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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
4. スミレ

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4-XV. 懐かしい、彼の手


 ゴールデンウイーク残り僅かになってきた、と世間一般では言われているけれど、あたしたちにとってはそれほどわずかという気持ちもない。

 ――というか、そもそも休んでいる実感がない。

 やっぱりあたしたち合唱部にとっては、GWと書いて『合唱ウイーク』だよね、なんてことを思ったりする。

 この時期になると毎年思い出してしまう言葉だった。


「せーいかー、かーえろー」


「はぁーいー」


 跳ねるように言ってきた美里(みり)には、基本的に輪唱するみたいに返すのが礼儀だと思っていた。

 たまに変わったリズムでやってくるときは対応し損ねることはあるけれど、それもまた遊びのひとつみたいなところだった。


「あ……、でも」


「オーレもー」


「……え。なんで?」


「え、なにそれツラい」


 いつもとは違う予定がある、ということを言おうとしたところで横入りしてきたのは小野塚(おのづか)くんだったが、美里に真顔で言われてしまって出鼻を挫かれてしまったらしい。

 軽くヒくような演技なんか添えてみたりして、そこまで傷ついてはいなさそうなあたり、この人のメンタルは強い。


「いやこれ、マジでね。今日この後、ウチのクラスの打ち上げがあんのよ」


「あ、なーるほど。じゃあ、おにょくんもいっしょだもんね。……チッ」


「え。ちょ、ん? 今なんか舌打ちっぽいのが聞こえた気がしたんだけど」


「バレた?」


「そりゃバレるわ。っていうか、バレるようにやったべ」


「うん」


「何その開き直り最強説」


 最近このふたりがいっしょになると、必ずと言っていいくらいに漫才のような会話が繰り広げられるようになってきていた。

 小野塚くんがそういうノリの人なのは同じクラスということもあって知っていたけれど、美里までそういうタイプの応酬が出来るとは思っていなかった。

 もしかすると、あたしがもう少し反応が早かったりすれば、そういう会話ができたのかもしれない。


「ちなみに、そっちはいつ?」


「7日」


「……ということは、金曜日挟むんだね」


「ギリギリ空いてたのがそこだったらしいわ」


 鉄は熱いうちに打て、という話とは違うかもしれないけれど、こういうイベントごとの打ち上げはあんまり日を空けてやっても盛り上がりに欠けてしまうような気がする。


「ってことは、ウチはラッキーな方か」


「ホントそうだよ。よく取れたね」


 後から聞いた話、星宮(ほしのみや)中央(ちゅうおう)駅近辺のゴールデンウイーク期間中は、飲食店が多いにもかかわらずどこのお店も予約が取りにくいことで有名らしい。

 後輩たちのクラスでは、中央駅周辺を諦めて少し遠いところにあるお店で妥協した、なんていう話も聞くくらいだ。


瑞希(みずき)がさ、何かそういうとこを知ってたらしくて」


「へー……。行動力すごっ」


 本当に、ね。そういうところは――。


「おっ? ウワサをすれば何とやら……」


 真横をスッと通り過ぎた影に、思考が遮られたようになる。

 何かに気付いた小野塚くんが音も無く走り出した。

 獲物を捕まえようとしているネコ科の動物みたいな動き方だった。


「瑞希っ!」


「うわっ!?」


 そこにいたのは小野塚くんの言うとおり、渦中の人だった。


 ただ、そこから先は少し想定外だった。

 真後ろから小野塚くんに抱きつかれたみずきくんは、即座に小野塚くんの片腕を取りつつ前傾姿勢になり、そのまま斜め前あたりに転がした。

 限りなく柔道に近いような動きだった。

 ――そういえば、男子の体育には柔道があったっけ。授業でやったのだろうか。

 それにしても、鮮やかだった。


「……いきなり払い腰は無くねえ?」


「いきなり抱きつくのも無くねえ?」


「…………返す言葉もございません」


 幾分かそっと投げられたとは言え、三和土(たたき)の上に仰向けのままで不満げな声を出すみずきくんに答える小野塚くんは、明らかに取り押さえられた犯人だった。


「そりゃあいきなり背後から抱きつかれたら、痴漢か何かだと思うでしょ」


 現場に近付きながら美里が言う。

 しっかりとスカートの裾を押さえているあたりは、あたしも正しいと思った。


「しかもおにょくんだし」


「それは言い過ぎだろ」


 小野塚くんは「やれやれ」とか呟きつつ、埃を払って立ち上がった。


「やれやれ、じゃねえよ。こっちのセリフだ。いきなり何かと思ったぞ? 心臓に悪い」


「おや。意外と小心者なんですねえ、瑞希くんってば」


「……ちびT、夜道は気を付けろ?」


「……ははは、いやだな。じょーだんにきまってるじゃないですか、あはは」


 下足場の上と下、さらには身長差の都合で、みずきくんにかなり上から見下ろされた状態になっている小野塚くんは、肉食獣ににらまれて足が竦んでいる小型動物になっていた。

 先ほどまでのネコ科っぽさはどこかへ行ってしまったらしい。


「聞いたよー、そっちのクラス、今から打ち上げなんでしょ?」


「耳が早いなぁ……って思ったけど、水素よりも軽そうな口の持ち主がいたっけな」


 自分の靴を下駄箱から取り出している小野塚くんは、やたらと上手に口笛を吹いている。

 当事者意識はあるらしかった。


「中央駅の近くって聞いたけど」


「そう。そこからちょっと外れたところにあるんだよね」


 さくらフェスの日の夜、みずきくんからクラス全員に今日の打ち上げ会場のデータが送信されていた。

 見る人が見ればわかりやすい地図なんだろうとは思う。

 そういうものに疎い人にでも理解しやすいような地図を選んでくれたんだ、ということも感じている。

 ただ、苦手なモノはやっぱり苦手だということだけれど。


 そんなことを思っていると、美里があたしの背後に回って、そのままあたしの背中を彼の方に押し出した。

 不意に距離が縮まって、身体が硬くなってしまう。


「だったらさぁ、この子を……」


「あ、うん。大丈夫、それは」


 苦笑い気味に、あたしを通り越して美里にそう返すみずきくん。


「あれ? もしかして知ってた?」


「んー、まぁ、一応打ち上げの幹事のひとりだから、その辺はケアしなきゃでしょ。そもそも大輔が『いっしょに行くべ』って言ってたしね」


「ほら! さすが瑞希はわかってる」


「……」


「……ヤだぁ、瑞希の視線が冷たい」


「ま、それは冗談として……」


 みずきくんに無言で微笑まれた小野塚くんが頬を引きつらせたが、ウソだってば、というようにみずきくんは手でジェスチャーをして見せた。


「一応、月雁(つきかり)駅と中央駅で待ってるメンバーを拾ってから行く予定なんだよね」


「ガイドさんみたいだね、瑞希くん」


「……ははは」


 何か変なことを思い出してしまったのか、今度はみずきくんが乾いた笑い声を上げた。

 ――そこまでおかしなことは言われていないと思うけれど。


 いつだって、こういうときのみずきくんは頼りになる。

 思い返せば、初めて吹奏楽部の人たちといっしょに遊びに行ったときも、その待ち合わせ場所やその後で回った場所に行くときは彼の道案内があった。

 その前も、そうだった。

 いつだって、そうだった。


「まぁ、そういうことだから大丈夫だよ」


 気を取り直すように何度か咳払いをして、みずきくんが笑う。


「手でも何でも引っ張っていくからさ」


「……ぁ」


 不意に声が漏れてしまう。


「ん? どしたの聖歌(せいか)?」


「……ううん、何でもない」


 そう、何でもない。


 ――ただちょっとだけ、懐かしい気分になっただけだ。





           ○





 本当に小さい頃の話。


 ふたりで、みずきくんのお母さんの仕事場に遊びに行ったときの話。


 初めて来た、しかもものすごく大きな音楽ホール。

 いろんな楽器や機械があって、何だかスゴいところなんだ、ということだけは理解していたあたしは、みずきくんから離れられなかった。


 その理由は、本当に簡単。

 見たこともないようなものがたくさん並んでいる来たことの無い場所で、誰かと離れるなんて、そんなこと出来るはずがなかったから。


 きっと家族でデパートに行ったときに迷子になったことが、小さいあたしの――今でもそこまで大きくはないけれど――トラウマになっているせいだ。


『せいか! あっちのほうにもいこう!』


 彼にとっては、そんな場所も勝手知ったる庭みたいなモノだったのだろう。

 しばらく声を交わしていないうちにとっても大人っぽくなった今の彼とは違って、冒険大好きな男の子っぽさがあった彼は、大人たちの笑い声を背に受けながら元気にそう言ってきた。


 そんなトラウマがあるなんてことは幼なじみにも恥ずかしくて言えなかったあたしは、それでも尻込みをしてしまった。

「え」とか「う」とか、よくわからない声になりきらない音を返したようなような気はしているけれど、自分の足が全然動かなかったのだけは何故か今でも覚えていた。


『どした?』


『ぇ、っと』


 もごもごとしていたあたしを見て、当然納得できるわけが無かった当時のみずきくんは――。


『だいじょーぶだって! 手でもなんでもひっぱってつれてくから!』


 ――そう言ってあたしの手を力一杯に引っ張って、いろんなところを見せてくれた、その時と同じ様な言葉だった。


 些細なことかもしれない。

 どうしてそんなことを覚えているんだ、と思うかも知れない。


 だけれど、つまりは、あたしにとってその言葉は、それくらいに大きかった。

 ただ、それだけのことだった。


 ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


 この章も残り5話!

 いよいよ「昔話」の始まりです。


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