4-11. フェスの開幕と、思わぬ遭遇
4月と5月の境目と言えば、大型連休。
ボクらのような部活に勤しむ学生にとっては大した意味を成さない大型連休。
起きている大半の時間を部活に費やすため、正直なことを言うのならば「連『休』」ではなく「連『勤』」のようなモノになるのだが――まぁ、いい。
ここはヨシとしておこう。
そうでもしないとやってられない。
何だかんだと言いつつも、脱走計画を企ててしまいそうな気分になることが、無いわけでは無いのだ。
そんな連休の狭間。
5月2日。
国民の祝日と国民の祝日にちょっとだけ間隔を開けられて挟まれた平日。
そんな日に、いくら進学校の学生と言っても、しっかり勉学に励めるかと言えば――。
――そんなわけがない。
通学路の並木が桜色に色づいているようなところもある。
ここから北西の方に進んだところには桜並木で有名な河川敷もある。
きっと今頃は鮮やかに色づいた景色が広がっているはずだ。
そんな連休の狭間で、アタマを一瞬のうちに勉強モードに切り替えられる高校生がいるのなら、ぜひそのコツを教えて欲しかった。
もちろん、常時勉強モードだとかいうハイスペック少年少女によるご鞭撻は、全力で拒否させていただくつもりだ。
「……今年も派手だなぁ」
いつも通り――より今日はちょっと早いくらいの時間帯だろうか。
校門には去年見たよりもかなり派手派手しい装飾がされた立て看板があった。
毎年有志によるイラスト案が前年度内に生徒会に送られ、その中から投票で選ばれたデザインを美術部が責任を持って描き起こすスタイル。
今年はかなりアグレッシブに攻めた印象だ。
――『さくら祭』。
ようやく星宮の街にも桜前線が近付いてきた、そんなタイミングだ。祭の文字には「フェス」なんていうルビが振られている。
全国各地でロックフェスが流行り始めてからこの行事の読み方が慣用的に「さくらフェス」になっている、という話だったが、今年はとうとう明確にフリガナが振られるようになってしまったらしい。
現代っぽい感じがして、悪くはないと思うけれど。
そう。
今日は月雁高校における年度初めの行事である、さくらフェスの日。
とても華やかな名前だと思う。
連休の狭間にイイ感じの息抜きができる全校行事。
この界隈にも桜の色づきが広がってくるこの時期に、実にぴったりの名前の全校行事だ。
その実態が、まったく名前に追いついていないのだが。
――いや、違うか。
その実態が、その名前を完全にぶっちぎってしまっているのだが。
――きっとこっちの方が合っている気がする。
そんな戯言を脳裏で呟きながら、ボクは靴を履き替えて教室へと向かった。
「おはよう瑞希!」
「おわっ!?」
教室に入るなり威勢の良い挨拶が飛んできた。
それをまともに顔面で受け止めてしまい、挨拶が崩壊する。
あんまり出したことのないような声が口を突いて出てきた。
「おうおう、どーしたどーした。気が緩んでんじゃねーのかぁ?」
「いやいや大輔。朝一発目からそのテンションは、モロ受けさせられるとさすがにキツい」
ボクの中での彼の認識が「意外と早起きのできるヤツ」に変更されたとはいえ、この時間帯からここまでスイッチを入れられるタイプにまではなってない。
早急に脳内メモを書き換えつつ、目の前で小さく仁王立ちする小野塚大輔の姿を確認する。
「なぁ、大輔」
「なんだい!」
――うーわ、めんどくさい。
去年の1年2組もこんな感じだったのだろうか。
「お前、まさか家からジャージで来たわけじゃ……」
「当たり前じゃん!」
あ、ハイ。
そうですか。
そこまで自信満々に返されたら、ボクはそう言うしかない。
一応ウチの学校、基本的に制服登校なんだけどな。
脱ぎたて感たっぷりに机の上に丸められたジャージを見る限り、きっとその格好で来たんだろうなと予想は付くのだけれど。
どうして君はこの時間帯から、クラスTシャツにハーフパンツなのだろうか。
「っつーか、瑞希。クラTは?」
「そりゃ持ってきてるけどもさ」
「着て来るもんだろー。それが礼儀だろー」
「そういうマナー警察は、神妙にして縛に就け」
連休開始直前に学級に届けられたクラスTシャツは、予想以上の出来のよさ。
あんなごった煮みたいなアイディアをモノの見事にカタチにしてくれた美術部の斎藤さんは、親御さんがそういう仕事をしている人らしい。こういう人材が時々紛れ込んでいるから、月雁高校は面白いのだ。
本人曰く、『散々ダメ出しされて途中何度か放り投げそうになった』らしいが、本当によく耐えきってくれたと思う。
「あとは……、あれか。あの『教本』。あれは持ってるよな?」
「それはもちろん」
カバンから言われたモノを取り出す。
「そういう風に製本してくるあたりは瑞希らしいよなぁ」
「……そうかい」
「照れんな照れんな」
「うっせえやぃ」
紙の端っこあたりからボロボロになっていくのが嫌いなだけだ。
それ以外にはあまり深い意味なんてない。そんなことを思いながら取り出した冊子――『大綱引き(マル秘)バイブル』とかいう手作り感満載の資料を眺めた。
月雁高校、さくらフェス。
一応、陸上グラウンド傍に咲く桜の木の下には、生徒会主催のお花見スペースが設けられてはいたりするけれど。
その実態は、全学年・全クラス対抗の、優勝賞品であるいちご大福に柏餅、それと大いなる名誉をかけた、大綱引き大会なのだ。
○
ノックアウト方式のトーナメント表を含めた大まかなタイムテーブルは、既に生徒全員配布済み。
その辺りの手早さは抜かり無い。
本当に手短に済まされた朝のホームルームが終われば、ひとまず全校生徒が第1体育館に集められることになっていた。
いずれにしてもまずはトイレを済ませようと思い立ちつつ、そのお手洗いの帰り道、階段のところで亜紀子とすみれが何やら話をしている姿を目にした。
若干深刻そうに見えなくもない空気感。
あまり近付かない方がいいのだろうか、なんてことを考えつつ、かと言って無視するのもおかしな気がしてしまう。
距離感を計りあぐねるパターンだった。
「あ!」
だけど、そういう距離感とかいう概念をすべて吹き飛ばすのが、花村すみれという女の子だった。
完全に忘れていた。
この娘はこういう娘だった。
「みずきくん、ちょーど良いところに!」
「……うん?」
「委員長の仕事を副委員長に丸投げします!」
「お、おお」
思わず呆気に取られるが。
「あ、そういう話か」
「どういう話だと思ったのかなぁ?」
「いやいや、何も」
あまり巧くは無いが何とか誤魔化せたと思う。
話を聞くと、部活の顧問から相談――呼び出しではないということを強調していた――があったところに、運悪く学級全員に配布されるモノをまとめた預かったとのこと。
本当はボクとふたりでやるべきなのに、自分が一時離脱しなくてはいけなくて心苦しい、なんて義理堅いことも添えた。
「あ。そこに居る亜紀子は使ってあげていいからねー」
「……良いの?」
「うん、全然。だいじょぶ」
亜紀子がそういうなら、お言葉に甘えることにしよう。
「そういうことなら大丈夫だ、任せとけー」
「さんきゅー! んもう、さすがみずきくん! ラブ!」
すみれは投げキッスなんてしながら、颯爽と階段を飛び跳ねるように降りていった。
「じゃあ、とりあえず教室行く?」
「そうだね。教室で渡せる人には渡しておいた方が荷物も軽くなるだろうし」
段取りをさっさと決めて、わりと大きめの紙袋を持ち上げた。
――そのときだった。
「おー、ミズキー。どーした、早く行かない……と……」
先ほどのすみれにとって、ボクが運良くやってきたさっきの状況は『渡りに船』。
だったらボクにとってのこの状況は何と形容するべきなのだろうか。
袋を持ち上げたボクの目の前には、祐樹の姿があった。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
やっと、クロスし始めました。
ちなみにこの「さくらフェス」の中身、大綱引きにするか5色綱引きにするか迷ってました。
どうでもいいですけど。




