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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
2. 黄昏ロマンス

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2-19. 戦いの後、祭りの後



 目の前には無煙のロースター。

 そして、そこに置かれ始める肉たち。

 プレートから聞こえ始める美味しそうな音は、肉がボクたちの口に入るのを待っている声のように思える。

 ――あくまで、食べる側の傲慢さによってそう聞こえるだけなんだけども。


「はーい、焼き始めましたかー!?」


「おー!」「いぇーい!」


 いつでも威勢の良い神流(かんな)の声に反応して、それぞれのテーブルから元気な声が聞こえる。

 店内は既にかなりの賑わいで、どこのテーブルからも楽しそうな声がしていた。


「今日の体育祭の打ち上げと、男子バレーの準優勝祝勝会と、みんな2年生になってもよろしくねってことで……! かんぱーい!」


「乾杯っ!」


 ソフトドリンクのグラスをみんなで高らかに掲げて、何だかいろいろとごった煮になってしまった焼き肉パーティーが始まった。





 比較的おとなしくかつミディアム以上の焼き加減で食べるのを好む子が集まったこのテーブルは、他と比べれば幾分か落ち着いた雰囲気だった。

 体育会系の集まりは、さながら肉汁を垂らしながら貪り食う――なんて言ったらあまりにも印象が悪いような気がする。

 けれど、オブラートを引っぺがして言えばそんな感じだ。

 ギリギリのところで取り合いにならないのは、各自目の前に食べたいモノを置き、適宜野菜という名の鉄壁の防御を敷いているからだった。


「おいし~!」


「うっまい、これ!」


 どこからも美味しいの大合唱。

 斉唱かもしれない。


「肉月に『旨い』と書いて『脂』なんだよな」


「……突然どうした」


「それを実感していただけだ」


「なるほど」


 テンションが狂ったか、よくわからないトークを繰り広げているところもある。


「溶けちゃったみたい~。この肉、まぼろし~?」


「ん?」


「言ってみただけ」


「そうかい」


 斜め後方では、定番な食レポのような流れを展開したテーブルもあった。

 なぜオネエ口調なのかという部分は、きっとツッコんだら負けだと思う。


「ミズキ、案外食べてるねー」


「んー……、いや、ウマいから進むんだよね」


「でしょー?」


 隣に陣取る神流が、まるでこの店のオーナーのような口調で照れている。

 実際ここを手配したりと裏方としてしっかり動いてくれたのは神流だから、そういう風に喜ぶ資格はあるとは思うけれど。


「あ、これ焼けたよ」


「おっと、ありがとう」


「いえいえ」


 逆サイドに座る亜紀子(あきこ)は、自分の分よりも他の人にお肉を割り振ったりしている。

 今もまたちょうど良い感じのカルビをボクのお茶碗に投入してくれた。

 焼き肉のときは白米が欲しくなるタイプだった。


「食べてる?」


「食べてるよ。ありがとね」


 念のため訊いてみた。

 大丈夫だよ、とかそんなニュアンスのことを返されそうだとは思っていたが、案の定だった。

 もう少しエゴを出してもいいのに、とは思ったりする。

 ――あまり人のコトを言えない気もするが、それとこれとは別の話だ。


海江田(かいえだ)、ほんとにおつかれさん! ありがとうな!」


 そんなことを考えていたボクのところに、酒でも注いで回るようにやってきたのは宇野(うの)くんだった。

 アタマにネクタイでも巻いていれば完全に酔っ払いが絡み酒を飲みに来たような雰囲気だが、当然ながらシラフである。

 未成年による飲酒は法律で禁止されています。


「いやー。宇野コーチのおかげですよ」


「謙遜するなってば」


 その言葉を、そのまま宇野くんに返したかった。

 レシーブ、トスも含めた打ち方の巧い方法を、体育の授業よりも細かく教えてくれたおかげと言っても過言では無かった。


「……っていうか、よく見たらさすがだな」


「何が?」


「両手に花じゃん」


 サイドを固めた女子ふたりを指して言っているらしい。


「え。ちょっと、宇野くん。私も花扱い?」


「すまん、ちょっと語弊があったかもしれないな」


「……宇野くんの育ててた肉ってどこのテーブルにあるの?」


 神流が、顔の下半分だけで笑顔を作りながら、ゆっくりと立ち上がった。


「ごめんなさい、すみません。あなたも花です。……そうだ、うん。ひまわりだ。ひまわり。それも大きいヤツ」


 成長期男子、肉を奪われることはすなわち命を奪われることに同じ。

 宇野くんはひどく慌てふためきながらも、何とか神流に対して言い訳を重ね始めた。


「……あー、宇野くん?」


「何だ?」


「その例え、『小輪の向日葵』に変えた方がいいかもしれない」


「は? ……え? 何で?」


 宇野くんは見るからに困惑していた。

 いきなり何を言い出すんだコイツ、みたいな顔をしている。

 試合中は絶対に見せたらいけないレベルの混乱具合だった。


「大輪の向日葵の花言葉を検索するといいよ」


「花、言葉?」


 眉間に皺を刻みながら自分のスマホを取り出した宇野くんは、ささっと文字を入力したと思ったら間もなくしておなかを踏まれたような声を出した。


「海江田の言うとおり、高島(たかしま)のことは『小輪の向日葵』のようだ、と訂正させていただきます」


 やたらと畏まった言い方で謝罪をしたと思ったら、とりあえずボクを労いに来たのが当初の目的だったのだろうか、宇野くんはそのまま自分の居た席に帰っていった。


 まぁいいや、と椅子に深く腰掛けたところで横からの視線を感じた。 


「花言葉、詳しいの?」


 亜紀子が訊いてきた。


「いつだったかの自由研究でいろいろ調べたことがあって、それでたまたま覚えてた、ってだけだよ」


「なるほどぉ……」


 ああいう感じの調査学習で調べたことって、時々妙に何年経っても忘れないネタがある。

 花言葉はその典型例だった。

 ちなみに、大輪の向日葵の花言葉は『偽りの愛』とか、あまりポジティブなモノがない。


「ちなみに、ミズキ。小輪の向日葵とやらの花言葉って?」


「『高貴』とか」


「……ふーん」


 すっかりご満悦な神流さんだった。








 食べ飽きしない焼き肉は、危険だ。

 気が付いたら腹八分目どころか、危険水域ギリギリのところまで食べていた気がする。


 学生価格で、そこからさらに神流の知り合いだからということで割引をしてもらっての、食べ放題。


「これ、本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫だから、こうなってんでしょ?」


 当たり前のことを訊くなという口調で神流が答える。

 が、直ぐさま耳打ちをしてきた。


「後でチャットにも書くけど。もしここを気に入ってくれたら、今度は家族みんなで来てくださいね、って話」


「なぁるほど」


 でも、これはイイ宣伝だったと思う。


「出来たら今度、吹部の打ち上げでも来たいな」


「任された」


 神流は力強く自分の胸を叩きながら、また店内へと戻っていった。

 ホスト役である神流が伯母さんと話があるということもあり、ここで打ち上げは散会。

 あとはご自由にということになった。

 徒歩組、自転車組、地下鉄組、電車組、私鉄組。

 こうしてみると、いろんなところから通ってきているんだな、と改めて感じた。


 地下鉄組で何となくまとまりながら帰路につく。

 その中でも乗る列車のだいたいの方向で、また小さなグループになっていく。

 ボクと同じ集団には玲音(れお)や亜紀子もいた。


 とはいえ、会話は少ない。

 話し疲れたか。

 食べ疲れたか。

 おなかがいっぱいすぎるのか。

 会話なんか要らないんだ、みたいなワイルドさ溢れる雰囲気か。

 それとも、何か別のセンチメンタルな理由があるのか。


 それはきっと、みんなそれぞれで違うのだろうけれど、ボクはどれかを選べと言われれば、いちばん最後に出したモノかもしれなかった。


 これが、このクラスでの最後の行事か。

 修了式が終われば、このクラスも解散か。


 そう思うと、やっぱりちょっとさみしさが出てきてしまう。


 それは、この体育祭が楽しかったからこそ、こういう風に思えているのかもしれなかった。


 ホームの位置関係の都合上、先に家へと向かう列車に乗っていく亜紀子と玲音をホームから見送る。

 ドアが閉まる直前に見たふたりは――とくに亜紀子は、晴れやかな笑顔だった。

 とても楽しそうだった。


 そんな笑顔を見られたことを、嬉しく思っている自分がここに居る。


 彼女にとって楽しく思えることがあったのなら。


 そういうモノがひとつでも増えてくれたのなら。


 それはとても嬉しいことだった。





ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


うまい肉、食いたい。

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