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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
4. スミレ

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4-14. もうひとつの戦い


「っしゃああ!」


「来たぁ!!」


 大歓声の2年3組。

 意気消沈の3年3組。

 綱の中央に付けられているリボンを境にして、その様子は正反対だ。

 下剋上というのは少し違うかもしれないが、やっぱり上級学年に勝つというのは同学年や下級生に勝つのとはまた違う。

 斜め前で一生懸命に綱を引いていた聖歌(せいか)も、傍で声を枯らしていた亜紀子(あきこ)も、あまり見たことのないテンションで喜んでいる。


「やったな!」


「おおっ!」


 もちろんボクも、巻いていた綱を解き終わった本山(もとやま)くんとがっつりハイタッチを交わした。

 ――うん、ちょっと力強いよ。


「え? あ、ハイ。わかりました……?」


「ん? どうした?」


 大会プログラムを見ていたすみれが素っ頓狂な声を出していた。

 そちらを見れば、大会運営の腕章を付けた生徒がすみれに何かを伝えに来ていたようで、彼女はその運営さんに向かって軽く会釈をしていたところだった。


「これさぁ。『ベスト8以降、もう1度くじ引き』って、去年もそうだったっけ?」


「あー、それ今年から導入されたとか何とか言っていたような……」


 トーナメントの途中で組み合わせ抽選をもう1度行うという方式は、そこそこいろんなところで採用されていたりする。

 我が校もその流れに乗っかったということだろう。


「これってもう決まってたりするの?」


 亜紀子が覗き込んでくる。


「トーナメント表見に行く?」


「あ、俺も行く!」


 傍で話を聞いていた大輔(だいすけ)を含めた乗り気なクラスメイトを引き連れて、大会運営本部――というには会議用長机のパイプ椅子が体育館ステージに置かれているだけだが――に向かってみる。

 その手前の方、ステージ下からでもよく見えるところに新しいトーナメント表が書かれている。


 どうやら先に試合を終えたところから順に番号札を引いていき、それぞれの枠にクラス名を書いていくというスタイルになっているらしい。

 内のトーナメントの山は、ベスト8を決める最後の試合。

 したがって、もう2年3組の入るところは決まっているということらしい――。


 ――のだが。


「げっ!?」


「……うわぁ」


「マァジでぇすかぁ……」


 残念なことに次の対戦相手は、3年9組だった。

 一様にそのまま絶句する2年3組一同。


 だけど、そこですみれは折れなかった。


「ええい! みんながんばろ! 当たって砕ける!!」


「……砕ける宣言じゃダメでしょ」


 ――やっぱり、折れていたかもしれない。





            ○





「あれ? ミズキじゃん」


「おっす」


「負けたの?」


「負けたから来た」


「どこに」


「……君らと同じクラス」


「……ご愁傷様」


「ありがとよ」


 ペットボトルがぶつかり合う気の抜けた音が、桜の木の下に響いた。





            ○






「ベスト8かぁ……」


「運悪すぎだったよなぁ」


「っていうか、くじ引かない内に決まってたんだから、運とかいう以前の問題じゃね?」


「たしかに」


 ベスト8の商品であるうまい棒を食べつつ始まったホームルームは、朝のモノとあまり変わらないレベルであっさりと終了。

 今日はそのまま一斉下校で、部活動もすべてお休み。

 つまり残りは自由時間ということになっていた。


 とはいえ、その一斉下校時刻として指定されている時間にはまだまだ余裕がある。

 ウチのクラスは「もう少し残ってて」というすみれの指示に従って、全員がまだ教室内に居た。


 そんなすみれは今、自分の席でスマホとにらめっこをしているところだった。


「見つかりそう?」


「んー……」


 芳しくない声が返ってきた。


 今すみれが探しているのは、さくらフェスの打ち上げ会場。

 先ほどのホームルーム中に取った即席アンケートの結果、ほぼ満場一致で「やっぱ肉だべさ」ということになったので、それに見合うお店を定番グルメサイトで検索しているところだった。


「やっぱり連休だから?」


「そーゆーこと。……んー」


 悩ましげな吐息。

 夕陽でオレンジ色に染まりつつある彼女の気怠そうな横顔は、ちょっと遠目から眺めている分にはなかなかに色っぽさもある。


「あー、いいのあんまりなーいっ!」


 ぽーい、とスマホを放り投げるような素振りを見せるすみれ。

 そういうところが、花村(はなむら)すみれの花村すみれたる所以(ゆえん)かもしれない。


「みずきくーん、何かイイアイディアなーい?」


「……そう言われてもなぁ。ちょっと待って」


 言いながら自分もスマホを取り出す。

 すみれがチェックしているサイトと被っても意味が無いので、今見ているサイトを確認させてもらって、別の口コミ系サイトを見始める。

 とはいえ、最大手のサイトを見ていたすみれがあまり良い結果を出せていないわけで、だったらボクが調べたところでそれより良い結論を出せるとはあまり思えなかった。


「うーん……」


「なさげ?」


「そーだねー……」


 亜紀子がスマホを遠慮がちに覗き込んできたので、軽く彼女の方に画面を傾ける。

 こういうところでの評価点はあまり気にならないのだが、如何せん値段がちょっと厳しい雰囲気だった。


「俺にも見せて」


「やだ」


 大輔がすみれに訊くが、案の定手の甲に平手を喰らうようにあしらわれる。

 下唇をぐっと出して不満を表しているが、子どもが駄々をこねているようにしか見えなかった。


「おー、お前らもこっち来いよ」


「ん? ……おお」


 大輔が呼び寄せたのは祐樹(ゆうき)と聖歌。

 祐樹の声に力がこもっていないように聞こえたのは、綱引きで疲れたからだったのだろうか。

 とりあえず、そういうことだと思っておくことにする。


「……店探し?」


「……うん。そうなんだけど……ね」


「なかなか無いみたいでさ」


 画面に集中しているすみれとボクに代わって、亜紀子と大輔が答えた。

 画面のスクロールを止めて横目で眺めたが、ぎこちないながらもしっかりと祐樹を見て答えていた亜紀子は強い。素直にそう思った。


「どこも予約埋まってたり、値段が連休価格だったりでキツいのなんのって……」


「あーそっか、なるほど……」


 聖歌が納得したように眉を寄せた。

 妙に近いところから声が聞こえると思えば、聖歌はすみれのすぐ横に立っていた。大輔に祐樹を取られたからだろうか。

 よくわからない。


「あーあ、去年のウチからこういう雑務やっときゃよかった」


「こういうのってスタートダッシュ大事なんだよなぁ」


「だよねー……、失敗。どーせ打ち上げやるの解ってたのに、なんで予約とか調べるのか忘れてたんだ

ろ」


 そういえば去年のクラスでは、いつだって神流(かんな)が早々に打ち上げの場所やら段取りやらを済ませていた――――。


「まぁ、それは学祭の打ち上げのときにしっかりやっておけば……?」


 ――――そういえば。


「……ちょっと待てよ」


「ん? どした?」


 大輔が訊いてきた。


「いや、うん。ひとつアイディアが」


「良いの載ってた?」


「いや、載ってない」


「えー」


 不満げなすみれをあしらう。


「『載ってないところ』にすればイイんだよ」


 ネットブラウザを止め、メッセージアプリを開いた。





            ○





「はい、40名です。はい。……あ、大丈夫ですか! え? あぁ、はいそうです。いえいえ、こちらこそありがとうございますー。無理を言ってしまって……」


 何となく気恥ずかしくて、窓の方を向いて電話をかけている。

 それでも背中にはクラスメイトほぼ全員の視線がガンガン刺さっているのがわかった。


「はい、それでは5月4日の18時半から、よろしくお願い致しますー。失礼致しますー」


 ――ピッ、という無機質な音。


「……ふぅ」


 ――ため息という有機的な音。


 そして振り向けば、案の定クラスメイトの視線が刺さってきた。


「焼き肉、予約出来ましたー」


「うおおおおお!」


「よくやったー!」


「さすがー!」


 大歓声。

 ともすれば、3年3組に綱引きで勝ったときくらいの歓声だった。

 恥ずかしい。


「詳しい場所とかは今日の夜にでもクラスのグループに回すから、ちょっと待っててね」


 小学生のような理想的な返事が怒濤のようにやってきた。

 このクラスもやっぱりノリのイイ奴らが多かった。


「ちなみに、どこなの? サイトに載ってないところって、そんな通好みなとこ知ってるの?」


 すみれが興味深そうに訊いてきた。


「去年の7組だったメンツは知ってると思うよ」


「え? どこ? ……あ、もしかして」


 亜紀子は案の定察してくれた。


「冬季体育祭の打ち上げで行った、神流の親戚がやってるっていうところなんだよ」


「へー……、それ知らなかったわ。初耳学」


 お店の名前は覚えていたのだがどうやっても検索結果に出てこず、変だなと思っていたけれど、何のことは無かった。


「ま、団体系の情報はグルメサイトに載せてないってことで、実は電話予約なら受けてるって話なんだよね。だからある意味では、知る人ぞ知るってわけ」


「なるほどね。……ってことなので、後は自由でーす! みんなありがとねー! おつかれさまー!」


 すみれの元気な声に、ちょっと疲れ気味だけれどそれでもまだまだ大丈夫そうな声が返ってきて、それぞれがそれぞれの帰路に就き始めた。

 これでようやくさくらフェスも終了――って、一応『無事に帰り着くまでがフェス』か。

 そういうことにしておこう。


 ふと肩を叩かれる感触に気付いてそちらを向けば、大輔がにっこりと笑っていた。


「5日の18時半までに店集合ってことなら、俺たちは部活から直行できるか?」


「俺、たち?」


「俺、たち」


 自分とボクとを交互に指差した。


「……そうか」


「え、何! 不満!?」


「そういう意味じゃねえけどもさ」


 それはつまり――。


「ああ、焼き肉の匂いの問題か? 制服はあとで帰るときにどっかで着替えりゃいいだろ」


「いや、そういう意味で言ったわけでもないけどさ」


 それは、たしかにそうかもしれないけれど。





 ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


 こういうときって発想が大事。

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