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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
2. 黄昏ロマンス

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2-XV. レシーブ失敗


 クラスメイトたちの喜びの声が体育館に響き渡る。

 ものすごい音量にけっこうびっくりしてしまう。

 部活のこともあってあまり大きな声は出さないようにしていた分、他の人の声に驚いてしまうのは、きっと仕方のないことだと思う。


 月雁(つきかり)高校、冬季体育祭。

 第1体育館はバスケットボールの会場になっている。

 ステージ側とその反対側で2面のコートを作っての試合。

 ステージ側ではウチのクラス、1年2組の男子バスケチームが1年8組に勝ったところだ。


「やったぜ!」


 ガッツポーズを見せながらこちらに近付いてくる彼は、素人が見てもイイ動きをしていたと思う。

 あたしはそこまで体育が得意な方ではない――人並み程度か、それよりちょっとできないくらいのレベルだとは思っている――けれど、上手かそうでないかくらいは見分けが付けられるはずだ。


「おつかれさまー」


「さんきゅー!」


 お水を受け取って、気持ちよさそうに飲む。

 ――いや、ちょっと、それは飲む勢いが強すぎるような。

 何て思っていたら、案の定少しだけ口の端から水をこぼしていた。


聖歌(せいか)ちゃん、オレにもちょーだい!」


「はーい」


 小野塚(おのづか)くんにもお水を提供。


 声を出しての応援を全力で出来ない代わりに、あたしはこんな感じでマネージャー役に徹することにしている。

 他にも試合に出ないときの合唱部の子はこんな役回りになっていた。


 ちなみに、あたしが出るのはバレーボール。

 選んだ理由は、消去法。

 バスケットボールのようにぶつかったりするスポーツは、そうでないスポーツと比べれば苦手だ、という理由。

 でも、そういう消極的な理由だって良いはずだ。

 ヘンに出しゃばってクラスに迷惑をかけるのは本意じゃない。

 これでも一応、トスくらいはできる――――たぶん。

 レシーブは、人並みくらいにはできるはずだ。

 でもアタックだけはやめとこう。

 それはバレー部員の子とか、私より運動神経の良い子に任せちゃう。

 適材適所っていう言葉を隠れ蓑に使ってしまってもイイと思った。


「……それにしても、次は厳しいかもなぁ」


「2年……何組だっけ? 相手」


「5組。バスケ部のキャプテンが居る」


「……ぐっはぁ」


 彼が出してきた情報に小野塚くんがげんなりとする。

 聞く限りでは、たしかに厳しい戦いにはなりそうだった。


 冬季体育祭は2学年合計18クラスで優勝を争うが、ベスト4くらいになると1年生クラスが残っていることはほとんど無くて、だいたいが1回勝てれば良い方だという話を聞いた。

 勝負の世界はこういうところでも厳しいらしい。


 ステージ横の壁に貼られているタイムテーブルを見ると、そろそろあたしたちの試合の時間が近づいていた。

 バレーボールは第2体育館。

 先に行って準備をしておくのも悪くないかもしれない。

 いくつかの荷物を預かって、移動しておくことにした。



 だけど、ひとりでも大丈夫と言ってしまったことにだけは、ちょっとだけ後悔してしまう。

 朝のホームルームで各学級に配布されたミネラルウォーターが、かなり重たい。

 本数を絞って持ってきているはずなのに、それでも肩にずっしりと食い込んでくるような感じがした。


 観戦中の人たちをゆっくりと避けながら第2体育館への渡り廊下が見えてきたところで、足早に教室のある方へと向かっていく生徒の一団を見かけた。

 あれはたしか、1年7組の人たちだ。

 吹奏楽部の高島(たかしま)神流(かんな)ちゃんの姿も見える――というか、あの子の場合は声でも充分わかる。

 間違いない。


 でも、『彼』の姿は無かった。

 教室に向かっていくということは、7組の試合が終わったところだろうとは思うけれど。

 どうなんだろうか。


 入れ違いになるように渡り廊下に入って、体育館側へと曲がろうとしたところでその姿を見つけた。

 ちょうどここの曲がり角と、体育館の入り口の中間点くらいのところに居る彼は、こちらの方へと近付いてくるところだった。


 ひとりだった。


 思わず立ち止まる。


「……お」


 彼の口がそう動いたように見えたと同時に、小さく手を振ってくれた。

 ほのかに胸があったかくなる。

 手を振り替えしたところで、彼がこちらに来てくれた。


「試合、やってたの?」


「うん。今、ちょうど終わったところ」


「勝った?」


「ばっちり」


 グッと小さなガッツポーズを見せてくれる。

 満足そうな雰囲気。

 きっと活躍したのだろう。


「おめでとー」


「ありがとー。……あ、でも、どうなんだ?」


「ん?」


 にっこり喜んだかと思ったら、歯切れが急に悪くなった。


「どしたの?」


「いやさ。次の対戦相手、そっちのクラスなんだよね」


「え」


 ――それって。


「待って。なんでちょっと嬉しそうなの?」


「え? え、いやー……そんなことないよ、たぶん」


 うん。

 きっと、そんなことはないはず。

 顔に出てるなんて、そんな。


 実はけっこう球技が得意な彼のことだし、かっこいいところとかが見られるかもとか思ってしまったなんて言えるわけが無かった。


海江田(かいえだ)ー。なにしてんだよー?」


「……ああ、ごめん。すぐ追いつくから、先行っててくれー」


「おっけー!」


 第1体育館の入り口付近、先に通り過ぎていった彼のクラスメイトと思われる男の子が彼を呼んでいた。

 バレー部のユニフォームを着ているところを見る限り、彼が7組のエース格なのかもしれない。


「ごめんね、呼び止めちゃって。急いでたよね?」


「いや、全然。次まで時間あるから戻ろうか、って言ってたとこだし。……それにさ」


 言いながら、彼は微笑んだ。


「ほら、それ。なんか重そうだし」


「え?」


 彼が指差したのは、あたしが肩からかけている保冷機能付きのスポーツバッグ。

 お水とかが入っていて、結構重たいのは事実。


 だけど。


第2体育館(そっち)、行くんでしょ?」


「え? あ」


 あたしの返事を待たずに、彼は慣れた感じでバッグを取った。

 そして事も無げに肩にかける。


()()?」


「あ。……ううん、行く」


 既に第2体育館に歩き出していた彼が立ち止まって、あたしに向かって名前で呼びかけてくれた。

 あの時のお願いがまだ有効なことに安心してしまう。


「ありがとね、みずきくん」


「気にしないこと」


 どうなんだろう。

 彼は本当に気にしていないような感じがするけれど、あたしはふつうに名前で呼べているのだろうか。

 でも、そんなことを訊くのはおかしい。

 バッグをどこへ置けばいいかと訊いてきた彼に答えるのだけで、今は精一杯だった。


「あれ? 宇野(うの)くん、どした?」


 荷物を置いてもらってお礼を言おうとしたところで、彼が誰かに声をかけていた。

 振り向いた彼の視線の先には、体育館の入り口のところで見かけた彼のクラスメイトの姿があった。

 宇野くんというらしい。


「忘れ物してさぁ……。あ、あったあった」


「時計か」


「そ」


 外したスポーツウォッチをステージ脇に置いたまま帰ってしまったらしい。


「ま、ついでだ。海江田、次の相手の対策を話しておきたいんだけど」


「ん。おっけー」


 そう言って立ち去ろうとしたみずきくんは、首だけでこちらを向いた。


「それじゃあね」


「うん。……ありがとね」


「いえいえ」


 ひらひらと手を振って、クラスメイトといっしょに帰って行く彼。

 その姿を何となく見送っていると、そのクラスメイト――宇野くんもこちらを向いた。


「何。カノジョか? カワイイじゃん」


 わざとだろうか。

 試合の切れ目で少しだけ静かになっていた体育館。

 あたしにも聞こえる声で言って、チラっとだけあたしを見て、そのまま彼の脇を肘で小突いた。


 そういうふうに見られて、あたしは、どう思えばいいのだろうか。


 ――嬉しくないわけでは、ないのだけど。


 でも、きっと彼は。


 たぶん、『そんなんじゃないよ』とか、『違うよ』とか、言うのだろう。


 去年、音楽室を使った勉強会のとき、そんなふうに言われたのを少しだけ思い出して――。


「……だったらいいけどな」


「え」


 予想しなかった彼の答えに、あたしは動けなくなった。





 ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


 そこまで深く考えてない一言だったみたいですね。

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