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幼なじみの恋人は僕の友達 友達の幼なじみは僕のXXX 〜Crossroad Cantata (2) / Soir Sonnet〜  作者: 御子柴 流歌
1. 終わりなき旅

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1-16. 突発的なルール


 なるほど、虫の知らせはコレもだったのか。

 ほとんどすべての『嫌な予感』を的中させてしまっているような気がして、余計に胃が痛くなるような気分になる。


 せめてもの救いは、この場に聖歌(せいか)の彼氏であり仲條(なかじょう)さんの幼なじみである水戸(みと)祐樹(ゆうき)が居ないことだろうか。

 最悪のパターンは寸前のところでいろいろと回避できているのが、本当に奇跡的だった。


「あれ? 海江田(かいえだ)くん? なんで?」


 疑問符3連発の歌織(かおり)

 ある意味当然かもしれない。

 吹奏楽部のメンバーには今日の件を話していなかったし、とくにココに呼ばれるような所以もすぐには思いつかないだろう。


「仲條さん経由で、花村(はなむら)さんから誘われた」


「あー、なるほど……?」


 あまり納得していない様子だった。

 仕方ない。


「私と海江田く……」


「んんっ!」


 大きな、わざとらしい咳払い。

 ――さっきから何なの、花村さん。


「……ミズキくんが同じクラスで、私とすみれがテニス部で」


「ダブルス組んでまーす」


「あー、……まぁ、納得したかも」


 ピアノ線くらいの細い関係性がつながり合った結果だ。

 人と人とのつながりなんてやっぱりわからないモノだ。

 どこでどうつながってくるかわからない。

 最近になってまたこうして、幼なじみと幼なじみっぽいことをしていたりもするわけだし。


「あぁ、そっか。どっかで見たことあると思ったけど、吹奏楽部の海江田くんな」


 少し思考をどこかへ吹き飛ばしているウチに、先ほど大きな声でこちらに来ていた男子がボクを見上げていた。

 何となくコドモっぽい反応だ。


「学年トップレベルで演奏が巧いって言う」


「どこでそんな話を……」


「わりと有名じゃない?」


「……マジか」


 どこでどんな噂を広められているんだろうか。

 怖い、怖い。


「俺は小野塚(おのづか)大輔(だいすけ)。コイツと同じクラスで、俺は合唱部」


 なるほど。だったら見た覚えがあるのも当然だった。

 同じく音楽室を使う部活という縁もあって、会話を交わすということは少ないがそれでも交流自体が無いわけでもなかった。

 そのときにチラッと見て何となく覚えていたのだろう。

 実際、彼のような雰囲気の子は、記憶には残りやすいタイプだった。


「なぁにが『コイツ』よ。……あ、みずきくん。コイツ、クラスだと『おにょでー』って呼ばれているから、そう呼んであげて」


 おにょでー? 

 何か由来があるのだろうか。


「だー! なんで言うんだよ、それを!」


「……だったら、小輔(ショースケ)かチビスケにしてもらう?」


「それは勘弁してつかぁさい、お代官様」


「解ればよろしい」


 花村さんの反応が、何となく彼の性質を表しているような気もした。

 なるほど、ウチの部活で言うところの佐々岡(ささおか)くんタイプらしい。

 ――今頃佐々岡くん、くしゃみでもしていそうだ。


「ちなみに、その由来って?」


「声優さんに近い名前の人がいるんだけど、その捩り」


「なるほどね。……あ、海江田瑞希(みずき)ね。よろしく」


 ひとまず名前を交換して、握手。

 あまり背は高くないが、その割には手が大きかった。


 さて。

 ここで結局のところ、やっぱり花村さんにいろいろと訊いておかなくてはいけない問題点がある。


「そもそもの話、していいかな?」


「どーぞ?」


「男子、居ないの? テニス部の」


「居ないよ?」


 即答かい。


「いやさ? ホントは全員呼ぶつもりでいたわけよ、1年の男子全員」


 進級をするタイミングに合わせた親睦会、ということだろうか。

 まぁ、わりと耳にする話ではある。

 吹奏楽部でもやろうか、と言う話には一応なっている。

 こちらはカラオケとか焼き肉とか、学生向けのメニューがあって満足感が得られそうなモノをピックアップしている段階だ。


「でも、みーんな拒否」


「マジですか」


「マジマジ、大マジ。甘党男子、ひとりもいないんだもん」


 それは、何というか。


「へえ……珍しいね、それ」


「結論から言えば、ウチの学年ではみずきくんみたいな男子が珍しい、って話になったんだけどね。もはや人間国宝、世界遺産」


「あ、そっすか……」


 勝手にそんなものに指定されていたらしい。

 それにしても、どうもボクは最近、自分の知らないところでいろいろとウワサになっていたり、話のネタにされているような気がする。

 迷惑とまでは言わないけれど、複雑な心境ではあった。


「場違いじゃない?」


 自分を指差しながら訊くが、花村さんは元気に笑う。

 お淑やかそうな雰囲気も出せそうな感じだし名前もお嬢様感があるのに、彼女の場合『名は体を表さない』タイプらしい。


「全然、全然。むしろウチの男子部員よりぴったりだから」


「……それって褒めてる?」


「もちろん」


 逆に即答なのが怖かった。

 マジで、どういう意味合いで言ったのかが読めない。

 ふわふわと答えっぽいモノが、泡みたいに浮かんでは消えていく。

 あまり話をしたことがないから知らなかったが、花村さんは存外、一筋縄ではいかない性格らしかった。


「あ、そうそう」


 そんな花村さんは何かを思い出したように、何故か音量を少し上げつつ言った。


「今回は親睦を深める会でもあるので、みんな()()()()()()()()()()()()()ことー!」


「はーい!」「りょーかーい!」


 テニス部員たちの賛成の声が響く。


 ここに来てから仲條さんがボクを名前で呼んだり、名字で呼ぼうとしたら花村さんが咳払いをしていたのはこの所為だったか。

 なるほど、面倒なことを考えたモノだ。


「ということで、みずきくんもだから」


「……は?」


「っていうか、基本これはみずきくん向けルールだから」


「…………え?」


 いや、それって――。


「ルールってかむしろ、『縛り』じゃない?」


「どっちでもいいよ、別に」


 いやいや、君らはそれでいいかもしれないけど。

 ボク、ココに居るメンバーの大半と『はじめまして』ですけど。


「ということで……、ハイ」


 そう言って花村さんは『カモンッ!』とでも言わんばかりの手招き。

 文句ありげに見えそうな顔をしてやっても、全く構う素振りを見せない強心臓っぷり。

 これはもう、諦めるべき――なのだろう。


「……すみれ」


「ハイ、いただきましたー。では、次」


「え!?」


 仲條さんを、事もあろうにボクの前に突き出す暴挙に出た花村さ――すみれ。いろいろと何かを捨てるしか無さそうだ。


「……亜紀子(あきこ)


「……ミズキくん」


「ハイ、ごちそうさまでしたー」


 流れ作業みたいにするの、やめて。


「じゃあ、わたしも名前で呼んでイイんだよね?」


「そりゃもう、もちろん」


 流れに乗っかるのは歌織だった。

 そういえば、以前の勉強会とかパフェ会を経て、だんだんとボクを名前で呼んでくる子は増えてきていたが、歌織はそのままだった気がする。


「タイミング逃しちゃったからね。はい、これから改めてよろしく、瑞希」


「んじゃあ、こちらこそ。歌織」


「瑞希、俺もイイ?」


 さらに流れに乗っかったのは小野塚くん。


「いいよ、おにょでー」


「え! なんで!!」


「まぁ、……すみれがそう呼べって言ったし」


「ん、合格」


「くっそー! なんでみんなコイツの味方なんだーっ!」


 すみれに謎の採点をされながらも、無事におにょでーをイジることができた。

 ――まぁ、どこかのタイミングでふつうに大輔と呼ぶだろうけど、時々はニックネームで呼んでやろう。


 ――と。


 妙に静かになっている、歌織の右隣の人影に視線を移してみた。


 聖歌は、歌織の横に立って視線を彷徨わせていた。

 どうしようか迷っているという感じではなく、このままで居れば誰にも何も言われずにこの流れが途切れてくれるのではないかと期待しているように見えた。


 実際にどうなのかはわからないが、ボクとしては、ここまで来て無視するのはさすがにおかしいと思った。


 それに――と思い出すのは、先日の楽器店。

 あの時どういう意図で名前を呼んだかは少しだけ気になったが、それ以上に、あの日以来ボクが彼女のことを名前で呼べていないということに気付いてしまっていた。


 だから。


「……聖歌?」


「え?」


「いや、ほら。……名前で呼ぶ流れだから」


 ごめん、聖歌。

 これはただの照れ隠しみたいなモノだ。


 何となく昔に戻れたような気分になったような、そんな安心感。


 だけれど、それと同時に申し訳ない感覚もある。

 それはこの前、楽器店でリードを見たその後の話。

 逃げるように店を出た自分に対する罪悪感のようなモノがあった。


 これが罪滅ぼしになんかなるはずはない。

 どう足掻いたって自己満足にしかならない。


 それでも、これくらいはさせて欲しかった。




ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


すみれさんは、何を考えているのやら。

……案外、なーんにも考えてなさそうですけど。


でもこの話、実はわりと分水嶺。

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