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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
3. 四月は風の旅人

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3-V. 交錯


 入学式のときに合唱部全体で斉唱する校歌は、まったく緊張しないというわけではないけれど、いくらかリラックスの度合いを強めにして歌うことができる。

 今日みたいに全校生徒の視線が思いっきり突き刺さってくる状態とは、比べものにはならない。

 部活紹介というコンクールの場とは全然違う空間が、ある意味余計に緊張感のようなモノを生んでしまう様な気がした。


「はぁ……」


「あれれ、聖歌(せいか)さんってばお疲れモードですか?」


 おどける様な口調で言ってきたのは、1年のときから仲良くしてくれている平松(ひらまつ)美里(みり)

 いっしょのクラスになれたらいいね、なんて言っていたけれど、残念なことに結局また別のクラス。

 8組ということで、教室もけっこう離れている。


「なんだか、ヘンに緊張しちゃって」


「へー、何か珍しい気がするや」


「そうかな」


 わりと緊張はする方だと思っているけれど、美里からはそう見えていないということなのだろうか。

 ポーカーフェイスが出来ているということ――


「あ、そっか。声は聞こえてても、聖歌の顔は見てないもんなー」


 ――ではないらしい。

 顔には出ていても声には出ていない、ということなら、それはそれで嬉しいことだった。

 でも、ガチガチな顔で歌っているのを見せられるのは、聴取者にとってはちょっと苦痛かもしれない。 得意な方では無いけれど、しっかりしていかないといけない。


「やーやー、どーもどーも、おふたりさん」


「ん?」


「あ、おつかれさま」


 小野塚(おのづか)くんがすすーっと近付いてきた。


「誰かと思ったらおにょくんか。……あー、そっか。同じクラスだったっけ?」


「そうなの」


「……私と変わって欲しいわぁ」


 湿度の高そうなじっとりとした視線を小野塚くんにぶつけながら美里は言う。


「クラス間の交換トレードとか、ないのかな」


「いやいや、それはムリだべ」


「そっかぁ……」


「……結構なマジトーンで、俺、結構困惑してるんだけど」


 大丈夫、それはあたしもだから。

 そこまでいっしょのクラスになりたいって思ってもらえるのは嬉しいけれど。


 担任の先生がどうとか、委員はどう決まったかとかを話しながら歩いていると、その流れですみれちゃんと亜紀子(あきこ)ちゃんが合流してきた。

 運悪く小野塚くんが委員決めのときの自分の扱いを――そこそこ話を盛った上で――しゃべっているときだったので、すみれちゃんの声が聞こえた瞬間、小野塚くんの怯えた声が廊下中に響き渡った。

 みんなの視線を受けたのは小野塚くんだったけれど、彼のすぐ隣に立っていたあたしもいっしょに見られている気がして恥ずかしかった。


 8組の教室のところで美里と別れてからは、とくに何事もなく、新しい自分たちの教室に入ることができた。


「話の盛りすぎはダメだよ?」


「……キヲツケマース」


「わかってないわ、絶対」


 似非外国人みたいな反応をする小野塚くん。

 彼も大概だった。






 しばらくして、体育会系の部員さんたちが続々と教室に戻ってくる。

 一部の生徒はきっちりユニフォーム姿になって部活動紹介をしていたので、その着替えたユニフォームだったり、説明に使った道具などを置きに行ったとかで戻ってくるのに少し時間がかかったという感じだろう。

 彼を含めた野球部の子たちも帰ってきている。

 野球部は誰が発案者かわからないけれど、コントのようなネタを披露していた。

 ――その出来については、あまり言わないでおいた方が良いのかも知れない。

 彼が自分から切り出さない限り、触れてあげないようにしようと思っていた。


 見つめすぎないくらいにしつつ、そちらの方に視線を移す。


 教壇の近くでは、そんな彼らと小野塚くんたちが楽しそうにしている。

 自己紹介もそこそこに、さっそく小野塚くんはイジられ役になっていた。

 去年同じクラスだった子もそうでない子も彼にネタ振りのようなことをしているが、きっちりと反応返している。

 そういうところはスゴいと、素直に思ったりはする。

 そのリアクションは若干ワンパターンだけれど、それでもスゴい。


 ちょっと前は、お互いに部活で忙しかったりすると、こういうちょっとした時間でも彼の方からこちらにやってきてくれることがしょっちゅうだった。


 いつ頃からか、過度にくっつくことも離れることも無くなったような気がしていた。

 とくに、そういうことがイヤだとか言ったことは無いけれど、ちょっと不安には思う。


「それにしても、やっぱ合唱部はスゴいなー」


「さすが、って感じだよね」


「そんな……。照れるって」


 いつでもストレートに言ってくれるすみれちゃん、彼女に同意してくれる亜紀子ちゃん。

 全国を目指している、と常々公言しながら活動しているのでそれ相応にプレッシャーのようなモノはあるけれど、実際にこういう声を聞くと少し安心する。


「滅多に聞ける機会ないけどさー。聞くとやっぱり『この人らやべえわ』って思うよねぇ」


 腕を組んでうんうんとひとり頷くすみれちゃん。


「……すみれ、そのリアクション、ちょっとオジサンっぽい」


「イイのっ!」


「……いいの?」


 あたしも内心思っていたりしたことを、亜紀子ちゃんが指摘する。

 けれど、すみれちゃんはその辺に頓着するタイプではなかった。


「すみれ、スタイルいいからどんなポーズでも様になるもんね」


「あら、嬉しいわ」


「付け焼き刃っぽいから、むしろそういう口調の方が似合わないまであるかもね」


「んー、否定できないけど、別に悔しくはないっ」


 ダブルスでペアを組んでいるふたり。

 こうして話をしている姿は初めて見たかもしれないけれど、やっぱり息が合っているように感じる。


 ただ、思っていたよりも亜紀子ちゃんの反応が良いことにも、少しびっくりした。

 あたしが言えたことじゃないけれど、活発そうなイメージよりもおとなしそうなイメージが先行するタイプだったので、その辺りは少し意外だった。


「おー! なになに? 普段それやってんの?」


「わ、すっげえ!」


 沸き立つ教壇の近く。

 小野塚くんを先頭にして、何人かの注目がそちらへと移って、あたしの心臓が少し跳ねる。


「んー? ……あ! え、何あれ!」


「え? え?」


 すみれちゃんもちょっとだけそちらの方を気にしたと思ったら、いきなり彼女に手首を掴まれた。

 がっちりと握るその手は、そんなに細い指から出るモノとは思えないくらいの力強さだった。


「ちょ、ちょっと、すみれ!」


 亜紀子ちゃんも同じように手首を掴まれている。

 すみれちゃんはあたしたちを引っ張って、教壇の方へと連れて行く。

 ふんわりと亜紀子ちゃんの柔らかい優しい香りがした。


 彼らに囲まれていたのは、みずきくん。

 手には楽器――オーボエ。

 新入生歓迎会のときにも吹いていたけれど、そのままこちらに戻ってきたらしい。

 オーボエのケースを抱えつつ、もう片方の手にはフルート。

 何故ふたつも楽器を持っているのかと思ったけれど、彼はその楽器を女子部員さんへと手渡した。

 朝倉(あさくら)さん――なぜか吹奏楽部の人たちには『和恵(かずえ)さん』と呼ばれている――はかなり疲れている顔つきだった。

 代わりに持っていてあげたのだろう。


「かっこいい! っていうか、なんかすっごいごちゃごちゃしてる! なにこれ!」


 すみれちゃんがテンション高く、みずきくんに言う。

 きっとほとんどの人が現物を初めて見る楽器だと思う。

 名前だって、フルートとかトランペットとかと比べれば、みずきくんには申し訳ないけれど、マイナーな方だ。


 ――そのはずだ。


 亜紀子ちゃんの反応が思ったより薄いのが、少し気になった。


「瑞希のコレは、何笛?」


 小野塚くんの大胆な質問に、みずきくんが噴き出しながら答える。


「オーボエ」


「へー」


「も少し興味持って?」


「持ってるってば」


 声の反応は薄いけれど、興味は間違いなく持ってもらえてるよ。


 なんてことを思っていると、彼の背後に音も無く忍び寄るふたりの陰。

 1年生のとき、よく彼といっしょに居た人たちだ。

 神流(かんな)ちゃんに、瑛里華(エリー)ちゃんだったっけ。

 どうしたのだろうかと思って何か訊こうかと思ったけれど、ふたりは人差し指を立てて「静かに」のポーズ。

 みんながキョトンとしたところで、ふたりは大きく息を吸って――。


「ミズキ!!」「ミズキ!!」


「うわ!?」


 真後ろから思い切り自分の名前を叫ばれて、勢いよく振り向く彼。

 その声に、他の吹奏楽部員さんもこちらにやってきた。


「早く行くよ!」


「おう、悪いなわざわざ」


 やっぱり来たか、みたいな顔をして返事をする。

 勝手知ったる仲、みたいな雰囲気だった。


「じゃあ、行ってくるわ」


「あとでちょっと聞かせてー!」


 すみれちゃんがみずきくんに手を振りつつ言った。


「……これ持って戻って来れるかなぁ」


 苦笑いをしながら出て行った彼が、なぜだかこちらの方を見つめていたような気がした。



 ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


 今回はちょっとだけ意味深に。

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