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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
2. 黄昏ロマンス

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2-8. ハプニング・ミーツ・ハプニング


 ホワイトデーの朝を迎えた。


 もしかすると、迎えてしまった、と言うべきなのかもしれない。


 記憶の中に残っている時計の針は3時過ぎだった。

 現在時刻は、まさかの6時前。

 2時間も寝てないらしい。


 原因はもちろん、机の上に置かれているプレゼントたち。

 これをどうやって渡したら良いものかと悩みながらベッドに入ったのが23時過ぎのこと。

 いろいろと考えつつも何だかんだで眠くなるだろうと思っていたけれど、その考えが本当に甘かった。

 日付が変わったあたりで襲ってきた睡魔をやり過ごしてしまったのが、まさに運の尽き。

 そこからは堂々巡り。

 眠気はやってこないし、いいアイディアも降りてこない。

 二進(にっち)三進(さっち)も行かないままで、結果はコレだった。


「くふぁあ……あぇ?」


 欠伸をかみ殺しながら洗面台の鏡に映った自分を見て、ほんのちょっとだけ眠気が消える。

 ものすごく年を食ったような顔をしていた。

 危うく『お前、誰だ』と訊きたくなるくらいだ。

 こんなタイミングで睡眠の大事さに気が付くなんて思わなかった。 


「これは絶対、どっかの授業で寝るな……」


 体育の授業が無いのが、救いなのかどうなのか。

 体育の後の授業は寝てしまう生徒が少なくない。

 そこに紛れることが出来てしまえば良いのか。

 いやもう、正解なんかわかりやしない。

 昨日からボクは、正解というモノが全くわからなくなっていた。




                ○




 諸々の準備をし終えて手持ち無沙汰になった結果、家を出たのは7時ちょっと過ぎ。

 いつもと比べてもかなり早い。

 最寄り駅近くのコンビニに寄っても、高校の最寄り駅近くのベーカリーでいつも以上に買うパンの品定めに時間を使っても、まだ時間が余っていた。


 そして、さらに残念なことに、睡眠不足で思考回路が正しく機能していない。

 何か名案でも浮かんでくれるかと思ったけれど、今のボクの脳細胞には無理難題だったらしい。

 今朝出来たことは、何とか8時ちょっと前まで時間を巧く経過させたことだけだった。


「……はぁ」


 ため息交じりにカバンの中に仕込んでいるプレゼントを見つめる。

 吹奏楽部女子陣へのお返しもあったので、今日はいつものカバンに加えて大容量のスポーツバッグも持ってきていた。

 ぱっと見運動部に所属している学生だったと思う。


 ――というか、なんで自分がこれを持ってくる担当になっているんだろう。


 机に突っ伏してぼんやりとしているウチに、あれほど夜中に来てほしかった睡魔がやってくる。

 朝のショートホームルームまでは30分以上ある。

 寝るなら今のうちだろうか。

 でも、その後しっかりと目を覚ました状態で1時間目の授業を受けられる自信もない。


「あれ? 誰かいる……?」


「……ん?」


 そんなタイミングで、ドアの方から声がする。

 然程大きな声ではないけれど、よく通って聞こえたそれは、聞き覚えのある声で――。


「あれ? ミズキくん?」


「……ん、おはよー、亜紀子(あきこ)……」


「え?」


「……あ」


 あ、しまった。

 無意識で返事したら、名前で呼ばれたままに名前で呼び返してしまった。


「あ、ごめんっ。何か、この前のときのまんま……」


「う、ううん! 全然、謝る必要なんてないし! むしろ……、っていうか、私がずっとミズキくんって呼んだままだし」


 そうなのだ。

 送られてきたメッセージも『みずきくん』呼びのままだった。

 訊こう訊こうと思いながら、その機会になかなか巡り会えなくて、結局そのまま放置してしまっていた。


 どうしよう。

 今、ここで訊くのもひとつの案としてはあるのだけど。


「あのね?」


「ん?」


 ボクが訊くよりも先に彼女の方から質問が飛んできた。


「もし、嫌じゃ無かったらだけど、そのままがいいかなー、なんて思ってたりするんだけど……」


「え」


 そのまま、って言うのは――。


 名前で呼んで、っていうこと?


「どうかな……?」


「……別に、ボクは構わないけど」


「ほんと?」


 肯く。

 ちょっと大きめに。

 わかりやすいように。


 すると、少し緊張していたような彼女の面持ちが、いくらか晴れたようになった。


 ――緊張していた? 


 気が付かなかった。

 今、こうして笑顔になっている彼女を見て、ようやく気づけた。

 ボクもいっしょになって緊張していたということなのかもしれなかった。


 というか、これって。


 もしかすると、今が最大のチャンスなのでは?


「あ、あのさ!」


「はいっ!」


 妙に声が大きくなったせいで、亜紀子の返事も緊張したものになってしまった。

 ダメだダメだ、そんなことじゃ。

 ひとつわざとらしい咳払いを挟んで、自分の心を落ち着かせる。

 さらに深呼吸をしつつ、カバンの中を探る。

 小分けの袋に貼っている付箋をチェック。

 ――これで間違いない。


「……これ、なんだけど」


「え? ん?」


 付箋を外すのを忘れずに、亜紀子に差し出す。

 ある意味当然か、状況が飲み込めていないのがありありと解るような反応が返ってきた。


「今日、ホワイトデーでしょ? お返しにってことで」


「……え? あ!」


 気付いたらしい。


「え、だって、私あの時」


 たしかに彼女は、お返しは要らないとは言った。

 それでも、やっぱり、と言う話。


「その……チョコの方はそう言ったかも知れないけどさ。それに、演奏聴いてくれたお礼もしないとな、って思って」


「でも、演奏聴かせてくれたからチョコを……」


 たしかにそうなのだ。そうなのだけど――!


「だったら、また聴いてよ。聴きに来てよ」


「え?」


「いっしょに来てよ。そのチケットだと思って、受け取って」


 かなり強引だったかもしれない。

 けど、ここまでして受け取ってもらえないのは――。


 そうまで考えてしまって、一瞬だけ自己嫌悪に陥りそうになる。

 自分が今言いたいこと、目の前の彼女に伝えたいことは、そういうことじゃないんだ。


「コーヒー風味のショコラクッキー。……それの、ちょっと甘めのヤツだから。マスターのカフェラテにも合うはずだし」


 ごまかしきれているのかわからないけれど、それでもさっきの圧の強さをごまかすように言う。

 実際にそのクッキーを彼女に対して選んだは、そういう理由もある。

 甘めのコーヒーが好きな彼女には、少し甘やかしてあげられるくらいの甘さがちょうど良いと思った。


「だからさ、軽い気持ちで受け取ってもらえると、ありがたい……かな」


「……そっか」


 微笑んだ。


「……うん、わかった。じゃあ、ありがたくもらうね」


「そうしてもらえると助かるかな」


 いっしょになって、笑った。


「そういえば、前もこんなことあったよね」


「たしかに」


 あの日も意図せずに早く学校に来てしまったことを思い出す。

 でも、あの日は亜紀子以外にももうひとり――



「おっはよー!」


「うわあ!」「ひゃあ!?」


 高島(たかしま)神流(かんな)、襲来。

 噂をすれば影がさすなんていうけれど、そんなこと今は求めていない!


「びっくりしたー……」


「神流、マジで心臓に悪いから勘弁してくれよ……」


「あはは、ごめんごめ……んんん?」


 からからと笑っていた神流の顔に陰がさした。

 彼女の視線を追ってみると、そこにあるのは亜紀子の手――というかむしろ。


「あ!?」


「ちょっと待って、ちょっと待って! え、なにそれ! もしかして! ホワイトデーのとか!?」


 入れ食いレベルで食いつきやがった。

 想定していた範囲では最悪レベルの展開――『渡しているところを誰かに見られる』の中でも、いちばん面倒なタイミングで、いちばん面倒なヤツに見られた。


「え、えーっと……」


「ウソ、マジで?」


 今まででも最高レベルの圧しの強さに、亜紀子は完全に圧倒されていた。

 これはいろいろマズい。

 おかしな方向に飛び火して、下手すれば国土の何割かを焼失させるような大火災に発展しかねない。


「ちょ、ちょっと待った!」


「……なによ。私、今忙しいんだけど」


 ああ、ほら。

 詰問する気満々じゃねえか。


「これ! お前に!!」


「……え?」「は?」


 気の抜けたような反応がふたつほど返ってきた。

 面倒なので、神流の手の中に強引に押し込んだ。


「この前の雪まつりのときのヤツ、あれのお返しだから! それじゃ!」


「あ、こら! ちょっと待てー!!」


 三十六計逃げるにしかず。

 何か前にも似たような事があったような気がするし、かなり無責任だとは思うけれど、もう知らない。

 思わぬカタチで完全覚醒してしまった意識に感謝しつつ、男子トイレへと駆け込んだ。








ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


さて、ホワイトデー・午前篇でした。

……若干、今後が不安にもなるような展開でしたが、どうなることやら。

お次は午後篇。

残すところ、あと……いくつかな?

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