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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
3. 四月は風の旅人

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3-3. 眠気も忘れる教室


 ぼんやりする頭に冷水――と思ったけれど、直前で思いとどまっていつも通りの水温のシャワーを被る。

 いくら眠気を飛ばしたいからと言って、いくらか春になってきたとは言っても、朝イチバンに冷たい水なんて、絶対心臓に悪い。


 それでも、頭を洗っている最中でさえあくびが止まらない。

 そのたびにシャンプーの泡が口に入りそうになるし、何度か手が止まりそうになるし、ズタボロな朝だ。

 こんな調子で始業式を迎えることになるなんて、もう心配事しか無い。


 いつもより入念に確認して家を出る。

 電気の消し忘れ、暖房の消し忘れ、水の止め忘れ。

 そして何よりも、鍵のかけ忘れ。

 どれも無い――はずだ。あまり自分の行動に自信が持てないあたりが、ちょっと哀しい。


 こうなった理由は、どうしようもなく眠れなかったせいだ。

 一応記憶に残っている時計の表示時刻は、2時半。

 きっとその直後くらいには眠りに落ちたはずなのだが、起きたのは5時半。

 睡眠時間、まさかの3時間。

 寝坊しない方がいくらかマシかもしれないけれど、それにしてもあんまりな結末だ。


 いつもの睡眠時間の半分程度じゃ、あくびが止まらないのも致し方ない。

 せめて夢の中くらいはイイ思いをしたかったが、あいにく夢を見る頻度は低かった。

 家に居て二度寝をしてしまったら意味が無いので、必死に眠気をかみつぶしながら学校に向かうという手段を採ることにした。


 地下鉄の駅近くまでやってきたところで、コンビニが目に入ってくる。

 どう考えてもカフェイン的なモノが無いと厳しいので、ペットボトルで2本ほど、今日はちょっとだけ甘味もある系統のカフェラテを買ってみた。

 学校で買うとなると紙パックか缶が主流になるので、量を多めにかつ保管がしやすいコーヒー類はこういうタイミングで買っておかないといけない。


 地下鉄に揺られ、途中駅で乗り換えをし、もう一度揺られる。

 月雁(つきかり)駅で降りて10分も歩けば目的地。

 この生活が始まって早くも1年。

 だいぶ慣れてきたものだ。

 慣れすぎた結果、危うく去年まで使っていた1年生の靴箱があるエリアに行きそうになったが、それはご愛敬というモノだと思う。


 校舎3階にある2年3組の教室は、案の定まだ誰の姿も無い。

 黒板に貼られていた暫定的な席順――予想通り、出席番号順――をチェックして、その机の上に荷物を置く。

 廊下側の最後尾。

 どのタイミングでこの席割りを変えるかは解らないが、特段悪くはない場所だった。


「さて、と……」


 手持ち無沙汰。

 だけど座ったら最後、そのまま眠ってしまいそうだ。

 たしかに仮眠を取るのもいいかもしれないが、一度トイレに行っておくことにした。







 用事を終えたところで着信があった。吹奏楽部のグループ。

 今日の大まかな流れの再確認ということだった。


 今日は始業式。

 それが終われば部活。

 帰宅部さんは当然安全に帰宅するという活動があるので間違いでは無いはずだ。


 だけど、吹奏楽部だけはちょっと違う。

 部活動と言えば部活動だが、厳密に言えばちょっと違う。

 それは入学式を控えているからだ。


 月雁高校の入学式の参加者は、基本的には教員、新入生とその関係者のみだが、吹奏楽部と合唱部は例外。

 吹奏楽部は新入生の入場・退場時に演奏をし、合唱部は式の途中にある校歌斉唱の際にリード役を務めることになっていた。

 先生や先輩に言わせれば「他の部活より先んじて新入生にアピールできる最高の場」という話だ。

 他の部活は生徒玄関前で入学式が終わって帰宅するところではじめて新歓ができるが、こちらは入学式の真っ最中からできる。明らかなアドバンテージだった。


「しかしなぁ……」


 周りに人影が無いのを良いことに独り言。

 そして、足が重い。

 眠気のせいもあるけれど、戻る教室に広がっている可能性のある光景をネガティブに想像してしまったせいだ。


 だけど、決まったモノはしかたがない。

 何とかうまいことやっていく方法はできるだけ早く決めることにする。

 何度か頬を叩き、極力明るい顔を作ってから教室のドアを開けた。


「おお! 瑞希(みずき)!」


 引き戸の音に反応した、ボクの2つ前の席に座っていた男子がこちらを振り向いて、明らかにボクよりも明るい笑顔を見せてきた。


「朝から元気だな。えーっと、名前何だっけ? ……ちびTだっけ?」


「いや、初めて聞くわその呼び方!」


 返しは早い。

 ただもう少し面白い返しを期待していたのだが、充分だろう。

 小野塚(おのづか)大輔(だいすけ)がリアクション芸人風のジェスチャーも添えながら、軽く怒った。


「ああ、悪い悪い。『おにょでー』ね。そうそう、今思い出した」


「明らかに『おにょでー』って言おうとして途中で切り替えただろ、それ。あと、『しょーすけ』にしようか迷っただろ、それ」


「よくわかったな」


「アタマにそれが残ってないと『ちびてぃー』は出てこねえだろ」


 その通りだった。

 割と飛躍した思考回路だったと思ったが、これを理解してくるとは。

 ちょっとだけ大輔を見直す。

 ――見直す?

 何だか違う気もするが、細かいことだしどうでもいいや。


「みんなおはよー! 1年間よろしくー!」


 殊更(ことさら)に元気な声が飛び込んできた。

 セーラー服がある意味不釣り合いにも思えてくるモデル体型が鮮烈な印象を与える彼女は、大輔と並んで恐らくこのクラスの核弾頭のような存在になるはずだ。


「あ! みずきくんだー!」


「おはよー」


 仲條(なかじょう)亜紀子(あきこ)を伴った花村(はなむら)すみれは、自分の席にカバンを置くこともせず、まっすぐにこちらにやってきた。


「おはよ」


「うん、おはよ」


 何となくだけど、亜紀子の声にはハリが無いように感じる。

 覇気が無いとでも言うべきだろうか。

 ほんの少しの違和感。

 ボクの眠気からくる気のせいなのかもしれないけれど、ちょっとだけ気になる雰囲気ではあった。


「みずきくんが同じクラスでよかったー」


「あ、そう? こっちとしてはこの前のテニス部会に顔出ししておいてよかったなー、って思ってるけど」


「言われてみれば、たしかに」


「それだったら俺もかな」


 亜紀子が同意してくれる。

 立場的にはボクに似ていた大輔も同じだったらしい。


 ――のだが。


 何故だかキョロキョロと周囲を見回すすみれ。

 徐々に表情を曇らせる大輔。

 何だかいろいろと察してしまった。


「あれ? 居たの?」


「新学期も変わんねー!」


 勢いよく立ち上がる大輔。

 澄まし顔のすみれ。

 ははは、と苦笑いをする亜紀子とボク。

 いわゆる『アンタ小さくて見つからなかったわ』系コントだった。


「ま、とりあえず『ちびT』は採用だわ」


「しかも聞かれてたー!」


 ごめん大輔。

 それは全面的にボクが悪かった。

 むふふと笑うすみれを見つつ、心の中で大輔に合掌するしかなかった。

 なるほど、去年の1年2組はこういう感じだったのか、なんて思いながらふと黒板の方を見たときだった。


「……あ」


「あ」


 間が悪いのか、それとも逆に良いのか。

 やってきたのは御薗(みその)聖歌(せいか)

 同時にやってくるとも思っていた祐樹の姿は無かった


「せーかちゃーん! おっはよー!」


「はよーっす。また1年よろしくー」


 予想通りというか予定調和というか。

 真っ先に声をかけるのはすみれ。

 金魚のなんとやらのように大輔がそれに続いた。


「……おはよー」


 探るような雰囲気の亜紀子。


「お、おはよー」


 気圧されたような聖歌。

 これはきっとすみれと大輔のせいだろうけど。


 それでも、どうにもぴりついた様な空気を頬に感じてしまう。

 聖歌がそのまま窓際の自分の席へと向かい、すみれがそれについていくことで何事もなく終わったが、今は聖歌の何気ない行動に感謝するしかなかった。


 いきなりなんて、さすがにムリだ。


 だけど。


 少しずつ雪が融けていくように。


 そして、そこからまた新しい芽を吹かせるように。


 また新しい関係を作って行ければいいのかもしれない。


 ――そう考えるようにしないと、やっていけないような気がしてしまった。




 ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


 騒がしいクラスになりそうだ。

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