松さん。


「うん。別に何も問題無いから、着いてきてよ」


 少しだけ不安というか懸念のようなものはあるから、今言ったことは少しウソが混ざっているけれど。


「ここからそんなに遠くない……っていうか、駅前だから」


「中央駅?」


「いや。月雁(つきかり)


 意外そうな顔をしているふたりに、ボクはさらに続けた。


「あともうひとつ、訊きたいことあるんだけど」


「なに?」「なになに?」


「……おなか、空かない?」


 タイミングよく、ボクの腹部が悲鳴を上げる。

 何だかんだで限界だった。




 ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


 この判断が正しかったかどうかは、……後々に解ってくると思います。

 ※第2章、残り4話です。

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