2-5. ミッション・コンプリート……?
喜色満面な玲音。
そして、興味津々な祐樹。
どいつもこいつも、井戸端会議好きのおばちゃんか。
ウチの母さんを相手にしているような気分になる。
――オバチャン呼ばわりにキレる姿が目に浮かんだ。
「え? マジでそうなの?」
「いや、言ったじゃん。ウチの母さん用だって」
「……ツマんないなー」
あまり表情を崩さず、口調だけは残念そうな玲音。
彼の持ち合わせている雰囲気のおかげでそこまで嫌な気分にはならないけれど、そういう目的で君たちをここに連れてきたわけじゃないんだよね。
そんなことを思っていると、今度は祐樹のターンになったらしい。
「そう思わせておいて実は……、みたいなことは無いのか?」
「無いな」
「えー、即答する?」
「無いモノは無い。無い袖は振れない」
「えー?」
しつこいな。
「そこまでして、ボクを何かに仕立て上げたいのか?」
「いやいや。何か、他にいるような気がするんだよなぁ……」
なかなかあなどれない祐樹の第六感。
何とかポーカーフェイスで乗り切ることにしてみよう。
「女子の陰ってヤツ?」
「そうそう。だってミズキだし」
「どういう意味だよ」
玲音くん、そこで助け船を祐樹に出さないでくれ。
野球部の連携プレイをそういうところで発揮しないでもらいたかった。
っていうか、祐樹よ。
――『だってミズキだし』って。
そこにどんな意味を込めたんだ、君は。
「でも、実際さー。瑞希って、吹部の娘たちといっしょにいること多いでしょ? その娘たちには上げないの?」
「それはもう買ってある」
「ほら!」
びしぃっ!
――なんて効果音がつきそうなくらいに、ボクに人差し指を突きつけてくる祐樹。
残念だが、君は大きな勘違いをしている。
「吹部の男子部員で金を出し合って買ったヤツなんだな、これが」
「……チェッ」
祐樹は下手くそな舌打ちをした。
話は最後まで聴こうな。
「ほら、もう。さっさと行くぞ」
「うーっす」
「へーい」
ふたりとも、何となく不満げな様子だったが、仕方が無い。
まずは玲音から。
先ほど見せたパンフの中で彼がいちばん食いついた、焼き菓子系のアソート。
ここで紹介されている中でもわりと評判の良いお店のものだ。
在庫があるかどうかが少し心配だけれど、その場合は他の似たようなものを選ばせれば大丈夫だと思う。
とりあえずふたりをそのお店へと連れて行くことにした。
「それにしても、デパ地下なんてほとんど来たことないや」
「俺もだなぁ」
「……やっぱそんなもんか」
個人的にはあまり好きではない、『ナントカ離れ』という言葉の中にもそんなものがあったような気がする。
意識して来ようと思わない限り、やはり高校生男子がこういうところには来ないだろうか。
思い返せば、同じように制服を着た同年代の同性の子はほとんど見かけたことは無かった。
「瑞希は結構来るの?」
「まぁ、そうだなー……、だいたい週1回くらいのペースかなぁ」
「なるほどな。そりゃあ、どこに何の店入ってるかは解ってるわけだ」
「だいたいはアタマに入ってるかもね」
――あ、これ新商品だ、とか。
そんな感じで見るのが楽しかったりするわけで。
「何度も通っていれば自然と地図がアタマの中に出来てくる感じかな」
「すごいなー」
「……あー、まぁ、レオはそうかもな」
玲音の感嘆するような声に、祐樹が何かを思い出してしまったような苦笑いをした。
「そうなの?」
「こいつ、方向音痴ってほどではないんだけど、地図はそんなに得意な方じゃないんだよ」
「そうそう」
「へえ……」
ちょっと意外な情報だった。
料理の苦手な祐樹に、地図が不得意な玲音か。
記憶の片隅に止めておいても損は無さそうだ。
「初めて行くような場所は、まぁムリだね」
ははは、と苦笑いする玲音。
来年の修学旅行のときとか、大変かもしれない。
そんなことを言っている内にあっさりと到着。
壁沿いの少し奥まったところにあるが、スペースは広い常設店舗だ。
「玲音が見てたお店はここ」
「おー、ありがとー」
玲音はまったりとした感謝を告げると、すぐにショーケースの中身を吟味し始めた。
一緒になって眺めてみる。
どうやらパンフレットに載っていたのは、ちょうど真ん中のグレードらしい。
予算的にもいろいろと思うところがあるようだ。
「……んー」
迷ってる、迷ってる。
こういうのを見てしまうと、彼女のことを大事に思ってるんだなぁ、なんて思ったりする。
プレゼントの相手を想って悩むということは、きっとそういうことなのだろう。
中2のときから付き合いはじめた、という話は前から聞いていた。
そのままいっしょの高校に来るくらいだし、きっと――。
「なぁ、ミズキ?」
「……んぁ? ああ、ごめん。何?」
反応がちょっと遅れてしまった。
いつから呼んでいたのかわからないが、祐樹が肘で小突いてきた。
「コイツ、悩み始めると結構時間かかるんだよ」
「マジ?」
「マジ。この前もサポーターひとつに10分かけてた」
意外な情報ばかりが手に入ってくる。とくに求めていたものではないけれど、思いのほか面白いネタだらけだ。
「だから、オレもココ行きたいんだけどさ」
「ああ、良いよ」
祐樹が持っていたパンフレットを指しながら言う。
案内してくれ、ということで良いのだろう。
「サンキュー、頼む」
玲音には軽く声をかけたが、聞いているのか聞いていないのかよくわからない返事をされた。
集中を途切れさせるのも悪いとは思うけれど、めったに来たことの無いデパ地下で、しかも地図に疎い方である彼を置き去りにしてもいいものか。
「だいじょぶ、だいじょぶ」
「ん?」
ボクの背後に回っていた祐樹がそのまま肩を押してくる。
「オレ、コイツよりは早く決まる自信あるから。その間に行って買って戻ってくれば大丈夫」
「なるほどね」
そういうことなら。
一度決めたときのインスピレーションを重要視するタイプの祐樹らしく、ショーケースを見た瞬間に「これ、ください!」とちょっと暑苦しいスマイル。
宣言通りに――いや、むしろ宣言以上に高速の買い物だった。
「それで良かったの?」
「もちろん」
それならば、ボクがどうこう言うことじゃない。
ああやってスパッと決められるところは、正直に羨ましく思えた。
玲音のところに戻ると、ちょうど彼が買ったモノを受け取っていたところだった。
「お、ちょうどだな」
「ああ、おかえり。祐樹も買ったの?」
「買ったよ。意外に早く決まったな、今回は」
祐樹が茶化すように言うと、会計をしてくれていた店員さんが笑った。
その声に玲音が苦笑いを浮かべる。
「……店員さんにアドバイスもらったからね」
「そこまで熱心に悩まれていたら、お声がけしたくなりますよ」
「ありがとうございます」
大きな身体をぺこりと折りたたみながら礼を言う玲音。
「優柔不断なウチの子が」と祐樹。
「ご迷惑をおかけしました」とボク。
「ふふっ……」
「瑞希はともかく、祐樹にそんなこと言われるのはなー……」
「どういうことだよっ」
店員さんといっしょに一頻り笑って、デパ地下を後にする。
駅へと続く地下街に出るところで、玲音が声をかけてきた。
「瑞希は本当に買わなくて良かったの?」
「いや、ちょっとこの後他にも寄るところあって、時間もかかるだろうから」
「どこ行くん?」
「……楽器屋」
――ウソである。
この時間ならばもう既に閉店済みだ。
「……オレらが選んでやろうか、とか言えないのが悔しいな」
「何でそこで悔しがるんだよ。門外漢だろーが」
「まぁな」
褒めてない。
「ってことだから、ボクはこの辺で」
「おっけー。サンキューな!」
「僕も助かったよ」
手を振りつつ地下鉄駅へと向かっていくふたりを見送って、その姿が完全に見えなくなったところでUターン。
もう一度、デパートの中に戻った。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます!
さて、瑞希の時間だ。
……となれば、良かったのにね(意味深




