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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
2. 黄昏ロマンス

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2-17. 無回転の悪魔


 ひとつ、鋭く息を吐いてボールを見つめる。

 せっかくなので、宇野(うの)くんの真似をしてみよう。

 軽くバウンドさせたボールに、スナップを利かせて一撃。

 思った以上にいい音がなった。

 2度、3度と繰り返して、ちょうど良いタイミングでホイッスルが鳴らされた。

 ちょっとは出来る人っぽい動きを再現できただろうか。

 こういう(こな)れた動作で相手がちょっとでも警戒して、そのまま緊張してくれると助かるのだが。


 軽くボールを跳ね上げ、少し左に身体を傾けつつ、ボールに対して腕を押し込むように当てる。


 ボールの速度は、宇野くんや玲音と比べれば遅い。

 それは間違いない。

 ただ、人並みよりはやや速いくらいだとは思う。


 コートを分けるネットを、ボール3つくらい上で越えていく。

 前衛のバレー部員ではない子はそのままアウトになると思っているのか、ボールを見送ろうとしているようだったが、バレー部員の方は違った。

 さすが、察しているということなのかもしれない。


 サーブを打った本人にはよくわかる。

 前衛に立つ宇野くんからも、きっとよく見えている。


 ネットを越えた瞬間に、ボールの軌道がぐにゃりと歪んだ。


 ボールはボクから見て左側にスライドするように曲がって、その直後に体育館の床に、選手と選手の間を狙い澄ましたように落ちた。


 ――もちろん、そんなところを狙い撃てる芸当なんか持っていない。

 あれは、完全にボールのおかげだった。


「はい、瑞希(みずき)ナイスー」


「さすが」


 くるりとこちらを振り向いた玲音(れお)と宇野くんが、軽い口調で褒めてくれる。

 見慣れすぎた光景で、今更驚くこともないということなのだろう。

 小さくガッツポーズをして応えておくことにした。


 でも、さすがに2組側のコートは、そうならなかった。

 バレー部員の子が、とても面白い反応をしていた。

 何か悪いモノでも見たような――差し詰め、体育館倉庫で幽霊の類いを見てしまったような顔をしている。

 それもそうだ。

 運動部所属でもない素人が、なんでそんなことを出来ているんだ、という話。

 でも、これは現実。

 ボクのサービスエースで無事に1点を追加することができた。


 続いて2球目。

 同じように『なんかデキるヤツ風のモーション』をしてから、右腕を振り抜く。

 今度は腕を振り切らずに、少し力を残すような感じで打ってみた。


 打った直後からすでにふらつくような軌道だったボールは、そのままゆらゆらと後衛真ん中の選手の手元に吸い込まれ――――なかった。


「うわ!」


 思わず大声を上げる後衛の真ん中の子。

 何が起きたかは理解できているらしいが、どうしてそうなったのかを理解はできていなさそうだ。


 これも、打った本人からはよく見える。

 ゆったりとレシーブ動作に入った彼の腕には、ボールは一応当たっていた。

 でも、当たり場所があまりにも悪かった。

 腕の近いところでさらにブレたらしく、彼は右腕の外側でボールを受けてしまった。

 もちろんそんなところでまともにレシーブなんかできるわけがない。

 無情にも、ボールは隣を守る選手の足に直撃した。


「はい、おみごとー」


「もういっぽーん」


 淡々としたテンションでプレイしているのを察した玲音と宇野くんが、ボクに合わせてさらに淡々とした調子で褒めてくれた。

 うまく空気を読める奴らだった。どんなのをやってくるかわからないような不気味な感じを表現する目的なのだが、思ったより効果を発揮しているようだった。


 こちら側の応援の隙間をかきわけるようにして、遠くの方から「あいつ、吹奏楽部だろ?」みたいな声が聞こえてきた。

 やはりそうだったか、と思う。

 同時にしてやったり感を覚えたりなんかする。

 確かに文化系畑の人間ではあるけれど、そのあたり、あまりなめてかからない方が良い。

 吹奏楽部って、案外体育会系なのだよ。


「どんどんいっちゃえー!」


 しかし、元気な応援だ。

 チーム全体がノってきている感じがよく伝わってきた。

 このまま相手に何もさせないまま飲み込んでしまうことだってできるかもしれない。


 ――でも、気は抜くな。


 一瞬の油断が命取りだ。

 だって、これはトーナメント。

 負けたら終わり。

 賽の河原の石積みのようとまでは言わないけれど、積み上げてきたモノが一瞬で壊れるのがノックアウト方式の怖いところだ。


 より一層集中をして、3回目のサーブを打つ。

 今度は1球目と同じように腕を振り抜いてみた。

 が、振り抜き方を少しだけ変えて、ボールに当てる部分をずらしてみた。


 スピード的には1球目と2球目の間くらい。

 でも、軌道がまた全然違った。

 今度はボクから見て右側に急激に滑り落ちるように曲がって、前衛と後衛の中間点くらいに落ちたようだ。

 誰が取りに行くべきかの判断を、落下点近辺に立つ4人全員が出来なかった。

 完全に『お見合い』状態だった。

 性格の悪い言い方になるかもしれないが、愕然とした表情が実に痛快だった。


「ぃよしっ」


 ちょっと気分が良くなってきて、思わず小さく声を出す。


「ナイスミズキー!」


「スゴいスゴい!!」


 コートサイドからは神流(かんな)亜紀子(あきこ)が。


「どんどんやっちゃえー」


「いいよいいよー!」


 コート内からは、もはやボールを受ける格好も取らなくなった玲音と宇野くんが。

 もちろん他のメンバーも。


 みんなが、いい顔をしてこちらを見ていた。

 キラキラしている、っていう表現が正しそうだ。

 それくらいの、イイ顔だった。


 さすがに、クールぶってプレイするのも辛くなってきた。


 相手コートから返されてきたボールを受け取りながら。


「行くぞ!」


 何もかもを吹っ切るくらいに、大きく声を張り上げた。







「完っ、勝っ!」


 両チームでネット越しの握手を交わして応援団のところに辿り着くなり、宇野くんが勝鬨を上げた。

 それに応えるように全員が、それぞれ自分なりの歓喜のガッツポーズ。

 まるで優勝を決めたようなテンションだった。

 とはいえ、初戦に勝ったときも同じような喜びようだったので今更かもしれない。


 1年2組との試合は、初戦以上にワンサイドゲームになってしまった。

 最終スコアは25対12と、ほぼダブルスコア。

 実力差だけで測ればこんな大量得点差にはならなかったのだろうが、如何せんボクらのクラスのサーブが尽くイイところに飛んでいき、あちらのサーブが尽くネットに引っかかったのは大きかった。

 相手チーム全員の動きが、じわじわと悪くなっていく試合の流れに合わせて明らかに硬くなっていったのが、素人の目からもよくわかってしまった。

 試合が後半戦に入ってムードが完全にお葬式になっていったあたりで、だんだんとかわいそうになってきたが、我がゲームキャプテンの宇野くんはここで手を抜くような人じゃない。

 最後の最後まで冷静に的確に、相手の嫌がるところへサーブとスパイクを突き刺し続けた。


 この試合では、ボクも少し色気を出してみた。

 ――いや、別にわざと筋肉を見せたとか、そういう意味合いじゃない。

 第一、見せるタイプの筋肉なら玲音の方がスゴい。

 典型的細マッチョな体躯は、体育の授業のたびにクラスメイトから羨望の眼差しを浴びている。


 話が逸れた。


 何のことはない。

 得点差が開く少し前に、ジャンピングサーブとクイック攻撃をやってみた、と言う話だ。

 タイミングを逃して、しかも失敗なんてしようモノなら『舐めプレイ』とか言われて強烈に炎上するタイプのヤツだった。


 ジャンプサーブは大成功。

 今までに無い速度で、今までに自分でも見たことのない落ち方でコートに刺さった。

 相手のチームは誰ひとりとして全く動けなかったし、その後明らかに全員の動きが悪くなったきっかけになったと言えるワンプレイだった。


 クイック攻撃は、さらにうまく行ったワンプレイ。

 相手のサーブをボクがレシーブをして、宇野くんがトスする動きに合わせてボクと玲音がジャンプ。

 宇野くんから遠いサイドにポジションを取っていたボクがそのままスパイクを打ち込んだ、という流れ。

 最高に気持ちよすぎて玲音と宇野くんの3人で思わずコートを走り回ってしまった。


「もうこのまま、優勝でしょ!」


「当然っ!」


 神流の喜びの声に、自信満々に返す宇野くん。


 最初はまさかと思っていたけれど、本当にそれを狙えるような気がしてきた。






ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


(たぶん)かっこいい瑞希篇、終了!

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