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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
4. スミレ

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4-V. チクリと胸を刺す後悔


 昼休みになってしばらく経った頃。

 お弁当ももう少しで完食といった頃合い。


御薗(みその)さーん」


「……? はーい」


 教室の後ろ側の席の男の子から呼ばれた。

 振り返ってドアの方を見ると、こちらに向かって美里(みり)が手を振っていた。


聖歌(せいか)ー!」


「美里? どしたの?」


「まだお弁当食べてた?」


「うん。あ、でも、もうすぐ終われるよ」


「そう? よかった」


 ほっとした様子で胸に手を当てた。


「何かあった?」


「部長からお呼びだしー……って、まぁそんなに大袈裟な話ではないんだけどね」


「そーなんだ」


 最近どこの部活も慌ただしいなぁ、なんて他人事みたいに思っていたけれど、とうとう我らが合唱部にもそのお鉢が回ってきたらしい。

 先生じゃなくて部長っていうあたりは、少し他とパターンが違う感じもしたけれど。


「っていうか聖歌、チャット見てなかったの?」


「え?」


 そういえば、今日は学校に着いてから見ていなかった。

 何だかいろいろとやることが溜まってしまったので、美里にもひとまず3組の教室に入ってもらうことにした。


「あー、あたし、スマホの充電し忘れてたんだ」


「あらら」


「そりゃあ、着信とかも気が付かないね」


 いつバッテリーが切れたのだろう。

 サイドのボタンを押してもタップをしても、うんともすんとも言ってくれなかった。


「美里、モバイルバッテリーとか持ってる?」


「ごめん、持ってないわ」


 あまり早く食べるのは得意なほうじゃないけれど、待たせるのも申し訳ない。

 気にしないで、と言いつつ、一気にお弁当を片付けることにした。


 なにやら「ふーん」とか「へー」とか言いつつ、教室の中を見渡していた美里だったが、突然勢いよく立ち上がった。


「あ、おにょくん!」


「んあ?」


 やる気の無い返事が、教室の前側から飛んできた。

 彼といっしょに教室に戻ってきたばかりだった小野塚(おのづか)くんは、半分寝ぼけたような顔をしている。どこかで昼寝でもしてきたのか、とか言われそうな雰囲気だった。

 きっと、お昼を食べたばかりで眠くなっているだけなんだろうけれど。


「行ってきた?」


「何が?」


「……ダメだこいつ」


 美里はハッキリと言い捨てた。

 だけど幸か不幸か、小野塚くんには届かなかった。


「部長のとこ」


「……あ、忘れてた」


「やっぱり」


「やっぱりってなんだよぅ」


 今度は聞こえたらしい。


「ま、いいや。私たちもこれから行くところだし、おにょくん、ちょっとお供して」


「……ん? 俺、執事か何か?」


「うーん、どっちかってーとぉ……、下僕的な?」


「そぉかぁ……。うーん、何か知らんけど、鼻の奥辺りがつーんと痛くなってきたぞ?」


「お寿司にワサビ付けすぎたの?」


「……俺、そろそろマジ泣きしていい?」


 隣に居る彼に泣きつく小野塚くん。


「諦めろ」


「だよなぁ」


 すげなく遇われたものの、案外あっさりと飲み込んだ。


 ふたりにはもう少しだけ待ってもらってしまったけれど、何とか完食。

 ちょっとだけ急ぎ目に1つ下の階へと移動する。

 部長のクラスは3年9組、ちょっと遠い。


「にしても、さっきはちょっとやりすぎちゃったねえ」


「俺としちゃあ、平松(ひらまつ)がそこまで切れ味鋭いモノを持ってるとは思ってなかったから」


「すみれちゃん並みだったね」


「……アイツのはもっとエグい。ゴリッゴリに精神抉ってくる」


 個人的にはあまり違いが無いように聞こえたけれど、当事者が言うのならそうなのだろう。


「おにょくんはリアクションが楽しいからねー」


「……ハハハ」


 乾いた笑い声だった。






 部長から渡されたのは今後の予定表だった。

 代々合唱部で受け継がれてきた秘伝のスープ的な指導書みたいなものがオマケで添えられていた。

 これにしたがって去年入部してきたあたしたちも教わっていたということらしい。


「知らなかったなぁ」


「ねー」


 小野塚くんが感慨深そうにページをめくる。

 いっしょになって中身を見てみるが、たしかにそういうことを言われたなぁ、なんて思い出せることがたくさんあった。


「他の部活にもこういうのあるのかな?」


「そういやさっき瑞希(みずき)が、何かプリント貰いに行くとかなんとか言ってたな」


「吹奏楽部? ……あー、あそこも確かにありそう」


 何ならもっとインパクトの大きそうなモノが代々伝わっていそうな予感もあった。


 そんなことを言いながら美里とは別れつつ自分の教室に戻ると、ちょうど今まで話題に上がっていたみずきくんの姿があった。

 教室のやや奥の方、同じく吹奏楽部に所属している松下(まつした)さんの席の近くで、彼はお昼のパンを食べている。

 近くには朝倉(あさくら)さんの姿もあったので、プリントをもらったついでに部活のことでも話しているのかと思いきや、その話にはすみれちゃんも加わっているのでちょっとよくわからなかった。


「地獄だなんて生ぬるい」


「……あれ? 早希(さき)さん?」


 松下さんの妙に殺伐とした言葉に、みずきくんが頬を引きつらせていた。

 一体何の話だろう。

 部活の話だとしたら、ずいぶん怖い話をしているようだった。


 あたしはひとまず備え付けのロッカーに今もらってきた資料類を一旦収納して、そのついでに次の授業のワークブックなどを取り出す。

 その間に彼らの話題はあっさりと次に進んでいた。


「やっぱ、あの子たちじゃない? ほら、みずきくんの後輩だったっていう」


 ――どうやら、新しく入ってきた子たちの話になっているらしい。

 松下さんが言うところの『みずきくんの後輩だったあの子たち』の顔が思い浮かぶ。


「どんな子? 男子? 男子? それとも男子?」


「女の子だよ。しかもね、3人ともカワイイの」


 すみれちゃんがものすごい食いつき方でものすごい訊き方をする。

 げんなりした顔をしたみずきくんを余所に、答えたのは朝倉さん。

 ――あの子たちのことで間違いなさそうだった。


「なんかさー、しかもさー。その3人とも、みずきくんを追っかけて月雁高校に来たらしいのー」


 ワークブックに手をかけたまま何故か止まってしまっていた自分の手を見つめる。


 ――やっぱり、そうだよね。


 そんなことを思ってみる。


 あの帰り道でチラッと見ただけでも予想はついていた。

 中学校の頃も何度か見かけた光景だったし、卒業式のときに彼に向かって『待っててくださいね!』と声をかけていた姿は何故だか今でも覚えていた。


「モテ男くんは大変ですねえ。目立つモンねえ」


 楽しそうな顔――というよりはゴシップを聞いてしたり顔と言った方が良さそうな雰囲気。

 そんな顔をしたすみれちゃんがみずきくんに水を向けると、一瞬だけ、みずきくんの目の奥が冷え切ったような気がした。


「……そういうんじゃないし、好きで目立ってるわけじゃねえよ」


 そんな瞳の色によく似ている冷え切った声が、あたしの頭の中に響いた。


 それからすぐにみずきくんはいつも通りの調子に戻ったし、すみれちゃんや他の子たちもとくに気にした様子も無かったけれど、あたしにはどうしてもダメだった。





 ――思い出すのは、小学校6年生のとき。


 お母さんの仕事柄、昔からいろいろな楽器に触れる機会が多かった彼が楽器に興味を持つのは、ある意味当然だったのかもしれない。

 興味を持つだけはなく、実際に触れた楽器を演奏することも好きだったし、得意でもあった。


 もちろん音楽の授業でもその『特技』は遺憾なく発揮された。

 リコーダーや鍵盤楽器はお手の物。

 学芸発表会――あたしたちが行っていた小学校ではそう言われていた――で楽器演奏があるときは、間違いなくアコーディオンとかピアノとか、そういう特殊な楽器の演奏を任されていた。


 そんなこともあって、「みずきくん(イコール)楽器が得意な子」だという認識は、学年全体が知っていることだった。

 ただ、トランペットとかサックスとか、およそ小学校では触れる機会が無いような楽器も演奏できるということを知っていたのは、あたしくらいだった。


 そう――。


 あの日。


 あたしが余計なことを言わなければ。


 きっと彼は、彼自身が意図しないような『目立ち方』をすることはなかったのに。



 ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


 やっとかよ、と言われそうですけども。

 ここに来て、『なぜ瑞希と聖歌が疎遠になってしまったのか』をゆっくりと語っていく流れになってきました。

 本当にね。

 本当に、些細なことの積み重ねで崩れている関係って、あると思うんです。

 それを緻密に描いて行けたら、と思っている次第です。

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