1-17. 対決への道中
地下鉄待ちのホーム。
少し気になったので歌織に話を振ってみることにする。
「そういえばさ」
「ん?」
「そっちの3人って、何つながり?」
訊く間でも無さそうではあったけれど、話が途切れるのも変な感じがしたし、一応だ。
「同じクラスつながり」
案の定だった。
「みずきくんと同じで、助っ人枠だよ」
すみれが後ろをつないでくれる。
あっさりと会話の流れが途切れなくて一安心だった。
「そういえば、あの時にいっしょにパフェ食べたなぁって思って、歌織と聖歌ちゃんを誘ったの」
「ふーん、なるほ……ど?」
歌織と、聖歌? あれ?
「大輔は?」
「呼んでない」
「え」
「呼んでないけど勝手に来た」
痛烈。
「どゆこと?」
「……いやー、まだまだ寒いなぁ」
大輔を見ながら訊くが、僅かの間の後でスルーをしにかかる。
いやいや大輔さん、それはいくらなんでも無茶だ。
授業中に居眠りしていたら身体がビクッとなった挙げ句机を蹴飛ばしてしまったが、それでもしらばっくれようとするくらいには無茶だ。
「で? そこんとこどーなってんの、ショースケ」
「それはやめて。マジで」
懇願するようにボクの両手を握ってくる大輔。
とりあえずめんどくさいので、ほどほどのタイミングでやんわりと払いのける。
何でも、2組の教室でこの話をしていたときに側に居た彼が、『俺も行きたーい!』と叫んだところ、薄い反応を返されて結局そのまま放置されたという。
とはいえ、待ち合わせの日時と場所は聞かされたので、どうせ暇だったし来ちゃった、という話。
「……ホントに、直接呼ばれてはないのね」
「まぁね」
うん、少なくともそこで、自慢気にふんぞり返るのは違うな。
ますますこのキャラクター性に既視感を覚えてしまった。
「ところで、ショースケって何」
「……俺、コイツより背小さいじゃん?」
小声で尋ねると、大輔は親指でこっそりとすみれを示した。
「『大きくねえじゃん、小さいじゃん』ってことで、大輔を剥奪されかけたっていう」
「……おぉ」
なかなかにキツい発祥の仕方だった。
たしかに、小野塚大輔という男子はそこまで体格が良くは無い。
160センチ台の真ん中かやや下くらいの背丈だろう。
しかし、それは比較対象が悪いとも思う。
花村すみれはこの中で言えば間違いなく一番の長身だ。
170にはギリギリ届かないくらいが素の数字だろうか。
少しでもヒールのあるものを履けば間違いなく越えてくるはず。
それくらいの背格好だ。
ボクがそこまで下を向かずとも話せる女子なんて、吹奏楽部で言えば赤瀬川結花くらいだ。
「なあ、瑞希。お前なんぼあるの?」
「……178くらい」
「ほぼ180じゃんか……。同じ文化系の部活なのに何でそんな差が付くのさ」
「そう言われても……」
何を答えても正解にはならないだろう。
沈黙は金という。
そう思ったボクは、とりあえず黙っておくことにして、さらに話題を変える。
「ところで、大輔。甘いのは得意?」
「……食べること自体は嫌いじゃない」
どうしてその重要なところを暈かす?
「何の集まりなのかは知ってて来たんだよね?」
「おう」
返事は良い――というか、大輔は基本的に声の通りが良い。
おなかから出ている声なのは、合唱経験者らしさがある。
少なくとも高校から始めたのではない雰囲気もするので、わりと小さい頃から合唱団とかに所属していたりするのではないだろうか。
この界隈にも少年少女合唱団はあったはずだし、市内には全国的にも評判の良い合唱団がある。
機会があれば訊いてみることにしよう。
なにせ今は、わりとそれどころではない問題を抱えている。
「食べるのは嫌いじゃないんだよね」
「おう」
「スイーツは好き?」
「……ぉぅ」
だから、視線を逸らすなというのに。
っていうか、そこで声を小さくしたらアウトだよ。
もはやそれは自白だよ。
とはいえ、ここで無理矢理訊き出そうとしたら頑なな反応になるような気がするのは、ここまで話してきた雰囲気でも充分把握できた。
ならば、と言う話だ。
「聖歌?」
「うん?」
外堀を埋めるところから始めましょう。
同じクラス兼合唱部所属の聖歌が、ここで話を振る相手としては適任だろう。
――別の意味合いでの外堀埋めにもなるかもしれないし、主に自分のために。
「彼、甘党?」
「……うーん」
――あ、ダメだこれ。
ここでスパッと返事が来ない辺り、もうダメだ。
良くても『不得意ではない』みたいなレベルだ。
期待の新人とか待望の助っ人外国人とかそんな触れ込みで入ってきたけど、蓋を開けてみたらさっぱりでした、的な展開が手に取るようにわかる。
大輔には申し訳ないので、心の中だけで彼にこの言葉を送ることにしよう。
――『呼ばれてないなら、来ない方がいい』。
○
そんなこんなで辿り着いたいつものお店。
数日前に来たときと同じ店員さんがレジ付近に立っていて、ばっちりと目が合った。
ちょっとだけ驚いた直後訳知り顔になったのは『あら、今度は違う人たちと?』みたいな意図があったような気がした。
弁明するのも違うのでとりあえず会釈だけで誤魔化しておいた。
今回のメンバーは総勢15人。
男子はボクと大輔のふたりだけ。
頭数は吹奏楽部で来たときより多いが、テニス部員の子たち――と、一応は大輔――のレベルが未知数過ぎる。
すみれはこの会を企画したのだから、おそらくはイケる口。
聖歌は食は細いほうだけれど、甘味は好きなタイプなので戦力にはなるはず。
歌織は、前回のジャンボパフェのときに最後までスプーンを手放さなかったので、問答無用で大丈夫だ。
仲條さ――じゃなくて、亜紀子も普通サイズのパフェなら全く苦にしていなかったので、問題は無さそうだ。
「それで、サイズは?」
すみれに訊く。
「XXXLかなぁ……」
「……マジで?」
XXXLサイズとは、このお店ご自慢のジャンボパフェの最大サイズ。
どこぞの優勝カップくらいの大きさのパフェグラスを含めた高さが1メートルを余裕で超えるくらいの、まさに頂に君臨するモノだ。
吹部でチャレンジしたときはかなりキツかった。
あの時はもうひとりの男子が早々に消えて、最終的な戦力はあの場に居た半分になってしまったくらいだ。
「甘い物好きな人ー?」
「はーい!」「はーい!」――。
半数くらいがかなり自信満々に、すみれの挙手に合わせて力強く応えた。
――その自信、打ち砕かれなきゃ良いけどね。
「まぁ、みんながそういうなら、イイんじゃないかな」
ボクは所詮助っ人。
というか、ほぼ部外者。
せっかく盛り上がっているところに対して、余計に口出しするのもおかしな気がした。
そう思いながらソファに深く座ると、斜向かいの幹事席みたいな場所からすみれが笑った。
「ほらぁ、やっぱり」
「ん?」
何が?
「やっぱり、って?」
「何だかんだ言ってもみずきくんって、しっかりリードしてくれるタイプだよね」
「でしょ?」
「……そこで、何で歌織がノリノリになるの?」
オフモードの歌織にしても、妙にテンションが高い気がする。
「部活でも結構そんな感じだからね」
「別に、そこまで出しゃばってる覚えはないけど?」
むしろ控えめに――。
「『俺についてこい!』ってタイプじゃなくて、……なんて言うの?」
「『漢は背中で語るモンなんだぜ……』的な?」
何、その、舞台役者みたいな言い回し。
すみれが演ると結構様になってるから怖い。
「そうそう、それ」
「フゥーッ!」
やめて、恥ずかしい。
囃し立てないで。
何となく居心地が悪くなって視線を彷徨わせると、聖歌と亜紀子がふわふわとした笑顔でこちらを見ていることに気が付いた。
「……なに」
「いえいえ」「なんでもないです」
同時に、似たような反応。
恥ずかしいのには違いないけれど、居心地の悪さは少し消えてくれたような気がした。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
第1章のときにちらっとだけ出て来たジャリンコボーイ、小野塚くんのご紹介。
それと戦いの前哨戦とまでは言わないかもですが、そういうノリの回でした。
次は、(瑞希にとっては2回目の)挑戦の回ですね。




