2-16. なんだかみんなハイスペック
ステージ側のコートサイドは予想以上に人でごった返している。
今から試合をするウチのクラスの1年7組と、その対戦相手である1年2組は全員集合。
それ以外にも何故か他クラスや2年生の姿もあった。
出入り口側のコートはちょうど試合の切れ目になっているので、そちら側に用があるわけでは無さそうなのが、また少し不安になる。
「くぉらー! いけよー!」
妙に血気盛んな、何だか罵声のような応援がすぐ横から聞こえてきて、一瞬だけその声の主を見てすぐに視線を逸らす。
「無視すんなー!」
声の主――言わずもがなかもしれないが、神流である――は、ボクの視線を察知して、明らかにボクに向けて怒鳴ってきた。
放っておいたら余計にうるさくなるだろう。
だったら今度はしっかりと見てやろうと思った。
「よそ見すんなー!」
――いや、ふざけんなお前。
どれだけ応援されたとしても、少なくとも神流にだけは絶対に無反応を貫くことをこっそりと決意しながら、バレーチーム全員でトス練習を始めることにした。
「おっけー、しゅーごー」
しばらくしてから、少しだけぬるいテンションで、宇野くんが集合をかけた。
練習はハードにこなしてきたものの、こういうときは何となくふんわりとした雰囲気で進めていく方針らしい。
変に圧力のようなモノをかけてしまうと身体が硬くなってしまってダメだという発想だった。
「対戦相手に関するネタは、さっき教室で言ったとおりだ」
宇野くん情報では、2組のバレー部員ふたりは、実力はそこそこで、どちらかと言えば守備的なプレイヤー。
バレー部員ではないメンバーの動きも、目を見張るようなずば抜けた雰囲気の子はいないようだった。
準備運動の最中にそのことを宇野くんに伝えたところ、彼からは「良い観察眼だなぁ」との答えを頂戴した。
当てにならないと思っていた自分の第六感は、意外なことに正しかったらしい。
「そもそも、オレたちはさっき2年生に勝ってきてるんだから、なーんにも心配することはない。さっきみたいにやれば絶対大丈夫だから」
「お、ノせるねえ」
「あったりまえじゃん」
玲音がふんわりと言葉を被せると、それに答えるようにして宇野くんは玲音の肩にがっちりと腕を回した。
「なんたってオレは、このクラスなら決勝戦にも行けると思ってるからな!」
「マジか」
「マジだ」
「なに、俺たちってそんな強いの?」
「強い。間違いなく強い。全員に武器があるから、間違いない」
力説。
さっきのふんわりした口調が完全に消えて、わりといつのも宇野くんに戻っている。
でも、もしかするとこの調子の方がウチのクラスにはハマりがいいかもしれない。
全員の目の色が少し変わってきたように思えた。
「っしゃー! 円陣いくぞー!」
完全に熱血モードに切り替わってしまった宇野くんの音頭で円陣を組み、大きく叫ぶ。
正直、これで対戦相手を威嚇している感もあった。
実際、2組のコートに立っている出場メンバーは目に見えて引いている感じが伝わってきた。
応援席の生徒もざわついているようなので、そちらにも効果的だったらしい。
まぁ、いい。
その少しでも気圧された感を見られただけでも、この円陣には意味がある。
ちなみに、ネット際のところでも同じ様なノリで、バスケに出ていた男子たちが雄叫びを上げ続けている。
これでは何だか、ウチのクラスしか声を出して応援していないような雰囲気さえあった。
もしや、やたらと見慣れない人が多いのも、この『応援』が気になって来た人が多いせいだったりするのだろうか。
気になっていたのは亜紀子が立っている位置だったが、その心配はあまり要らなさそうだった。
神流と同じようにエンドラインの近くで、しかもバスケに出ていた男子の陰になってあまり見えないようなところに立っている。
ただ、物理的に陰になってはいるけれど、その声は全く陰にはなっていなかった。
その意味でも安心だった。
じゃんけんという名の厳正な判定により、7組のサーブで始まることになった。
最初のサーバーは、当然ながら本職の人に務めてもらうことにしている。
宇野くんの出番だ。
実のところ、バレー部1年生部員の中では、宇野くんはかなりの有力選手であるという話だった。
メンバー決めの翌日に、玲音から伝え聞いた話だ。
運動部界隈のそういう話をあまり耳にすることがないボクは知らなかった。
その時は『へー、そーなんだー』くらいに大体聞き流していたのだが、いっしょに練習をする中で『違い』のようなモノを感じることが多かった。
足の運び方ひとつとっても、経験者のそれとはまた少し違ったような動きだった。
たとえば。
サーブを打つ前に、気持ちよくボールをバウンドさせている、その音。
日本代表の選手とかがよくやっているあの動き。
素人がやってもそんなに様にならないあの動きだ。
手首のスナップ音も聞こえてくるくらい。
ホイッスルが鳴る。
その直後にボールが破裂するみたいな音。
力強くも的確にコントロールされたボールは、相手コートの右奥――明らかにバレーボールが上手ではない男子の足下に飛んでいき、そのまま地面と衝突。鮮やかに先制点をもぎ取った。
哀れ、反応が遅かった男子生徒は、そのバウンドしたボールをおなかあたりに当てることしか出来ない。
当たった場所、下腹部じゃなくてよかったね。
悶絶どころじゃなかったよ、きっと。
「さすがー!」
「もう1本っ!」
威勢のいい声援はこちらサイドから途切れることはない。
「宇野くん、いいよーいいよー!」
神流も一層声を張り上げてきた。
宇野くんはガッツポーズで答える。
イイヤツだ。
そのままの流れで4連続サービスエースを喰らった2組も、さすがにそのままだとマズいと思ったらしい。
宇野くんに狙われ続けた彼の守備範囲を狭くして、その分バレー部の子が広く守るようにしてきたことで、5連続エースとはならなかった。
けれど、その分連携が乱れてしまったことで、イージーボールがこちらに返ってきた。
ごちそうさま、とばかりに宇野くんがトスを玲音に上げ、それを玲音はあっさりと相手コートへ叩き付けた。
宇野くんは相手にも聞こえるのも承知で「ワン・ツーでいくぞー」なんて言ったが、そんなこと関係なかった。
180センチの高身長、ジャンプ力もそれなりにある玲音だが、彼のいちばんの武器はやはりパワー。
野球部の次期4番候補筆頭格という話は伊達じゃない。
いつもの雰囲気は草食動物に近いのに、こういうときは完全に肉食動物になるから困った男だった。
こちらにレシーブミスが1回ありサーブ権が相手に移ったものの、相手の1番サーバーはあっさりとボールをネットに引っかけてしまった。
これは、完全に相手を飲み込みつつある。
イイ感じじゃないかと視線を宇野くんに送れば、彼も同じ事を思っていたらしく、ウインクめいたモノ――一瞬、まぶたがけいれんしているのかと思ってしまった――をしてくれた。
この時点で得点は5対1になっている。
まだまだセーフティーリードではないが、ここからまたウチのクラスには固定砲台が待っている。
その名も、高畠玲音。
こいつはサーブを打たせても、エグい。
宇野くんが今更ながらのバレー部勧誘を始める程度には、エグい。
彼が打つジャンプサーブは、宇野くんもまともに返球できないほどだった。
――ほら、そんなことを思っている間に、玲音もサービスエースを3連続で決めてきた。
たしかに宇野くんも一般生徒から比べればエグいボールを打つが、彼の武器は正確無比なコントロール。
先ほどもあまり上手ではない子の足下にピンポイントでジャンプサーブを決めていたが、彼の武器はその部分だ。
――ザシュッ!
その点、玲音は荒削りだ。
コントロールが今ひとつ。
彼のサービスエースを止めるのは基本的に相手の攻撃じゃなく、ネットだ。
「ごめんよー」
「いやいや、いいサーブよー! そのままそのまま!」
でも、宇野くんは玲音に対して、絶対に力を入れて打つように言明している。
短所を減らすよりも長所をより伸ばす方向に指導するタイプだった。
さて、また相手に移ったサーブ権は、またしても一瞬でこちらに戻ってきた。
今度は宇野くんの1枚ブロックだ。
バランスを崩したアタックを完全に読み切っていた彼は、事も無げに相手コートへとボールを跳ね返した。
この人が敵じゃなくて良かったな、としみじみ思う。
「いけー、ミズキー!」
「ミズキくんがんばー!」
さて、今度のサーバーはボクだった。
他の3人も運動部なのに、ボクがそこに割り込んでよかったのか、わりと不安だった。
エンドライン傍のふたりが名指しで応援してくれている。
が、ここは敢えて集中をしている感を装った上で見ないでおく。
ボールに念を込めるような雰囲気で、目を閉じてみる。
何だっけ。
『この一球は絶対無二の一球なり』だったっけ。
競技は違ったはずだが、別に問題はないだろう。
それくらいの気持ちを込めて、打つんだ。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
試合の模様をお送りしています。
割と居ますよね。部活で全然違う競技をやっているのに、何か本職レベルでウマい子。
次回は、瑞希のかっこいいところを。




